馬に蹴られて 近頃、兵太夫が、変だ。
加藤団蔵はとうに灯りを落とした自室の布団の上で考えに耽っていた。一尺と離れていない隣の寝床では、ひとつの部屋を分け合って使っている虎若が大口を開けて眠っている。ぐうぐうと寝息が聞こえてきそうなほど安らかな眠りはなんとも羨ましい限りだ。
時は子の刻に差し掛かろうとしていた。寝入りばなには賑やかだった秋虫も今は黙しており、静寂がいっそう喧しい。
夏季休暇を終えたばかりの忍たま長屋は、久方ぶりの喧噪の名残を孕んでか夜になっても上せたような心地がする。長月に入ったというのに寝苦しく、団蔵はそわそわと落ち着かない足を何度も交差させた。
眠れない時は横にならずいっそ起き上がっていた方がいいですよ。じっとしてりゃあ、いつかは眠くなります。いつだったか清八が教えてくれたのに倣って身を起こしているのに、待ちわびた眠気は一向に訪れない。それどころか、ますます目が冴える一方だった。
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