高く上った太陽の光が木の葉を透かして降り注ぐ。木を揺らさずに静かに通り抜けていく風のおかげで、木陰に敷いたレジャーシートの上は涼しい。やわらかな若芽が尻の下で潰されるが、これから逞しく伸びていくのだろう。今時らしいくすんだ水色のレジャーシートの上で、広げられていく赤いチェックの布が眩しい。
昨日SNSにアドバイスを求めた二組のうち、紺色の半袖と、ハーフパンツを選んでいた。ヘヨンも同じようにラフな格好で、なんだかペアルックのようで気恥ずかしい。年下の恋人も「よく似合っています」と満足げに目を細めていたので、及第点だろう。
「サンドイッチだけでは物足りないかと思って」
二段重ねのランチボックスは一段目がサンドイッチ、二段目が海苔巻きで埋められていた。卵サンドから、ベーコンとトマトに千切りの野菜をあえたようなものまで、一目で手間暇がかかっていることがわかる。海苔巻きの隣には、小さな紙カップに詰められたタコ形のウインナーたちが、黒胡麻の瞳で物言いたげにジェハンを見つめていた。
「た、大変だったんじゃないですか? そもそもいつの間に、こんな……」
美味そうだと、一言言えばいいとタコたちの視線が刺さるようだ。ジェハンはタコたちと見つめ合うのをやめ、上目でちらりとヘヨンを見た。
「ジェハンさんが起きるのを待っている間に」
ゆっくり寝てもらおうと思うと作りすぎてしまって、とヘヨンは頬を染めた。卵が焼ける匂いに包まれて起きたことを思い出すと、ジェハンまで頬が熱くなる。ヘヨンの匂いの残るシーツを抱いて、というより両手両足を絡めて眠っていたのも、当然のように見られているということだ。タコたちの視線が痛い。
「手伝うから……次から起こしてください」
「楽しみにしています。ね、食べてください」
ほんのりブラウンがかった食パンをヘヨンの指先が摘まみあげる。ふわふわの卵ペーストに、レタスやベーコンまで入っている。大きく口を開けると、タイミングよくサンドイッチを含まされた。ほんのり甘い卵とパンに、ベーコンの塩気とレタスの爽やかさがアクセントになっている。
「ふ、まい……」
へへ、とヘヨンは笑って、自らもかぶりつく。きれいに揃ったエナメル質が、ジェハンよりひとまわり大きな歯形を残した。
「あ、」
こういったものを写真に残して、SNSにあげるのもいいのかもしれない。ひとつ食べてしまったのはご愛嬌だ。スマートフォンのカメラモードを起動し、ランチボックスをパシャリと一枚。物珍しげに眺めるヘヨンに向けると、くるりと表情を変え、指先を交差させたポーズをとった。それをもう一枚。
「何ですか、それ。ピースならこうでしょう」
ぴんと二本の指を立てて、模範的なピースサインを作って見せると、ヘヨンは「あぁ」と頷いた。
「ハートマークなんですよ。ここ、見えません? ジェハンさんも」
見様見真似で小さなハートマークを作ると、ヘヨンのスマートフォンが撮影音を鳴らす。そのままくるりと機械の向きを変えると、ジェハンを引き寄せ、カメラを構えた。画面の中に、にこやかな若者ときょとんとした顔の中年が写っている。パシャパシャとシャッターが切られ、やはりどんな顔をしたものか迷っているうちに、頬に柔らかいものが触れた。
「……外ですよ」
「誰も見てません」
お弁当も食べてくださいね、とヘヨンは何事もなかったように食事に戻った。挙動がおかしくなっていないことを願いつつ、ジェハンも海苔巻きに手を伸ばす。
寝支度を整えたベッドの中で、ジェハンは再び手にしたスマートフォンをぽちぽちと打っていた。服を選んでもらったお礼と、それを褒められたこと。広げたランチボックスの写真に、短く『楽しかった』と書き添え投稿する。間もなく、『おいしそうなお弁当ですね』とフォロワーからコメントが付いた。『俺じゃないですよ。できた恋人です』と返信し、ジェハンは頭を抱えた。これでは惚気だ。
「ジェハンさん」
風呂から戻ったヘヨンが、するりとベッドへ滑りこんだ。背後から逞しい腕がジェハンの腰にまわされ、湯上がりの体温に眠気を誘われる。
「僕も、楽しかったですよ」
とろとろと眠りに落ちるジェハンのこめかみに、ヘヨンの唇が優しく落とされた。