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    koimari

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    ジャンホ×チャンス。兄貴の話を聞きなさ〜いの回

     暖色の照明が薄い紙越しに漏れている。二人にしてはやけに広く、高級そうな花瓶や掛け軸が飾られている。いかにも悪徳官僚ややくざの秘密の外食に相応しい店だが、ジャンホと兄貴の間ではそんな重々しいものはない。「たまにはフグでも食べに行くか。ハンバーガーばかり食いやがって」と、安上がりでかわいい——自分で言うのは何だけど、兄貴の顔に書いてあるのだから仕方ない——弟分の額を小突いた兄貴は、本当にここが落ち着くらしい。付き出しの小鉢をつつく兄貴の杯が空いていることに気づき、ジャンホは普段より高価なのであろう酒を慎重に注いだ。確かに、真昼間のバーガーショップよりこういう場所の方が兄貴には似合う。自分はろくに注文もせず所在無げにジュースを啜る兄貴は見ていられない。嘘、ジャンホだけに見せる貴重な姿なので、毎度新鮮に見てしまう。そもそも相手がジャンホでなければバーガーショップに足を踏み入れさえしないだろうという自信もあった。
    「この組は今のボスの先代、親父さんのときに分かれたもので、元を辿ると釜山の——…」
     ふぐの刺身——刺身なんて久しぶりだ——は向こうが見えそうなほど薄く、もや越しに見た兄貴は「聞いてるか?」と呟いた。ジャンホはもちろんですと頷くが、兄貴は本当かと問い詰めたそうな目つきで睨む。味がわからなくなりそうな話だが、ジャンホの舌の上に乗ったふぐはちゃんとうまい。はいはいと相槌を打っている間に、ジャンホの刺身は煙のように消えてしまった。
    「……唐揚げと飯も頼んでやるから」
     空になったジャンホの皿を見て、兄貴はため息をこぼした。兄貴の刺身は、まだ半分以上残っていた。どうやら食べるペースを間違えたらしい。でも腹減ってたしな。
     ゆらゆらと揺れる蝋燭の上で、小鍋がくつくつと煮える。兄貴の話がつまらないわけではないが、普段は言葉少ない兄貴の声がずっと聴けて、薄明るく温かい部屋にいると、なんだかジャンホの思考は寄り道を始める。
     こういう場所で悪巧みをしていた場合、そろそろだろうか。廊下のあかりが透ける障子を勢いよく開いて、刺客が入ってくる、とか。一人や二人ではない。大勢でのお出ましでも、兄貴は動揺を見せないだろう。飛びかかる刺客を次々投げては蹴って、障子は木枠ごと折れそうな勢いで穴が空き、扉は外れて廊下へと倒れる。机の上をのされた刺客の体が滑り、食べかけの鍋ごと上に乗っていたものはガチャンガチャンと落とされ——それまでに食べ終わっておきたいな——倒れた火は机に、それから床へと移る。そして部屋全体が燃え上がる頃、立っているのは兄貴とジャンホだけだ。あれ?どうやって避難しよう。あとこてんぱんにのす予定ではあるが命までは取らないつもりだから、自力で避難してほしい。想像の中とはいえ、流石に火事はまずいか。でも炎をバックにジャンホを見つめる兄貴は、返り血と汗に濡れて、とびきりセクシーでかっこいいだろう。
    「……今晩、闇討ちされる予定とかありますか?」
    「お前……、ないに決まってるだろ。まあ、その先代に俺は似てるらしくてな。それはよくしてもらった」
     生き別れの兄弟だ、いや隠し子だと騒ぎになるくらいだった。酒の入った兄貴は、次第に口数が多くなる。抑揚の乏しい落ち着いた声と違い、荒々しく緩急のついた声色は役者みたいだ。
     ジャンホが顔も知らないボスの父だか叔父貴だか兄貴だかが出てきたあたりで、ジャンホは整理するのをやめた。そもそも、兄貴にそっくりの人間なんて存在するんだろうか。背だってそこいらの人間より飛び抜けて高いし、体躯だって大きくがっしりしていて。広い背中と長い脚はスーツを着るとより際立ってかっこいい。それなのに、ジャンホの戯れに仕方ないなとでも言いたげに眦を下げる目も、煙草を咥えて機嫌良さげに口角を上げる唇も、とびきりチャーミングなのに。とにかく兄貴は拾ってくれた組に恩義を感じているということ。ジャンホが兄貴に感じているように。
    「よくわかりました。兄貴のことも、知りたいです」
     物言いたげに眉を上げた兄貴に、「だめですか?」と、ジャンホはにかっと微笑んだ。湯気の向こうの兄貴は唇をもごもごと動かし、薄く開いたそこから「わかった」と決まり悪そうな声が漏れる。
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