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    クロミツ

    @kuromitsu_28

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    クロミツ

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    11/23に行われたGLCにて無配させて頂いた小話です。マルペロ♀ちゃん。
    当日はお手に取って頂いてありがとうございました!

    #マルペロ

    長女のアピール奮闘記「なあ、俺ってそんなに魅力ないのか?」
    「はあ?」

     キャンディ島、ペロリタウン。そこを治めているキャンディ大臣の私有地に建っている静かな温室に私の素っ頓狂な声が響く。相談がある、と滅多に人を頼らない姉に呼ばれたので、余程の事が起きたのかと身構えていたのだが。なんだそれは。

    「ど、どういう……?」
    「胸を強調する服を着ても、スキンシップ増やしても意識されてる気配が全くねーんだ」

     結構大きいと思うんだけどなあ、と自分の胸を両手で持ち上げている。それ、止めなさいね。ああ、ボディラインが出るような服を最近選んでいたのはそういうことかと合点がいった。

    「ペロス姉さんに意中の人がいたなんてびっくりよ」
    「うん? まあ、な……」

     相手にされてないけど、と笑った声は普段の姉からは想像できない程小さく、窓の外に視線を外した顔はどこか悲しそうだった。あのプライドが高い姉がこんなになるなんて。どこの馬骨野郎なのかしら。ちょっとお話したいのだけど。

    「女に見られてねぇんだろうなぁ。まあ、たっぱも俺の方があるし、年上だし。いや、うーん、そもそもどうこうなりてーってのはあんまり考えてなかったかもしれん。こっち見てくれねーかな、ってくらい?」

     ずっと下の弟妹達の面倒を見て、ママの補助もして、国の事ばっかりやってきて、自分の事を後回しにしてきた姉が、他人を気にしてこんなに悩むなんて。よっぽどいい男なのかしら。ますますお話したくなっちゃうわ。
     私としても姉には幸せになってもらいたい。しかし、私もそこまで恋愛経験が豊富、という訳ではない。とりあえずの助言として、一人称を変えてみるとか、服はいつも通りで良いのではないかとか、押してばかりではなく今は引く時期にしてみたらどうかとか、そういうありふれたことだけ伝えてみた。相手がどんな人か頑なに教えてくれないから分からないけれど、年下相手なら、きっとスキンシップのやり方が明後日の方向にいっていると思うのよね。うちの弟妹達にするような。

    「ありがとな、コンポート。参考にさせてもらうよ」
    「いいのよ、そんなたいしたことアドバイスしてないもの。進展だけはちゃんと教えてね」
    「あればいいがな」

     あるわよ。なかったら相手を聞き出して叩き潰しちゃうわ。自慢の姉さんなんだから、幸せにしてくれないと。

       ◇

     コンポートに相談してから一人称を『私』に変えてみた。最初は慣れなかったけれど、外交の時にも体裁が良い。が、気を抜くと『俺』が出てしまうので、長年の癖は早々抜けないものだ、と痛感する。ママとお揃いになりたくて使い始めたんだったか。それとも女だからとナメられないようにだったか。どちらであったかもう覚えていない。
     今まで構い倒してたのなら、逆に引いた方が良いとも言われ、最近は相手を見かけても自分から声をかけない事にした。と言っても元々頻繁に会えている訳ではなかったから、見つけないように、空を探さないように帽子を深く被るようになった。
     相談したはいいが、本当にどうこうなりたいというのはないのだ。あいつの視界に少しの間でも映っていたという事実があれば、それでいい。どうせ交際だって結婚だってママの言い付け通りにしかならないのだから。
     今日も今日とて帽子を目深に被り仕事に向かう。目的地はビッグ・マム海賊団の縄張り外。他の海賊と一触即発にならないように気をつけねばならない。
     憂鬱な気分になりながら甲板で風を浴びる。今回の取引相手、気持ちわりーんだよな。ねっとりとした視線を寄越してくるじじい。毎回俺を指名してきやがって。ママのお気に入りの食材を持ってなかったらさっさと殺してやるのに。
     深いため息をつきながら島に上陸すると、件のじじいが既に待ち構えていた。相変わらずのニタニタとした目つきに、顔がひきつる。

    「やあ。よく来たね、ペロスペローくん」
    「どうも。毎回ママの為に感謝しています、ペロリン」
    「いやいや、良いんだよ。ビッグ・マムが気に入ってくれてるからこそ、こうやって君に会えるんだからね」

     乾いた笑いしか出てこない。ママ、早くこの食材に飽きてくれないかな。

    「いつもの倉庫に用意してあるから……じゃあ、行こうか」

     エスコートのつもりなのか腰にじじいの手が回され、するりとシルエットを撫でられた瞬間、悪寒が走った。きっっっっっっしょくわりいんだよ糞じじい!!もう我慢ならねえ……殺す

    「ふ、ざけ……っ!?」

     ケインを振り上げて「ふざけるな」と殴りかかろうとしたが、隣にいたはずのじじいは何故か彼方にふっ飛んでいた。

    「あんなのがお前の趣味なのかよい」

     現状が全く理解できず呆気に取られていると、頭上から声が降ってきた。なんでここにいるんだ。ここは白ひげの縄張りじゃないはずだ。なんでよりによって今、ここに。

    「……マルコ」
    「久しぶりだなあ、ペロスペロー」

     青い炎を纏った翼をばさりと羽ばたかせ、じじいをふっ飛ばした男が地面に降り立つ。一番会いたくない時に来やがって。

    「んな訳ねぇだろ。それより、ここで何してる。白ひげの縄張りとは関係ないはずだが、ペロリン?」
    「まあ、縄張り外ではあるよい。でも、ま、偵察はしとかないとな?」

     マルコはずかずかと近寄ってきて目の前に立つと、真っ直ぐこちらの目を見つめてくる。その視線が痛くて思わず反らしてしまった。

    「はぁ……取引相手ふっ飛ばしやがって、どうしてくれる」
    「取引相手? 枕でもやってんのかよい」

     その台詞にカッと頭に血が上る。なんでそんなことお前に言われなきゃならねぇ。女だからって馬鹿にしてんのか。反らしていた目線をマルコに戻して、ぎろりと睨み付ける。

    「ふざけるな」

     自分でも驚く程低い声が出た。ああ、悔しい。視界がぼやけてきた。反論したいのにこれ以上口を開いたら涙が落ちる。こんなことで涙腺が緩むなんて、だから女は嫌なんだ。

    「お、おい……何も泣かなくても……冗談のつもりだったんだ、悪かったよい」
    「うるさい、泣いてない、消えろ」

     今すぐ消えてくれ。こんな情けない姿を見られるなんてまっぴらだ。マルコに背を向け船に向かって歩き出す。もう食材なんてどうだって良かった。とにかくここから逃げ出したかった。のに、手を掴まれ引き留められてしまった。振り解きたいのに思ったより相手の力が強くて振り解くことができない。いつもなら簡単に解けるのに。ああ、これも俺が女だからだってのか。今まで手加減されてたって訳。

    「ちょ、待て、って」
    「離せ、死ね……き、らい、だ、お前なんか」

     我ながら子供かと思うような悪態である。言動すら儘ならない。果たして自分はこんなヒステリーな女だっただろうか。

    「散々好きにならせておいて、嫌いは困るよい」
    「…………は?」

     なんて? 今、こいつはなんて言った? 私がポカンとした顔をしている事に気がついたマルコは、たった今自分が発した言葉を思い出したようで、急に慌て始めた。

    「あっ! いや、その、えーっと、な……一つ確認なんだが、枕はやってないんだよな?」
    「え? はあ? やってる訳ねぇだろ、あんな気色わりぃじじい相手に。いや、え? そんなことよりお前、今、え?」

     途端にマルコが盛大なため息をついて、その場にしゃがみこんだ。手を掴まれたままだったせいで、バランスを崩し、地面に座り込む羽目になった。

    「おい?」
    「ほんとに悪かった。あの糞野郎に手、出されてんじゃねぇかと思ったら、腹が立っちまってよい……」

     ぎゅうと握られた手に力が込められ、少し痛い。

    「それに、最近避けられてる気がするし」
    「そ、れは……」
    「うん」
    「あ……その……」

     言い淀んでしまう。マルコに好意を寄せていて、気を引きたいが為に避けていた、なんて口が裂けても言えない。だって、そんなの恥ずかしいじゃないか。

    「と、とりあえず、私の船に移動してもいいか?」
    「いいよい」

     その場に留まっていると、いつあのじじいが起き上がってくるか分からないから、兎に角移動したかった。マルコにふき飛ばされてすぐ起き上がってくる一般人がいても嫌だが。万が一ということがある。

    「い、妹にな、相談したら、あんまり押してもダメなんじゃないか、と言われたから…」
    「うん」
    「だから、その、つまり」
    「うん」

     こんなに口が回らないことが今まであっただろうか。恥ずかしさが勝って言葉が出てこない。こいつはこいつで私が喋るのに頷くだけで、自分から喋ろうとしてこないし。手は繋いだままだし。

    「お、お前、が、す、す…………」
    「うん」

     たった二文字の『好き』を言うだけなのに、こんなに緊張するんだな。ママも言ったことあるのだろうか。緊張した?しないか。やっぱり、これ、私ばっかり恥ずかしい気がするんだが。

    「俺はお前のことが好きだよい」
    「!?」

     なかなか二文字目を発しない私を見かねたのか、マルコからさらりと告白されてしまった。さっきまで私が喋るまで待ってたくせに。決心がつかないのを見透かされているのだろう。そういう所が、まあ、好きな訳ですけれど。
     お前は?というように、私の手をマルコの指が撫でている。そんなの言わなくても分かるくせに。

    「……私も、好き、だ」
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