全身オレンジカラーをした小物とハッピをまといサングラスをつける夏目の姿に思わず突っ込む青葉つむぎが見たいだけだった…(自供)
オレンジ色のペンライトの海が広がる観客席。光源の強いスポットライトがステージを照らし、歌い踊る四人の汗がきらきらと反射する。その顔に浮かぶは今が最高の瞬間だと言いたげな誇らしい笑顔。Trickstarのオンステージ。彼らの弾けるきらめきを閉じ込めたステージを見ればたちまち心を奪われてしまい、我を忘れて応援する人も少なくない。相変わらず楽しそうに歌うなと、感嘆の息を吐く青葉つむぎ。その手にはオレンジ色に光るペンライトが一本、観客席側で胸の高さで小さく振る。そう、ステージに立つアイドルに夢中になって、周りに迷惑をかけてはいけないのだ。ライブを見る際守らねばいけない最低限のマナー。ファンとして恥ずかしい行為をしてはいけない…左隣で観賞している顔見知りに声を大にして伝えたい。
「ゆうくーん!!!!今日もさいっこうに輝いてるよ~!!あぁ、今のウィンク付きの笑顔見た?!すっごいかわいかった!はぁ、マイカメラに今の表情収めたい」
「セッちゃんきもーい。盗撮なんてしたらマナー違反でライブ中止になるかもだから止めてよね。あっ、ま~くん!!えっ、今のダンスなに?!めっちゃかっこよかった…。ちょっと直接伝えてこよっと」
「はぁ~!?ちょ、ステージ乗り込みなんてしたらダメだって!それこそライブ中止になるっての!今の俺たちはアイドルじゃない、ただの観客なんだから。常識欠けてるのそっちの方なんじゃない?くまくん」
「ストーカー盗撮魔のセッちゃんに言われたくなーい」
「るっさい!べたべた依存体質野郎のくまくんのくせに!」
おでこをくっつけいがみ合う二人。互いの服装はそれぞれ推しが誰か一目瞭然な恰好をしている。いがみ合う二人を見て苦笑いを浮かべながら、右隣へ顔を向ける。
「あはは…。あの二人は相変わらず賑やかですね。夏目くんと宙くんはライブ楽しめてますか?」
「はい!とっても楽しいです~!」
「ふン。別に普通だヨ。バルくんに無理やりもらったチケットを消費しに観にきただけだかラ、楽しいとか得にないヨ」
無邪気に喜びの声をあげる宙くんと、不満げに顔を逸らす夏目くん。だけど、夏目くんの姿をじっと観察する。いつも大人っぽい落ち着いた服装を好む彼の恰好が、今はペンライトの光に負けないぐらい鮮やかなオレンジ色のハッピを着ている。背中には【明星スバル生涯推し】という白い文字が書かれている。手には何本ものペンライトを挟み、最後の悪あがきなのか分からないが、顔には大きなサングラスをかけ素顔を隠している。
「…いやバレバレですから!!!明星くん推しだってもう全身からにじみ出てますよ!!」
思わず突っ込んでしまった自分は悪くないと言いたい。