トンネル貫通初めは、寮長からの判を得るために訪れた時でさえ緊張していたローズハートの自室。だけど今は違う。時間を見つけては部屋に足を運んだ。律儀にノックをして来たことをアピールすることもあれば、あえて音を立てずにわずかに開いた扉に身体を滑り込ませてゆっくりと室内の床を踏む。軋んだ音が出ないよう慎重に。そして、机に向かって本を読んでいる丸い後頭部を見下ろしながら、ゆっくりと腕を回す。びくり、と肩をこわばらせたリドルだったが、こちらの姿を確認すれば肩を下ろして存外優しい声音で語りかけてきた。
「いらっしゃいデュース。驚いてしまったよ、透明人間になれるマントでも手に入れたのかい?」
「いえ。ただ音を立てないよう忍び込んだだけです。寮長を驚く姿が見たくて」
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