線香花火硝煙の匂いと、弾け飛ぶ色鮮やかな光
手に持った小さな花火が短くなっていく様子をじっと眺めている
赤から青、青から緑、緑から黄色、黄色から……
「あ、終わっちゃった」
事切れて真っ黒な灰になった花火を近くの水の入った桶に浸す。桶にはすでに何本もの手持ち花火が沈んでいた
「後は……これだけか」
手持ち花火をやると何故必ず一番最後に線香花火が残るのだろう、風情なのか。
左手に線香花火とマッチの箱を握りこんで、右手にはマッチを1本
シュボッ、とマッチを摩ればあっというまに綺麗な火が立ち始める。それが消えないうちに左手の線香花火へと火を移す
火を移された線香花火はぱちぱちと小さな音を立てて火花を散らしている
先程まで見ていた手持ち花火に比べれば派手さはないものの、ささやかに爆ぜるそれは中々嫌いではなく、むしろどの花火よりも好んでいて。
勢いを徐々に無くして線香花火も終わりを迎えようとしている
静かになった線香花火の先には赤く白くジッと明るい火の玉がまだそこにあった
いつ落ちるか、今か、それともあともう少し先か?
いつの日だったか……鉄梃と線香花火で競い合っていたような気がする
どちらが長く火の玉を落とさずにいられるか。そんな事に2人とも真剣になって、線香花火をそっと見つめて
それを玄翁と墨壺は優しく眺めていた
懐かしいな、なんて目を細めた時。火の玉は音もなく地面に落ちてゆっくり消えていった
あの時は私と鉄梃どっちが勝ったんだっけ。もう随分昔の事だからか、思い出せないな
……嘘だ。本当は思い出そうとすれば昨日の事のように今でも覚えられているはずなんだ
思い出せないんじゃなくて、思い出さない。
幸せな記憶は必ずしも思い出したい記憶とは限らない
幸せな記憶を懐かしむことができるのは、その記憶によって苦しくならない時だけ
二度と戻れない幸せを懐かしむのはそこそこ覚悟が要るものだったりする
「組長、もう終わりましたか。お体に触るでしょうからもう中へ入りましょう」
「……うん」
幸せな記憶は絶対に忘れない。辛い記憶も
それらをいつ思い出して、いつ懐かしむか。それぐらいは自分のタイミングで決めても良いんじゃないかな