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    shiiiin_wr

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    shiiiin_wr

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    原作ネタ・ローコラ(というよりはロー+コラ)
    コラさんの独白と最後にちょっとロー
    コラさんも任務の性質上辞表を提出してたのかな、という妄想を煮詰めました

    nontitle 通い慣れた本部の道を辿り、とある部屋の前で立ち止まる。右手を上げてノックの後、すぐに入室許可の声が返ってきた。
     一つ息を吐いてからドアノブへ手を伸ばし扉を開けると、何か堪えたような顔をしてこちらを見る養父の視線とぶつかった。
    「失礼します」
     言いながら、上官の机の前に歩み寄りまずは敬礼の姿勢をとる。海軍に入隊した頃は、「角度が悪い」「肘の位置が高すぎる」「視線は前」と、たった一つの姿勢を取るだけでもたくさん叱られた。
     海軍に入隊してからこれまでにも何百回、何千回と取った敬礼。先輩や上官の指導が厳しくて、キツイ訓練後に姿勢を保つのはしんどかったり億劫だったりと、面倒に感じたこともある。だけど、明日からはしばらくこのポーズは封印しなければならないと思うと少しだけ感慨深い。
    (海軍式の敬礼なんて、絶対にドフィの前では見せられないもんなァ)
     いくらおれがドジっ子だとしても、そんな見え見えで情けないバレ方はしたくない。明日からの自分について想いを馳せつつ、おれより少し低い位置にあるセンゴクさんの視線を見返す。僅かに陰っている養父の双眸と向き合いながら、「辞表をお持ちしました」と右手に携えていた書類を差し出した。
    「センゴクさん、これを……」
    「……あァ」
     何年か前の急な成長期の後に養父の身長を飛び越していて、机を挟んで立ったままで向かい合うとセンゴクさんを見下ろすような格好になる。おれが手渡した書類の中身をセンゴクさん改めるのを見つめながら、ぼんやり思う。
    (拾ってもらった頃は、随分デカい人に見えたけど)
     いまのおれは、身長だけならセンゴクさんを越した。いつ死んでもおかしくなかったような汚らしくて弱っちいガキが、ここまで大きくなれたのは間違いなくセンゴクさんのおかげだ。
     海兵としての実力も度量も偉大な養父にはまだまだ遠く及ばないが、自分の正義を通せるくらいには成長できたと思う。
     そのおれの“正義”に対して、センゴクさんは苦い顔を隠しもしなかった。今も、何度も言い争いをしたときの面持ちを再び浮かばせながら、おれに向かって口を開く。
    「……書式は問題ない。この辞表は、私が預かる」
    「はい」
     明日からのおれが就く任務は、ある海賊団への潜入。長期間にわたるミッションになると予想され、そして海兵が海賊団に忍び込んでスパイするという危険性を鑑みると、見せかけだとしても海兵としての地位を返上することが不可欠だった。
     納得済みのこととはいえ、海兵として身分を手放すことが少しだけ心細い。
    (ここがずっと、おれの家だったから……)
     8歳でセンゴクさんに拾われ育ててもらった時から、海軍がおれの家であり居場所だった。帰る場所を手放すというのは、やはり寂しい。
     マリージョアから下界の土地へと移住して、逃げ回ってばかりだった2年間。住む場所を確保するのも難しく、迫害の手が延びるたびに父に連れられて場所を移した。そんな生活を送った後に何も持たなかったおれを受け入れてくれたのがセンゴクさんであり、海軍という場所だ。
     必死に掴んだ居場所から一時的にでも切り離されるというのはそれなりに覚悟が必要で、それでもおれは、止めなければならない人がいる。
    (ドフィ)
     ここ数年で急速に勢力を伸ばしている新興の海賊団。率いているのはおれの実兄だ。8歳の時に生き別れた兄は、見過ごせない程巨大な悪の存在となって、北の海に君臨し始めている。
     だから、止めなければならないと思った。今更あの人をまともに兄として接することはできないが、だからと言って血を分けた兄弟という事実を無視する気はない。
     弟して、兄であるドフィの暴走を止める。これ以上、心優しい両親が悲しむような所業を見過ごすことはできない。
     海兵としての職務を果たすと宣言したとき、センゴクさんは良い顔をしなかった。むしろ、基本的にはおれの選択をいつだって応援してくれていた養父からの、生まれて初めての猛反対を受けたかもしれない。
    『ドフラミンゴはおつるちゃんが追っている。あの海賊のことは彼女に任せておきなさい。お前が挑むには、あの男は大きくなり過ぎた』
    『例え弟だとしても、お前の実力ではドフラミンゴには遠く及ばないはず。勇気と無謀は違う。はき違えるのはやめなさい』
     いつだって冷静なセンゴクさんが時には声を荒げて、時には何の色も乗せない声で淡々とおれに現実を突きつけながら。何度も話し合って、説得を受けて、センゴクさんはおれの意思を挫こうとした。センゴクさんの言うことはいちいち尤もで、だけどおれは、頷くわけにはいかなかった。
     8歳のあの日。おれはドフィへ背を向けた。あいつの元から逃げ出した。その後の台頭の結果が現在で、罪のない人たちが苦しめられているというなら、今度はもうおれは逃げちゃいけない。化け物になった兄を止めなくちゃ。
    「……その頑固さは、いったい誰に似たんだ」
    「それはきっと…………」
     父親に似たんだと思います。小さく呟いた声は、センゴクさんに届いただろうか。
    おれには二人、父親がいる。
     人であることを願って聖地も身分もあっさりと手放した実父と、正義のためならばどんな葛藤も痛みも投げ出さない養父と。二人分の父親の性質を受け継いでいるんだから、そりゃおれだって頑固な性格にもなる。
     長い話し合いの末、おれの志願は受け入れられた。任務に身を投じるための準備も、センゴクさんに辞表を提出したことで恙なく完了した。明日からおれは、センゴクさんの元から離れて海兵という身分を捨てる。
    思って、ふと心に影が差す。
    (……寂しいっていうのは、ダメだよな)
     覚悟はしている。それこそ、今回の任務に限らず海軍の入隊することを決めた時、正義のために命を失ってもいいと腹は括ったのだ。周りは海賊ばかりのドフィの元へ潜入する以上、任務の失敗=死であることは分かっている。
     だから今更、口にしちゃいけない。名残惜しいとか。寂しいだとか。センゴクさんの反対を押し切ってまで自分のワガママを貫いたおれが、弱音を吐くべきじゃない。
    「ロシナンテ」
     口をつぐむおれに、センゴクさんの声が向く。真っすぐに真剣な面持ちをした、上官であり養父の眼差しがおれを貫いて、重々しい口調のままおれに言う。
    「この辞表は、あくまでも私が預かっているだけだ」
    「? はい」
     分かってる。おれが万が一、へまをしたときのセーフティだ。失敗した海兵の責任を海軍が取らなくて済むように、事前に用意を済ませたもの。
     養父の真意が分からなくて僅かに小首を傾げてみせれば、心持ち表情を緩めたセンゴクさんが落ち着いた声音で言う。
    「預かっているだけだ。だからロシナンテ。必ずこの辞表を撤回しに、私のところへ戻りなさい」
    「!」
     言外に、自分の元に帰ってくるようにという指示がおれに下される。いつだって優しい養父の、帰る場所を残してくれるという台詞に涙腺が緩みかける。
    「っ」
     あぁ。この人に拾われて、出会うことができて、おれは本当に幸運だった。幸せだった。まともに反応が出来ないでいると、「ロシナンテ、返事は?」と促される。
    「っ、はい」
     声と共に、精一杯の敬礼を向ける。
     指示は、必ず。絶対におれは、任務を果たしてセンゴクさんのところに帰る。
     任務の途中で命を落とすことになっても仕方ないという固く強張った冷たい決意が、センゴクさんの言葉によって解され程よい緊張感へと変わっていく。
    (やっぱりまだ、おれじゃこの人には全然届かねェなァ)
     センゴクさんにはこれからも、学びたいことも、尽くしたいことも……返したい恩もたくさんある。だから、何年かかったとしてもおれは、センゴクさんのところへ帰ってくるのだ。

     ■■■■■■

    「……さん、…ラ……さん! おい、コラさんってば!」
    「ん?! あれ、ロー?」
     ぐいぐいとコイフを引っ張られる感覚で目を覚まし、視線を下に向けると心配そうにこちらを見つめている子どもの真ん丸な瞳とかち合う。夢の名残が僅かに残ったままぱちぱちと目を瞬かせると、ホッと安堵したような息を吐いた後、ローの目が吊り上がる。
    「コラさん、もう朝だぞ! 寝坊だし、何度呼んでも全然離してくれねェし……」
    「あァ、そっか。ごめんな、ロー」
     昨日は宿が取れなくて、仕方なく手ごろな洞窟の奥で野宿をした。ローを冷たく硬い石の上で寝かせるのは忍びなくて、膝の上で抱え込むようにして睡眠をとったせいで、ローはずっとおれに抱えられっぱなしになっていたらしい。
     拘束を緩めた途端におれの腕からぴょんと飛び出して「朝飯はおれが準備するから、コラさんは余計なことをするなよ!」と言い含められる。これじゃどっちが大人だかわかりゃしないが、“コラソン”から“コラさん”へと変化したローの呼び方が嬉しくて、黙って頷いておく。
    (ローの体調も、今日は問題ないみたいだな)
     手慣れた手つきで道具を取り出しメシの準備をするローの姿を見守りながら、体調の変化についても観察しておく。今日は動いても問題ないようで、少しだけおれの気持ちが落ち着いた。
     最近のローは数日おきに高熱を出している。ローの命の刻限が迫っている様がまざまざと突き付けられて、正直、おれの方も追い詰められていた。
    (あと少し。あと数週間だけ持ちこたえてくれたら、ローの命は助かるんだ)
     兄が見つけたオペオペの実という悪魔の実の能力があれば、ローの病気を治せる。制限された寿命の枷を外せる。だからどうか、それまでの猶予が欲しい。あの子の命を奪わないでほしい。無意識に心の中で祈っていると、「そういえば」とローがこちらに話しかける。
    「コラさん、なんかの夢を見ていたのか?」
    「夢?」
    「うん。さっきおれを抱いて寝てる時に」
     ローの問いかけに「どうしてそう思ったんだ?」とつい質問に質問で返してしまう。確かにおれは海軍を飛び出した日の夢を見ていて、迂闊なことを寝言で口走ってしまったのだろうかと気になった。
     おれの質問返しにローはイヤな顔をすることなく「だって」と返事をしてくれた。
    「コラさん、ちょっと笑ってるみたいだから。なんか安心してるみてェな、そういう笑い方」
    「……!」
     だから気になったんだと言われて(そうか、おれ……)と胸中で独り言ちる。
     センゴクさんの夢を見ながら、どうやら笑っていたらしい自分のことを自覚して表情が僅かに緩む。さてローにはなんて説明しようかと思いつつ「あァ、良い夢を見られてさ」と短く答える。
     いい夢だった。優しい、過去の記憶だ。
     センゴクさんと直接交わした最後のやり取り。あの日の答えを、おれはもう守ることは出来ないけど。
    (絶対に帰りますって、言ったのになァ。あれ、ウソになっちまうな)
     計画通りにローのためにオペオペの実を横取りしたら、おれはもう二度と海軍には戻れない。立派な裏切り者であり、処罰の対象だ。ローを守ってやらなくちゃいけないのにみすみす死ぬために海軍には戻れないし、センゴクさんにも合わせる顔がない。
    (……本当はちゃんと謝りたかったけど)
     ここまで大きく育ててもらったのに、とんだ親不孝だ。あの人の顔に泥を塗ることになる。己の罪深さはよく理解しているが、それでもおれは。
    (ローの命を助けるって決めたんだ。絶対に、この子を死なせたりなんかしねェ……!)
     そのためには、世界を全て敵に回したって惜しくはない。センゴクさんに顔向けできなくなってでも、やり通すと決めた。
     今となっては、潜入任務前のあの日に提出しておいた辞表だけがおれの救いだ。おれはもう、センゴクさんの養子ではないしおれの暴走であの人が責任を被らなくてもいい。
     守れなかった約束も、帰れなくなってしまったおれの居場所も、微塵も寂しさを感じないと言えばうそになるけど。
    「ロー」
    「何……、わっ、何すんだよ!」
     ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられたローが「おいコラさん!」と尖った声を上げるが、それすらも愛しかった。
     おれのかわいい大事なクソガキ。
     おまえの命を救うためなら、おれは自分の命や存在を全て賭けてでも、必ずやり抜いてみせる。

     ■■■■■■

     息を吐き出すたび、体中の骨が軋んで痛みを訴える。額から流れ落ちる血が視界を遮るのが鬱陶しくて、雪景色の中で荒く響く呼吸音は無様だった。身体から流れ落ちる血液が、雪の白さを赤く染めていく。段々と誤魔化しきれなくなっていく指先の痺れも、全身を覆う痛みが鈍く遠くなっていく感覚も、じわじわとおれに命の刻限を伝える。
     もうおれは、助からない。けど、ローだけは逃がしてやりたい。オペオペの実を食わせたローなら、この窮地を脱することさえ出来ればきっと生き延びられる。
    (ロー、お前は生きろよ。お前だけは、おれが逃がしてやるから)
     思いながら、本来の身分を明かして兄と対峙する。告げる前に、背後の宝箱に向かって二度、ローに合図を送った。
     ――M・C―01746……『海軍本部』ロシナンテ中佐
     ――おれは『海兵』だ
     おれの海兵としての宣言は、宝箱の中のローへ届いただろうか。ローに対して吐いていたウソを最悪のタイミングで明かしたおれを、ローはどう思っただろうか。
    (きっと、嫌われちまったよなァ)
     あーあ、と自身に対する残念と呆れが湧く。もっと早くに打ち明けるべきだったのに。ロー自身が真正面から問いかけてくれたタイミングだってあったのに。ローに教えちまったら絶対に嫌われるから、先延ばしにしてしまったのはおれの狡さだ。
     ここまで嘘を通したのなら、いっそ最後まで明かすべきじゃなかったかもしれないが。
    (でもおれは、お前に知っておいてほしかったんだ……ローにはおれが、どんな人間なのか覚えておいてほしかったんだ)
     酷いエゴだということは分かっている。ファミリーからローを連れ出してからずっと、おれはあいつに対して自身のエゴと甘さを押し付けてばかりだった。
     生きてほしい。
     どうせ自分は死ぬだなんて、寂しいことを言わせたくない。
     子どもにこんなことを言わせる世界を否定したい。その為に、ローの命を救う。
     おれのエゴでローを傷付けてしまったことも何度もあった。だけど最後には、おれのことを『コラさん』と呼んでくれた、強くてやさしい愛しい子どもだ。
     ローのことを愛している。だからこそ、伝えたいことがあった。
     血と苦痛で霞む視界を無理やりにこじ開けて、苦しい息の下で思う。
    (本当は、今のおれは海兵なんて名乗っちゃいけねェんだとしても……!)
     とっくの昔に辞表は預けている。養い親であり尊敬すべき上官でもあるセンゴクさんからの命令にも背いた。海軍の一員として、絶対に許されない行動に手を染めた。
     こんなおれに、もう居場所はない。思いながらも(それでも……)と心中で噛み締める。
    (おれは、海兵だ。マリンコード―01746を背負った、海兵なんだ)
     度重なる独断による行動で、おれはもうほとんどその身分を保証されていない立場にいる。だれよりもおれが分かっている。おれはローだけじゃなくてセンゴクさんにも嘘を吐いたんだ。あの人に、顔向けできないような事をした。
     けれど。そうだとしても、海兵としての誇りや生き方までは捨てたくなかった。センゴクさんに育てられ、海軍に入隊してここまで生きたおれの証を、他ならぬローには覚えておいてほしかったんだ。
    (……おれのこと、忘れちまってもいいから。ずっと覚えていなくていいから)
     だから一度だけ。いつかの未来で一回きりで良いから、お前がもしおれのことを思い出す瞬間が訪れたら、おれの笑顔を思い浮かべてほしい。海兵として生きたロシナンテのことを、お前の中に残したいんだ。
     遠ざかっていく兄や宝箱に閉じ込めたローの気配を感じながら、目を閉じる。
     兄の暴走を止めたかった。
     北の海に関する闇を暴きたかった。
     罪なき人々が苦しめられ、命を奪われるような世界を変えるために、ドフラミンゴファミリーに潜入した。
     そんな想いの先で出会った子ども。“D”の名と数奇な運命を背負ったおれの大事なクソガキ。
     お前の命を救いたい。自由を与えてやりたい。
     ローは世界政府も海軍も嫌いだろうけど、世界には悪い人間ばかりじゃないのだと教えたかった。
     そんで、しわくちゃのじじいになるまで長生きして、自由を謳歌してほしい。どうか、生きて。生き延びて、遠くまで。歩くんだ、ロー。ドフィの鳥かごも、フレバンスの呪縛も届かない遠い場所まで。
     だってロー。お前なら、どこにだって行ける。何にだってなれる。
     なァ、ロー。
     愛してるぜ。
     




    ******

    「……テン。キャプテン!」
    「? あァ、ペンギンか」
     こちらを覗き込むようにして視線を合わせてくるクルーへ「何だ?」と問えば「何だ、じゃなくて! そろそろ日も落ちてきましたし、いつまでもこんなとこで寝てたら風邪ひきますよ」と、追い立てられる。親みたいな口調で訴えてくるのを適当に受け流しながら、ゆっくり立ち上がり伸びをする。思ったよりも深く眠っていたようで、凝った身体を解していると「珍しいですね」と改めてペンギンから話しかけられた。
    「ベポもいないのに甲板でうたた寝って。キャプテン、どっちかっていうと不眠気味なのに」
     じっと見つめてくる瞳を躱しながら、「ほっとけ」と口の中で呟く。
     クルーが心配する程不眠症なわけでも徹夜しているわけでもないし、必要な睡眠時間は確保している。今日に限って珍しく甲板なんかで居眠りをしちまったのは、この日の気温に懐かしさを感じたからだ。
     コラさんと旅をしていた時に覚えた温度。コラさんに抱き込まれるようにして二人で身を寄せ合って眠った時、あの人の体温は今日の暖かさのような優しい温度を宿していた。だからつい懐かしくなって、睡魔が忍び寄って深く寝入っちまったらしい。
    (コラさん……)
     心中で名を呼びながら思い出す。ちょっとこちらがギョッとするくらいには下手くそな笑い顔だったり、おれを笑わせようとおどける姿だったり。おれの病状を心配して切羽詰まった顔色を浮かべることもあったけど、あの人は大体いつも、おれの前では朗らかな姿を見せてくれていた。
     13年前のミニオン島で別れてしまった恩人のことを思いながら傍らに掛けていて鬼哭を手に取ると、「キャプテン、さっきはどんな夢を見ていたんですか?」と怪訝そうな顔で尋ねられた。
    「夢?」
    「えェ……なんだかキャプテン、眠りながら小さく笑ってたような気がして。なんか、良い夢でも見てたのかなー、って」
    「! そうか……」
     クルーの問いかけに相槌をうちながら、先ほど見ていた夢のことを思い返す。
     郷愁が呼び水となって、コラさんと過ごした日々のことを思い出していた。
     おれの境遇を思って心を砕き、隠れて泣いていた姿。もうおれはとっくに知っていたのに、最後の最後でマリンコードを宣言して見せた声。
     コラさんと旅した半年と、その間にあの人が惜しみなく与えてくれた心と命が、おれの中には確かに刻まれている。
    (ほんと、ヒドい恩人だよなァ、あんたは)
     返事を言わせてもくれなかった。海兵だって、ずっと前から知っているって突っ込んでやりたかったのに、言い逃げなんかしたりして。
     海兵の癖に直情的だし、ズルくて臆病で……だけど、底抜けに優しくておれを全力で愛してくれた、大好きだった人だ。
     忘れない。
     ずっと覚えてる。
     それしかコラさんを手向けるすべはないのだと、あんたの養父に諭された。受けた愛に理由はなくて、その愛におれが何かを返すことも出来ないから。だから忘れずに覚えていることだけが、今のおれがコラさんに報いることができる唯一の弔いだ。
     恩人のことを想ってつい口元を緩めれば、目敏く見つけた傍らのクルーが「あ!」と声を上げる。
    「またさっきみたいに笑ってる。何ですか、思い出し笑いでもしてるんですか?」
     そんなにいい夢を見てたんですね、という台詞に笑いをかみ殺しながら頷く。
    「あァ、そうだな」
     いい夢だった。夢の中で、思い出を通して大好きな恩人と会っていた。
     おれの心の中で笑うコラさんを想いながら、鬼哭に額を預ける。
    (なァ、コラさん)
     無言で呟いた声に答えが返ってくることはもう二度とないけど、でもおれは、おれに命と心をくれた優しい海兵のことを死ぬまで忘れない。
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