心音と雨音(アレックス×ハル)納屋の扉がバタン、と閉まった瞬間、「うそだろ……」とアレックスが呟いた。
外は突然の嵐。開け放っていたドアが風にあおられ、鍵が内側から落ちた。
「大丈夫?」
「いや、閉まった。……くっそ、なんでこんな時に限って……!」
慌てて引き戸をがちゃがちゃするアレックスの後ろ姿を見て、ハルは少しだけ眉尻を下げる。
「ごめんね、こんな天気なのに手伝わせちゃって──」
「お前のせいじゃないって。俺がちゃんとドア閉めてればよかったってことなのに、
そんな、すぐ謝んなよ……」
ふたりの距離が近い。
棚と干し草の隙間、せまい納屋の片隅。体を向け合えば膝が当たるほど。
アレックスの広い肩越しに、雨の音がぽたぽたと聞こえる。
「暗くなったらまずいな。携帯持ってるか……?」
「ううん。家に置いてきちゃった」
「……マジか」
「アレックスこそ大丈夫?」
「ああ、ハルんとこ行くって言ってあるからウチは平気」
「そっか」
会話が途切れ、お互い言葉を探るように視線を彷徨わせる。
すると、惹かれ合うように視線が絡まり、お互い目を見開いた。
「……その、ごめん。扉確認しなくて」
「気にしないで。それにアレックスと一緒だから何も怖くないよ」
遠雷の音を気にしつつハルがそう告げると、アレックスは手を額に当てた。
「……あー……マジで、それ言う?」
「え? うん。閉じ込められたのがアレックスとで良かったと思ってる」
ハルが軽く笑うと、アレックスの喉がごくんと鳴った。
たぶん、無意識だ。
でも距離が近いせいで、お互いの呼吸まではっきりと伝わってくる。
「あのさ、……こんな近くにいると、俺、バカなこと考えそうになるんだけど……」
「考えるだけならいいんじゃない?」
「それっていいのか悪いのかわかんないじゃん……、ああもう……」
目を覆うように手を当て、屋根を仰ぎ見るアレックス。
ハルはアレックスの身体から伝わる熱が上がった気がして、ハッと彼の顔を見た。
「あのさ、俺……今、ちょっとヤバいかも。俺、ハルのこと……」
「──あ、それは……言わなくて、いい」
ハルが手でそれを制すと、アレックスは泣きそうな顔でハルを見下ろす。
「……なんで?」
「だって、そういうのは……閉じ込められてないときがいい」
アレックスから目を逸らしたハルは、拗ねたような口ぶりでそう告げた。
「……っ、はぁ、マジでさぁ……」
諦めたように笑って、アレックスはそのまま頭をハルの肩に埋める。
「ハルってそういうとこ……」
「ごめんね、ワガママ言ったかも」
「いや。いい。お前の言った通りだと思うし」
「ありがと」
納屋の隅、干し草の隙間の小さな空間で、お互いの心音は同じリズムを刻んでいる。
二人とも、今はそれを感じられるだけで充分だと思った。