確かにそれを承諾したことには間違いないが、いざ自分が不利の状況下に置かれると、言わなければ良かったと思わないことはない。
リビングのソファー並んで座り、テレビを点けると、嶺二と蘭丸の後輩である音也と真斗の姿が映った。とあるクイズ番組がちょうど始まり、音也と真斗は同じチームに割り当てられ、チーム戦によるクイズ対決が繰り広げられていた。最初は後輩たちの活躍を見ようと、二人は番組を見続けていたが、途中から嶺二は「勝負」を持ちかけたのだった。ただ見ているだけじゃつまらないから、ぼくたちもクイズに答えよう。勿論、負けた方には罰ゲーム、勝った方の言うことをなんでも聞く、王様ゲーム方式で、と。いつか二人で取り組んだ企画の撮影ものでも、勝負事を二人の間でやっていたこともあり、蘭丸はすんなりと勝負を受けた。
……と、小さなリビングでの戦いの火蓋が切られたのが数時間前。結果は、嶺二の勝利だった。男に二言は無いとは言えど、目の前のやけにニヤついた嶺二の顔を見ては、過去の厄介なイタズラの数々がフラッシュバックする。大抵がロクなことが無かった。手の込んだドッキリ企画のようなものから、変態じみたものまで色々と……しかも、今は二人しかいないリビングである。蘭丸は、大きなため息をついた。
「おまえの勝ちだろ。なんもねぇなら、これで終わりで良いんだぜ?」
嶺二は蘭丸の顔の前に、広げた手のひらを向ける。
「そうは問屋が卸さない! なんちゃって〜」
嶺二はソファーから離れて、急いで何かを取りにキッチンのほうへと向かった。そしてまた、忙しない態度で、蘭丸の隣へと腰をかける。
ローテーブルに置かれたのは、両手に収まる程度の長方形の紙箱。その蓋を開けると、小ぶりのサイズのチョコレートが六つ並んでいた。
「この間、ロケ先で気になって買ったチョコレート。食べてなかったなあ〜って思って」
嶺二は紙箱に挟まった、小さな冊子を開く。
「一個ずつ中身が別の味で……お酒の味がするみたいなんだ」
ローテーブルに置いた紙箱を両手で持って、蘭丸の前に差し出す。
「……てなわけで、これ。ぼくに食べさせてちょ!」
「ああ!?」
蘭丸は思わず声を大きく上げた。
「罰ゲームだよ〜? 勝った方のことなんでも聞くって決めたよね〜? あとあと、ただ手で貰うのはつまんないなあ」
嶺二は蘭丸に詰め寄り、上目遣いでねだる。
「王様ゲームでも鉄板だよね、何番と何番の人がポッキーの端と端を咥えてねってやつ」
「ガキか変態趣味のおっさんかのどっちかだな」
そう吐き捨てるも、蘭丸はチョコを手で掴み、自分の口に半分咥えた。思っていたよりも小ぶりで、唇の先で抑えようとしても、こぼれ落ちてしまいそうで、チョコの片側の端はほとんど出ていなかった。
意地悪に口角を上げたままの嶺二は、紙箱をローテーブルに下ろし、蘭丸の次の行動を待つ。その目つきに若干の苛つきを覚えた蘭丸は、すぐに嶺二の口にチョコを押し込めた。二人の口の間でチョコが割れ、中から酒……ブランデーの風味が漂い、口の中を滑り流れる。蘭丸は口移しで、チョコの苦味を嶺二の口に押し付けようとするも、嶺二は蘭丸の後頭部に手を回して、押し付けられた口から舌を絡ませた。チョコの苦味と、ブランデーの風味が二人の間で混ざり合い、溶けていく。
嶺二は後頭部に回した手を下ろし、蘭丸を解放する。口の周りに残った唾液を、舌で舐め、蘭丸を見つめる。蘭丸は睨みつけるように、嶺二を見返していた。
「満足か?」
「え? それって満足じゃないって言えばもう一個、してもらっていいの?」
そう言い返す嶺二の軽口を受け流すように、蘭丸は紙箱に残ったチョコを一つ、自分の口の中に放り込んだ。