久しぶりの二人の時間、久しぶりの嶺二の家。模様替えまでされた小綺麗な部屋にはじまり、おもてなしの域を超えた、嶺二による蘭丸の歓迎は、二人が並んでプレステに向かうと同時に、その意味が蘭丸には分かった。ゲーム画面が点き、「手加減無しだ」と宣言したものの、結果は嶺二の圧勝。負けず嫌いが高じ、ひたすら勝負に燃え、子供のように馬鹿騒ぎをした。つまるところ、馬鹿になりたかったのだ。蘭丸をもてなす部屋作り、料理、遊び、その他の気遣いのようなすべては、自分の――嶺二自身のための――快楽的一興。事務所の空き部屋に引き摺り込まれてから、嶺二の思うまま。それに気付いた時、蘭丸もまた、どこか欠乏していた欲求に気付いた。しかし、「それ」は口にしたら嶺二の思うツボだった。同時に、蘭丸にとっては口が裂けても言いたくはなかった。だから、今は流れに流されるだけだった。
「気分屋なんだよ、てめぇは」
ゲームコントローラーを握ったままの嶺二が、隣に座る蘭丸のほうを向き、口先を尖らせて詰め寄る。
「気分屋〜? それはランランでしょ。だって猫ちゃんだし」
「どういう意味だ?ソレ」
「複数の意味を含む」
睨み合うように顔を合わせ、先に折れたのは嶺二だった。嶺二は、蘭丸の下唇を柔らかく食んでら、上目遣いを向けた。
「でも、飽きちゃったから、次の遊びがしたいな」
蘭丸がコントローラーから手を放すと、嶺二は身を乗り出し、二人は床に傾れ込んだ。
* * *
夕陽に照らされた栗色の髪は、オレンジの光を放ち、思わず目を細めてしまう。
カーペットの敷かれた床に仰向けになる蘭丸は、申し訳程度に頭に添えられたクッションから顔を上げる。嶺二は、蘭丸に覆い被さるように、その胸元に頭を当て、うたた寝をしているようだった。
蘭丸は、嶺二の頭を撫で、指先に触れる髪を、さらりと指の間に通す。ふんわりとした髪の感触に、ふとした光景を思い返した。
自宅の周りを時折ウロウロとしている茶トラ猫。蘭丸の姿を見つけると、人懐っこい態度で、足周りに擦り寄る。蘭丸もその猫の頭や背中を撫でていた。暫く撫でると、何かをねだるように鳴くので、それを合図に、蘭丸はコミュニケーションを止める。下手に餌を与えると、近所トラブルになりかねないからだ。その茶トラ猫は、別の日も、また別の日も、大きな瞳を輝かせて蘭丸の帰りを待っているようだった。まるで――
「ぼくはぁ、猫じゃないぞぉ……」
「あ?」
蘭丸に覆い被さっていた嶺二が、むくりと顔を上げ、蘭丸と顔を合わせた。ぼんやりとした目つきのまま、嶺二は仰向けの蘭丸の頭を撫でた。
「猫を撫でるみたいにしてたから、仕返し」
「おれも猫じゃねぇよ」
「ぼくより猫っぽいでしょ」
輪郭をなぞるように、嶺二の手は蘭丸の髪を滑らせる。目元までかかった銀の前髪を軽くかき上げ、その額にキスをした。嶺二の大きな瞳は、何かを含ませ、まっすぐ一点を見つめている。……あいつだったら、ここでサヨナラなんだがな。
「何が欲しい」
その瞳に尋ねた。
「もっと君が欲しい」
蘭丸は思わず口角を上げた。オレンジの光をまとった前髪を軽く上げ、蘭丸は嶺二の額にキスをした。