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    yctiy9

    自創作メイン(3L,その他色々)

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    yctiy9

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    続きという訳ではないですが、後日談になります。

    【後日談】誕生!アルセイデス先生 ルール西方の森にひっそりと佇む屋敷には、古今東西の本が収蔵されている。故にニッチな知識を得るには持って来いの場所だ。書庫は本が日焼けしないように日に当たらない場所に設けられているが、頻繁に換気をしてくれているおかげかかび臭さは少ない。カオスの青い瞳が本の背表紙を横から横へと滑っていくと、ふと一冊の本に目がとまる。ゆっくりとそれを本棚から取り出すと、ホコリが舞った。表紙を見るがタイトルがすぐに読めない。この文字列を記憶の中で探し出す。
     「よかぜにさそわれて」
     それがタイトルのようだ。しかしなぜこの本が目にとまったのだろう。明確な理由は言語化できないが、なにか執念のようなものを感じ取ったことには間違いない。しかし手に取ったは良いものの、文字を読むには今のように記憶を探った上で認識する必要があるため、厚さ一センチちょっとの本でも読み切るのに相当な時間がかかる。
     「ファイェンに頼もう」
     もう少し本棚を探ると、どうやらシリーズものらしく、全八巻のようだ。カオスは残り七冊を本棚から取り出し、書庫を後にした。それらを抱えて書庫とは反対側の部屋へと向かう。屋敷はロの字になっており、ファイェンの部屋は中庭を挟んでちょうど向かい側にある。部屋の前まで来ると、カオスは両手で抱えていた本を片手に全て乗せ扉をノックした。すぐに「はーい」と可愛らしい声が返ってきて、ギィと扉が開き部屋の主が隙間から顔をのぞかせた。珍しい来客に、中途半端に開かれた扉を全開にして目を輝かせる。
     「なになに!?どうしたの?楽しいこと?」
     今にも飛びかかってきそうな勢いに、カオスは本を落とさないようにバランスを取った。
     「本を読んでほしい」
     「本?なんの本?」
     「その前に部屋に入ろう」
     二人は部屋に入ると床に座り込み、広げられた本を見る。
     「よかぜにさそわれて?うーん…背表紙にあらすじとか、あ、書いてある。くすし?のイズミは片田舎で薬屋を営んでいた。ある日、彼女のもとにいっぽーが届く。それは、双子の妹リンが魔女ののろいにかかったという…読めない!エリーゼに読んでもらおう!」
     そう言って二人はエリーゼの部屋へ向かった。針仕事をしていたエリーゼは彼らのお願いを二つ返事で了承した。
     「夜風に誘われて。えー、あらすじは…」
     薬師のイズミは片田舎で薬屋を営んでいた。ある日、彼女のもとに一報が届く。それは、双子の妹リンが魔女の呪いにかかったという報せだった。衰弱していくリンを助けるには、賢者が作る秘薬を飲ませる以外に方法がない。しかし賢者は幻の存在と言われており、その姿を見たものはこれまでに誰一人として存在しなかった。伝承では、精霊に心を捧げることで賢者が誕生すると言われているが、それは人としての生を捨てることを意味する。妹を助けるためイズミは賢者になることを決心するが…。
     「これ恋愛小説ですね。それも精霊と人間の」
     「読み聞かせしてほしい」
     「よ、読み聞かせ!?恋愛小説をですか!?無理です、ムリムリ!読み聞かせするような本じゃありませんし、そもそも恥ずかしすぎてできません!」
     カオスのお願いに全力で首を横に振るエリーゼ。しかし「そうか…」と項垂れるカオスがまるで子犬のようで、彼女の心は簡単に揺れ動いた。
     「分かりました!先に私が内容を読みます!それで読み聞かせできるか内容を判断します。それからでいいですか?いいですね?」
     そうまくしたてるとカオスは表情こそ変わらないが、雰囲気が明るくなった。まんまと絆されたが、ファイェンも喜んでいるようだし、とエリーゼは自分自身を納得させた。
     エリーゼが必死に本を読んでいる頃、ルール王都の侯爵カランサ家の庭園にて一人の少女もまた小説を嗜んでいた。麗らかな陽気の中で読む小説は心をより豊かにする。ガゼボのベンチでクッションにもたれながらページを捲る。
     「ベニータ!」
     自身の名を呼ぶ声に少女―ベニータは顔を上げた。手を挙げて近寄るのはブロンドの髪の美青年クレロ・デ・ミシガンだ。ミシガン家は王家に最も近い公爵家の一つである。彼は公爵家の一員であるとともに、さらには近衛兵隊長の肩書まで持つ、誰もが羨むような人間だ。そんな肩書だけでなく才色兼備なのだから隙がない。甘い顔立ち、そして蕩けそうな夕日色の瞳に見つめられればそこら辺の婦女子はイチコロである。それでいて女性に対して奥手であることから、特に年上の女性が可愛がる。その実、典型的な人見知りで、かつ、むっつり助平なだけであることは、彼と彼の親しい人しか知らない。そしてベニータはその親しい人の一人である。ただ周囲が勘ぐるような仲ではなく、なんでもないただの幼馴染だ。ベニータは、そんな彼がベニータの兄に対して恋心をこじらせすぎた変態であることをよく理解し、その行く末を見守る恋の女神なのである。
     「ごきげんよう、クレロ」
     「ごきげんよう。今いい?」
     「ええ」とベニータは彼に座るよう手で促す。ガゼボ中央のテーブルを挟むように彼女の前に座ると、彼はテーブルの上に紙を広げた。
     「続編の構成を考えたんだ。是非、ベニータの意見を聞きたいと思って」
     「まあ!楽しみにしてました!」
     彼女は読んでいた本を横に置いて早速原稿用紙に飛びつく。一方でクレロは彼女の読んでいた本に興味を示したらしく、手を伸ばした。
     「夜風に誘われて?ふーん、エッセイ?」
     「いえ、恋愛小説です」
     恋心を拗らせているがゆえに、あまたの恋愛小説、官能小説を読んできたクレロだが、この小説は知らなかった。クレロはあらすじに目を通す。
     「精霊と人間の恋愛小説?へー、面白そう」
     「面白いんですよ!主人公のイズミちゃんが健気で、とっても可愛いんです。この小説、一巻目は主人公と精霊、それから周囲の人間関係の大まかな紹介で、残りの七冊は…こんな風にオケアニス編だったり、ヘリアデス編だったり、これは私のおすすめのアルセイデス編です。こんな感じで一巻一巻が別軸の話になっていて、サクッと読めちゃうんです」
     ベニータは頬を紅潮させ早口で語る。その姿はまるで兄の魅力を語る時と同じである。が、彼女はそんなこと気づくはずもなく。
     「作者は…『森の天窓』?変な名前」
     「なんでも二人組で活動していたそうな」
     「過去形ってことは、もう解散したとか?」
     「あ、いえ。そもそもこの小説自体、二百年前に書かれたものです。今、私が読んでいるのはオリジナルそのままの内容ですけど、他にも現代語訳版もありますし、なんでしたら二次創作もたくさんあるので、読みたいものはなんでもおっしゃってください!」
     「とりあえず原作を借りてもいい?」
     「もちろんです!」とベニータは勢いよく小説を手渡した。
     …
     「何を読んでいるの?」
     クレロが本をずらすと、青い瞳が不思議そうに表紙の文字を追う。
     「夜風に誘われて…知らないわ」
     興味深そうにこちらを見るのはマルシア・アイレスターだ。長きに渡り王家を支えている侯爵家の一つアイレスター家の現当主である。
     「ごきげんよう、マルシア卿。今はマルシアさんの方が堅苦しくなくていいか。どうしてここに?」
     ソファに横たわっていたクレロは体を起こした。ここはクレロの現在の家である、ミシガン公爵家の屋敷だ。クレロは昼下がりにミシガン家の庭のガゼボでベニータから借りた本を読んでいた。休日にも関わらずマルシア・アイレスターがいると言うことは、何か行事でもあっただろうかとクレロは記憶を遡る。答えにたどり着く前に、マルシアが話し始めた。
     「アイレスターの領地にある公会堂を修復することになって急遽その説明に来たの。今しがたミシガン公爵への面会が終わったところよ」
     「なんでまた。そんなにボロボロでしたっけ」
     彼女は呆れた顔で首を横に振る。
     「公会堂で演劇をやっていたのだけれど、演出に使用した魔法が失敗して屋根が破壊されたの。幸い死傷者は出なかったものの、おかげで青空公会堂になったわ」
     「それでよく誰も怪我しませんでしたね」
     彼女は顰めっ面で「不幸中の幸いだわ」とため息をついた。
     「ところでその本は?」
     「あー、これは…恋愛小説です」
     「へー、あなたが。そんなもの読まずとも、あなたの場合は現実の恋愛で忙しいでしょうに。それとも何?それを参考にしようとしているのかしら」
     彼女はこちらを揶揄う。侯爵家という家柄も相まって厳格なイメージを持たれる彼女だが、親しくなるとこのようにからかってくることもままある。
     「違いますよ。ベニータ嬢がおすすめしてくれたので、借りてるんです」
     クレロはマルシアに小説のあらすじを一通り説明した。
     「今俺が読んでいるのはオレイアデス編です。年上好きには良いんじゃないかって勧められました」
     クレロは自身の好きなタイプをうっかりバラしたことには気がついていない。
     「どうです?マルシアさんも読みますか?ベニータ嬢に言えば快く貸してくれると思いますよ」
     「提案は嬉しいのだけれど、恋愛小説は得意じゃないの」
     「そうですか…せっかくおすすめのがあったんですけど。弟感溢れる可愛らしいドリュアデスとの話が気にいると思うんですけどね」
     その瞬間、彼女は咳払いを一つした。そしてしばしの沈黙の末、口を開く。
     「食わず嫌いはよくないわね」
     その答えにクレロの口角が上がる。
     「じゃあ俺からベニータ嬢にお伝えしておきます。後日、お屋敷に小説を届けさせますよ」
     彼女は顔を逸らして「…ありがとう」と小さな声で言った。
     …
     場所は森の屋敷に戻る。
     「ん〜…やっぱり王道のオケアニスが一番キュンキュンする!年下系のドリュアデスもいいんだけれど、可愛すぎて恋愛対象にはならないなあ。あー、でも不器用な感じのアルセイデスもいいなあ。普段元気っ子なナパイアイも、ここぞって時にかっこいいからキュンキュンしちゃう。ヘリアデスはちょっとオラつきすぎなのよね」
     エリーゼはベッドの上で一人ゴロゴロしながら身悶えていた。カオスに読み聞かせをお願いされて、予習として小説を全て読み切ったエリーゼは読了した余韻に浸っているのである。
     「オレイアデスも安心感がすごくて甘えたくなっちゃうけど、たまには私も頼って欲しくなって結局不安になっちゃいそう。ランパーデスは怪しげな雰囲気が魅力的だけど、ハマったら一番俗世に戻ってこれないタイプだから怖い。あー!この気持ち、誰かと共有したいー!」
     溢れ出る気持ちを抑えきれず、ベッドの上で勢いよく全身を伸ばす。ファイェンとカオスに読み聞かせしたとして、あの二人の感性ではまだこの気持ちを共有するには物足りない部分があるだろう。
     「…二次創作しちゃおうかな、なーんて」
     こうして二次創作がこの世に誕生していくのだろう、とエリーゼは他人事のように思う。そんな折り、開いた窓から柔らかな風が吹き込む。エリーゼはベッドから起き上がり外の森を見た。
     「…気のせいかしら。今、誰かに見られていたような。精霊かしら」
     けれどそれは嫌な雰囲気はなく、とても優しく心地よいものだった。エリーゼはもう一度ベッドに横たわると、再び小説の世界へと浸るのであった。
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