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    manju_maa

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    manju_maa

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    1月までに完結できたらアナコンで出したい主明小説進捗
    明智コープMAX無印エンドを初回で見た時の解釈を元にして書いております。
    三学期明智要素はありません。
    明智のメンタルがクソザコ。
    異世界の傷は現実にも反映される設定。
    途中。「」がない

    【20XX 一月】

    ヤルダバオトとのゲームは、世界を守る側のトリックスター――つまり俺の勝利に終わった。メメントスと現実世界の融合もなくなり、皆の認知も正常に戻った。
    そして、新島冴と共に獅童の立件のためにと出頭した俺はそのまま逮捕され、今は少年院で代わり映えのない閉鎖的な毎日を過ごしている。怪盗をしていた今までが過激かつ刺激的だった分、何も変わらない毎日には退屈さすら感じる。なので、それから唯一脱せる楽しみになりつつあるのが、近況報告も兼ねて来てくれる冴との面会時間だった。
    冴は妹である真伝いで怪盗団のメンバーの今の様子を教えてくれる。どうやら皆、元気に日々を過ごせているらしい。それが聞けるだけで嬉しかった。
    それを話す冴の表情も穏やかで。だからこそ、急にその表情が強ばるのを見て、自然と自分の綻んだ顔も締まる。

    「…それと、貴方にも伝えておこうと思って」
    「俺に…?」
    「ええ。……明智君の事よ」

    ───明智。
    その名前を聞いて心臓が跳ねた。

    明智。明智吾郎。
    怪盗団として活動していく上で、彼とは色々な事があった。
    怪盗と探偵として対立した。様々な会話、対決をした。仮初の仲間として共に今目の前にいる新島冴のパレスを攻略した。
    しかしそれは怪盗団のリーダーである俺を殺すための罠で。明智の中で俺は、間違いなく一度殺された。その引き金を引くのに恐らく一切の躊躇はなかっただろう。
    世間を騒がせた精神暴走、廃人化事件の実行犯であり、実の父である獅童正義への復讐心だけで生きていた男。
    ……そして、獅童の認知上の自分から俺達を庇い、シャッターの向こうに消えた存在。

    「真達にはもう話したけれど、実は…貴方が出頭した時と同じタイミングで見つかっていたの」
    「…っ!」
    「獅童のパレスで会ったのが最後だったそうだけど…だからなのかしらね。国会議事堂から離れた林の中で倒れていたらしくて。新宿の総合病院に搬送されたわ」
    「明智は…生きてるのか…!?」
    「ええ。生きてるのが不思議なくらい酷い傷で、一時はICUにも居たけど……なんとか一命は取り留めた。意識はまだ戻ってないけどね」
    「…傷…」

    それはきっと自分達との戦いによる傷と、恐らくは獅童の認知上の明智と一騎打ちした際に受けたであろう傷のはずだ。その上、あの状況で生き残ったということは認知の明智が呼び寄せたシャドウの群れもあの身体で一人で倒しきったということになる。そして、満身創痍の身体のまま現実世界に戻ってきて、そこで力尽きて意識を失ったのだろう。
    バクバクと高鳴る心臓を抑えながら、続く冴の言葉を聞く。

    ……明智君ね、ずっと自分のことは話さなかったの。聞いてもはぐらかされてばかりで。だから今になって調べてみたら母親は亡くなってるし、父親はあの獅童でしょう?一人暮らししてるのも根深い事情があるみたいで、獅童のこともあって親戚も皆して知らんふり。だから頼れる身寄りが居なくてね…。そのまま放置するわけにもいかないし、一応今は私が無理言って代理で保護責任者ということにして色々と手続きしてるの。この後も彼のところにいくつもりよ
    もしかして…毎日?
    ええ。貴方達のおかげで、真としっかり向き合えた。なら、明智君ともちゃんと向き合おうと思ってね。彼とはそれなりに付き合いが長い方だと思ってたけど、今回のことであの子のこと本当に何も知らなかったんだなって思い知らされたわ。ああやって愛想良く笑ってたのは全部演技で、その裏では獅童とつるんで異世界を渡り歩いて殺しをやってたなんて夢にも思ってなかった。私が彼のことを知らなければ知らないだけ、それだけあの子にとって私はその程度の存在だとしか見られてなかったんだって思えて、なんだか情けなくなっちゃってね
    それは……
    明智君がした事は決して許されないことよ。でも、だからといって関わりを絶とうとは思わない。彼も身勝手な大人に振り回された被害者だと私は考えてる。だから、これからはできる限りあの子に寄り添っていこうと思うの。…… 彼にとっての大人が、獅童みたいな存在だけじゃないってことを、知ってほしい。まあ、これはただの私のエゴだから、それをあの子が望んでるとは思えないけどね

    苦笑する冴に対して首を振る。
    例え明智自身がそれを望んでいないと言い張っても、明智に必要だったのはそういう明智吾郎のことを明智吾郎として見て、受け入れてくれる存在だった事は間違いないはずだから。

    「………明智を見捨てないでくれて、ありがとう」

    頭を下げる。
    それを見て、冴は『どうして貴方がそれを言うのよ』と呆れ気味に笑っていた。

    【20XX 二月】

    いつものように面会にやって来た冴から、自分が今日をもって釈放されるという話を知らされた。
    なんでも怪盗団や他の協力者の皆が自分の冤罪の証拠を集めてくれたらしい。とても嬉しい話だ。
    ……明智の意識はまだ戻っていないらしい。

    釈放手続きを冴が行ってくれて、俺は晴れて釈放された。少年院の裏門から外に出て久しぶりの外の空気を味わう。
    空は快晴。中庭に出ることはあったものの、完全なる外界に最後に出たのは出頭した冬以来だった。春の季節が近づいてきている風は少し暖かく感じる。
    近づいてくるエンジン音に顔を向けると、黄色い小型車のフロントガラス越しにこちらに手を振る惣治郎が居た。
    惣治郎の車に乗りこみ、少年院を後にする。どうやらそのままルブランに向かうらしいが、その前に行きたい場所がある事を伝えた。

    「行きたい場所ぉ?アイツら待ちくたびれてるぜ?」
    「でも、どうしても行きたくて」

    アイツらというのは恐らく怪盗団の皆だ。
    こちらとしても二ヶ月ぶりに仲間達の顔を見たい気持ちはあるが、今は───

    「まあそこまで言うなら付き合ってやるけどよ。で、何処なんだよそれは」
    「…新宿の総合病院に。明智がそこに居る」
    「……………………」

    一瞬だけ空気が冷える。
    惣治郎は表情は変えずに、静かに口を開く。

    「……見つかったってのは聞いたよ。アイツらも知ってる。だが明智の坊主はお前を殺そうとしたんだろ?それに、若葉を殺したのはアイツなんだってな」
    「…指示を出したのはあくまで獅童だけど、実際に手を加えたのは…恐らく」
    「そんな奴に会いに行くってのか」
    「行く」
    「………………」

    沈黙。
    その後に惣治郎は大きく溜息をした。

    「…分かったよ。双葉の奴もずっと気にしてんだ。お前が良いって言うなら俺からは何も言わねえ。車停めて待ってるから、行ってこい。行って叩き起してこい。こちとらあの坊主には積もる話が山ほどあるからな」
    「…ありがとう」

    駐車場で待機している惣治郎に見送られながら、総合病院というだけあって当然ながら医療ドラマで見る舞台を彷彿とさせる広さのロビーに足を踏み入れる。
    行き交う外来患者やナース、ドクター達とぶつからないように受付に足を向ける。笑顔で要件を尋ねる女性スタッフに、明智の病室の場所を尋ねた。

    「えっ…あ、明智君の、ですか?」
    「はい」
    「もしかして、お友達?」
    「………知り合いです」

    そう言うと、 明智の病室へは口頭ではなく駆けつけた担当の看護師を名乗る女性に直接案内してもらえる事になった。
    どうやら明智が搬入されてから今日まで冴しか見舞いに来る者が居なかったらしい。周りにいたスタッフ全員に驚いたような表情をされた理由はそれだった。

    「明智君ね、搬入直後は本当にもうダメかもってくらい酷い傷だったの。傷も酷いし、出血も多くて。熱もしばらく引かなくて。…本当に大変だったのよ。一体何があったらあんな酷い傷になるのかしら。君、何か知ってる?
    ……分かりません

    首を振る。
    それは嘘だ。彼のその『酷い傷』の原因を俺は全て知っている。

    ……まあそれもそうか。でもね、彼とても頑張ってくれて、つい最近やっと容態が落ち着いたの。あとは目を覚ましてくれれば安心なんだけどね

    という看護師の話を聞きながら病院内の廊下を歩いて、閉じられた扉の前で立ち止まった。
    『ここよ』と言われて手で示された部屋の扉に付けられたナンバープレートには明智吾郎の名前が書いてある。冴が気を利かせたらしく個室のようだ。

    「忙しい時にわざわざありがとうございました」
    「いいえ。彼も、起きた時に一人じゃあ寂しいでしょうから。良かったら、これからも顔を見せに来てあげてね。……あ、もし意識が戻ることがあったらナースコールを使って知らせてもらえる?」
    「はい」

    優しく微笑む女性に頷く。
    仮に目覚めた明智が俺の顔を見たら、彼は間違いなくあの整った顔を歪めるだろう。なんなら起きた事を後悔し始めるかもしれない。アイツは、俺のことが嫌いだから。

    頭を下げて持ち場に戻っていく看護師を見送り、震える手で扉のドアノブを掴んで横にスライドさせる。
    それなりに広い真っ白い部屋の奥。窓辺に置かれたベッドの上に、明智は居た。

    「──────」

    呼吸も忘れて、歩み寄る。
    色んな管が通されて、色んな生命維持装置に繋がれて、全身を包帯で巻かれたまま穏やかな顔で眠り続けている。内に秘めた思いを吐露していたあの日の憎悪に塗れた表情なんて、嘘だったかのように。

    口に装着された曇ったり晴れたりを繰り返している呼吸器が、彼が息をしているのを証明してくれている。
    ピッピッピ、と一定のリズムを保って延々と繰り返されている電子音が、彼の心臓がしっかり動いているのを証明してくれている。
    湿布が貼られていない方の頬に触れる。…温かい体温と柔らかい感触が、彼が生きてくれていたことを証明してくれる。

    ……………………

    怪盗団の仲間達がコイツを許すことはないだろう。双葉に至ってはずっと探していた母の仇だ。春だってそう。
    でも、彼女達は優しくて強いから、明智のように復讐に燃えることはないはずだ。だからといって恨まないわけではない。俺も、コイツを許す気はない。
    …そして恐らくは、明智自身も自分を許す日は来ない。
    だからと言って、関係を断とうとは絶対に思わない。冴と同じだ。もっと明智吾郎という男と話したい。聞きたいこと、言いたいことが山ほどある。
    本音を言えば、彼との会話や勝負は仲間達と話すものとは別の意味で楽しかった。だから、怪盗とか探偵とか監視とか復讐とか裏切りとか、そういうのを全部無しにして、純粋な関係として、そういうのをもっと続けたいと思っていた。
    あの日、シャッターの向こう側に銃声と共に消えていった後ろ姿を見て、もう一生会えないんだと思っていた。ずっともう少し話せていれば違う未来があったのではないかと後悔していた。どうにかして下りたシャッターの向こうに居る彼のもとに行けたらと何度も何度も考えて、涙も沢山流した。

    ……明智吾郎は決して仲間ではない。
    仲間ではないのに、離れていくその手をずっと掴みたかった。掴んで、今度こそ向き合いたい、と。
    だから、生きていると聞いた時は───本当に嬉しかったんだ。

    「明智」

    もう一度、彼の顔を見ながら話しかける。
    機械の音が聞こえるだけで、返事は無い。

    「獅童は、俺達がしっかり改心させたよ。テレビの前で罪を告白して、逮捕された」

    返事はない。

    「改心させた後もちょっと色々あったけど、なんとかなった。冴さんが頑張って、最近やっと起訴された。もう少しで裁判が始まるって」

    返事はない。

    「俺が出頭して証言して、それでやっと立件できた。おかげで少年院に昨日まで居たけど…さっき釈放されたんだ。冴さんの口からでしか話を聞いてないけど、もしかしたらもっと状況は進んでるかもしれない」

    返事はない。

    「…………明智」

    呼びかける。
    当然、返事はない。

    「お前との約束、俺は果たした。……なら、今度は俺との約束をお前が果たす番だと思わないか?」

    貰った手袋は、今も屋根裏部屋の机の中に入れてある。

    「負けっぱなしはお前だって嫌だろ」

    ……………………。

    「……なあ。明智………」

    眠り続ける明智の、包帯が巻かれた痛々しい手を包み込むように握る。
    それに反応するかのように、今まで微動だにしなかった手元が僅かにピクリと動いた。

    ……!

    すぐに視線を手元から顔に移す。
    そして、ゆっくりと半開きになった赤茶色の双眸と目が合った。

    「……あけ、ち……」
    「……っ、……………」

    何かを言おうと口を動かすも、声が出ないのか息遣いの音しか聞こえない。それをすぐ理解したのか少し顔を歪めた後、大きく息を吐いたらしく口に取り付けられた呼吸器が一気に曇る。
    声こそ出ないものの、動いた口元は『うるさい』という、起きたら真っ先に言われそうだと思っていた通りの言葉を発していた。


    その後はナースコールで彼が起きたことを伝えるなり駆け込んできた医者や先ほどの看護師に検査があるからと追い出された。明智が搬送されたのが年末であることを考えれば二か月越しの意識回復だ。そりゃあ当然と言われれば当然である。
    開け放たれた扉の向こうで、医師達の質問にこくんと頷き続けている明智の横顔が見える。こちらには一切目もくれない。
    後ろ髪引かれたままではあるが、明智が生きていて、そして目を覚ましたのならばいつでも会いに来れる。
    話すのは今日でなくてもいい。

    俺は大人しく惣治郎が待つ車に戻り、改めて仲間達との再会を果たした。



    〇 〇



    最後に残っている記憶はピストルを構える自分と同じ姿の人形の姿、大量のシャドウ達、こちらを可哀想なものを見る目で見てくるムカつく怪盗団の馬鹿共。

    彼らの足音が遠くなっていくのを聞き届けてから、人形を撃ち消して、代わりに自分も腹部に一発食らって、残ったシャドウの群れが迫って来るのが見えて。それからはもう覚えてない。痛みはあったと思う。
    ああ、これが死ぬことなんだな、と。今まで撃ち殺してきた人間達はこうして死んでいったのだろうと思った。
    未練や悔いはもうなかった。あとは託せたし、復讐を言い訳に多くの罪を犯し続けた男の末路としては、贅沢すぎる結末だと。

    ……そんなことを思いながら沈んでいく意識に身を任せたはずだったのに、うるさい声に呼び戻されるように目が覚めた。

    ぼやけた視界に映ったのは白い天井と、怪盗団の中でも特にムカつく男の、幽霊を見たかのような腹の立つ顔。
    すぐにさっきまで聞こえていた声はコイツが話しかけていたものだったのだろうと確信して、声が出なかったので口だけで『うるさい』と伝えると、呆れたような、泣き出しそうな顔で微笑んだ。
    ……コイツのこういう所が心底嫌いだ。

    自分に取り付けられた機器や管と、駆け込んできた大人達が白衣やナース服を着ているのを見る限り、ここは病院のようだった。
    しばらく医者と看護師達による検査を終えて病室らしい部屋に一人残された。
    アイツ───蓮はもう帰ったらしい。医者達が去った後に戻ってくる事はなかった。看護師曰く、保護者に連絡を入れたから来てくれると言われた。今更自分のことを気にかける大人に覚えはない。誰が来るかなんて検討もつかなかった。
    身体を動かそうとして激痛が走って止める。手だけは辛うじて動くので、上に伸ばして、自分の手を見上げた。地肌が見える隙間がないくらいに包帯が巻かれた手を握る。全く力が入らない上に痛みで指を僅かに曲げる程度で限界が来て、握り拳は作れない。
    ……でも、自分の意思で動いた。心臓もちゃんと動いている。身体の痛みも本物だ。体温も感じる。

    つまり、明智吾郎は間違いなく、生きている。……生き延びてしまった。

    (死に損ねた)

    ボトッ。
    何かの重いものが落ちる音に、目だけを横に向ける。
    部屋の扉の向こうに立つ見覚えのある女が、目を丸くしていつも肩に引っ掛けて持ち運んでいた黒革のカバンを地面に落としたまま立ち尽くしていた。
    …どうして今、コイツがこの場にいるのだろうか。
    初めて見るような間抜けな顔で立ち尽くしていた女は、すぐにいつもの冷静な顔に戻るとカツカツとヒールで床を叩きながら早足でこちらに来た。

    ……明智君。貴方、自分のこと分かる?私のことも

    女の問いかけに、黙って頷く。
    医者から今は発声は控えてと言われていたので、声は出せない。

    ───っ

    すると女の顔が歪んだ。そのまま俯いて、大きく息を吐く。
    下ろそうと力を抜いた自分の手を拾いあげるように両手で握られた。力は込められていない。彼女の体温が包帯越しでも分かる。
    ……ああ、そう言えば保護者が来るという話があった事を思い出した。蓮が追い出された以上、彼女がここまで来れる理由なんて一つしかなかった。
    保護者として名乗り出たのは、彼女だ。血の繋がりなんてないから、あくまで代理ではあるだろうけど。

    ……………良かった………本当に…………

    下を向いたそれが、今どんな顔をしているかは分からない。彼女がどういう意図で今の言葉を発したかも分からない。
    恐らく事件の重要参考人が生きていて良かったという気持ちのはずだけど。それにしてはやたらと声が震えていて。俯いた顔からは、何かがポタポタと落ちている。それが何を意味しているのかが分からない。
    怪盗団と共に自分は彼女のことも欺いて、捨て駒にしたのに。それを彼女は知っているはずなのに。なのに何故、今更自分なんかの保護者としてこの人は名乗り出たのか。何もかもが分からないけれど。

    その日──僕は初めて、新島冴の涙を見た気がした。


    〇 〇


    【20XX 五月】

    故郷に帰省して、元々通っていた学校で高校最後の一年間を過ごす。
    頻繁に行くことはできずとも連休がある日は必ず東京に向かい、明智の元に行った。
    明智は俺とは一つ上、真や春と同い年の高校三年──いや本来ならば大学生一年生であるはずの年齢の男だ。若いおかげで回復力は高く、傷の治療と筋肉を戻すためのリハビリは大変そうだが、包帯や湿布、繋がれていた点滴などの管や機械は見舞いに行くたびに減っていた。
    彼のもとを訪ねて色々な事を一方的に話した。それを聞いているのか聞いていないのか、明智はこちらを見向きもせず、ずっと窓に顔を向けている。
    風で靡く髪の間から一瞬だけ見えた表情は、表向きにと作っていたであろう探偵王子の所以たる人の良さそうな柔らかさが完全に消えていた。

    …そしてそれと同時期に獅童の裁判も始まった。
    冴曰く、獅童は全ての罪を認めている。そして獅童は全て自分がやった事だと供述しているそうだ。
    …そう、全部だ。
    元々犯していた廃人化ビジネス等のあらゆる罪の他に、その廃人化や精神暴走事件の実行犯としても獅童はその罪を自身が行ったと言い張った。獅童の裁判の担当検事を務めている冴は廃人化と精神暴走化の件は明智が実行犯という事を知っている。明智も自分がやったと冴に話しているらしい。
    なのに、獅童もまた自分がやったと頑なにその意見を変えなかった。
    どうにかして明智がやったという真実に話を持ち込もうにも、パレスやメメントスなどの異世界の事を話したところで証拠もなく信じてもらえるわけもない。当然、その流れで明智が獅童の実の息子であることも世間には知れ渡った。
    歪んだ思想で数多の人間達を踏み台にしてきたあらゆる罪を自供している政治家と、原因不明の大怪我で入院中の探偵王子。
    名前を知らない人の方が少ないであろう二人の男が親子関係であった上に、二人揃って実行犯としての証拠はないものの共に同じ殺人を犯したと供述しているという状況は世間を大いに賑わせたが、何も知らない人間達は果たしてどちらが嘘をついていると考えたのか。その結果は言うまでもない。

    頭に過ったのは、病室でずっと見ていた明智の後ろ姿だった。『あの』明智はこの結末を見て何を思い、どう考えるのか。
    …俺はすぐに携帯を手に取って、チャットを開いた。


    〇 〇


    【20XX 六月】

    どうして生き延びてしまったのか。
    死ねなかったのか。
    目覚めてから毎日そんなことを考えていた。

    ほぼ毎日のように来る冴さんとは別に、週末になると必ず顔を出しに来る奴が何かずっと喋っていた気がするが、その内容が耳に入る日はなかった。入れる気もない。
    獅童のパレスで受けた傷は記憶していたものより酷く、その上二か月も昏睡状態だったおかげで身体はかなり衰弱していた。
    二か月の間に勝手に癒えた傷もあったそうだが、そうでもない傷の方が圧倒的に多く、そんな状態だから二か月越しに目覚めたところで起きれるわけもなく寝たきりの要介護生活は一ヶ月続いた。

    風通しのいい病室は日を重ねる度に暖かくなってくる毎日を快適に過ごさせてくれる。傷が治り、身体の痛みはどんどん無くなっていった。手足の不自由さはまだ残っていて少し不便だけど、リハビリの甲斐あって院内を歩く程度の距離であれば松葉杖を使えば一人でも歩けるようにはなった。
    それに合わせて日々の食事は点滴から病院食に切り替わる。病院食は不味いと言われがちだけど、数ヶ月ぶりに食べることで得る栄養は病院食だろうとなんだろうと美味しく感じた。
    この調子で行けば夏の始まりには退院できるという話を主治医から聞いた時は久しぶりに顔が綻んだ気がした。

    そんな日々の中で、獅童正義が有罪判決を受けたらしいという話を毎日の介護や体調管理をしてくれた担当の看護師から聞いた。
    当たり前だ。それに見合う罪をアイツは犯し続けた。ざまあみろと思った。そして、アイツが有罪判決を食らったのならば、あとはこちらの番だ、とも。
    …ああ、やっと逮捕してもらえる。ようやくこの身に圧し掛かる罪を償える。
    死に損ねてしまった以上、僕がやれることはもうそれしかない。理由を考え続けて、至った結論はそれだった。
    罪を犯した以上やはりきちんと裁かれなければならない。そう思っていつものように見舞いに来た冴さんに出頭の話を持ち掛けた。
    冴さんには喋れるようになった時点で全ての罪を話した。『その証言は獅童の裁判で重要なものになるわ』と力強く頷いてくれたから、今回もきっと『分かった』と言って頷いてくれると信じていた。

    ────だと言うのに

    いいえ。獅童が有罪になった時点でその必要はなくなったわ
    え……

    その道は閉ざされていた。

    どういう意味ですか…?だって…実行犯ですよ、僕は
    ……獅童がね。件の事件については自分が全てやったと証言したの
    は……?

    彼女の言っている言葉の意味が分からなかった。

    貴方は関係ないの一点張り。むしろこっちが言うまで明智君の名前すら出さなかったわ。きっと貴方のことを庇うつもりよ

    何を言ってる。
    庇う?アイツが?僕を?……冗談じゃない。

    裁判所は獅童が実行犯という形で判決を下した。貴方から聞いた話もしたけれど聞く耳持たれなかった。恐らくだけど、今更出頭してもほとんど相手にされないわ
    ……バカ言わないでください。どれだけ人間が死んだと思ってるんですか。そんないい加減でいい訳ないでしょう

    それこそ、指で数えきれないくらいの人数をこの手でたくさん殺したのに。

    私だってそう思う。でも、そもそも根本的に異世界での犯罪なんて立証ができないのよ。その異世界も今はもう消えてしまっているらしいし、確かめようがないの
    証拠なんてどうでもいい!全部殺ったって本人が言ってるんだから、それでいいじゃないですか!!
    ……気持ちは分かるけど、証拠がなければその発言に力は無いわ。獅童には少なくとも雨宮君の冤罪の件も含めて、精神暴走の事件の他にも余罪がある。決定的な証拠がない以上…表向きは無実の探偵という正義の象徴だった貴方と、罪を犯したことが公になっている獅童のどちらが犯人かと聞かれれば、誰もが獅童が悪いと考える。私だって貴方にはきちんと法に従って罪を償ってもらいたかったけれど…どうにもできなかった
    ……ッ……

    吐き気がした。
    獅童が一色若葉、奥村邦和、その他の廃人化や精神暴走事件で死んだ人間達を殺したという証拠はない。だってアイツは明智吾郎に指示しただけなのだ。証拠がなくて当たり前だ。しかし、その明智吾郎が殺人を犯した実行犯という証拠も全てが異世界で行った犯行である以上、同じく無い。
    イセカイナビは消えて、異世界に渡る術はもうなくなっている。もう誰も異世界の存在を証明できない。異世界も認知訶学も、ただの世迷いごととして片付けられてしまう。
    だから、世論は子供の犯人の言葉より目に見える大人の犯罪者の口から出た嘘を真実にしようとしている。そういうやり方で真実を有耶無耶にし、匙を投げた。判決が出た以上、証言の撤回もできない。

    撃った後に消えていくシャドウのように跡形もなく、『殺人犯の明智吾郎』は、この世界から消えたのだ。
    よりにもよって恨み抜いたあの男に庇われるという、最も最悪な方法によって。

    ……ねえ、明智君。私は──
    帰ってください

    頭がグチャグチャだった。今は誰とも話したくない。
    一人にしてほしい。

    明智君、話を
    ……聞きたくない
    …………。分かった。また来るわね

    視線はずっと下を向いていたから、何かを言いたげにしていた彼女の表情は分からなかったけれど今はそんなの聞きたくなかった。
    カツカツとヒールが叩く音が遠ざかっていき、扉が閉まる音が聞こえて、部屋は静かになる。

    ……クソ……ふざけるなよ……

    思い出すだけで腸が煮えくり返る。今更どの面で関係ないなんてぬかしてるんだ。今まで散々利用しておいて、指示に従うだけの人形扱いしておいて。何もかも分かった上で接しておいて。今まで散々人の人生を狂わせてきたくせに、またそうして壊していくのか。罪を償う機会まで奪われたら、本当に死に損ねた間抜けが残るだけじゃないか。そんなの望んじゃいない。今更父親面なんかしやがって。もう、何もかもが遅いのに。

    ……!

    ベッド近くの壁に立てかけられた松葉杖を持って、病室を飛び出した。
    一人で歩けるようになったとはいえ、松葉杖が無くなれば自立もまだできない。普通に歩けば数秒でたどり着く距離での移動は、その倍の時間と体力の消費を要する。
    息を切らしながら向かったのは入院患者達がテレビを見るために集まるデイルーム。病室にテレビがないため、暇を持て余した患者達はこの部屋に集まり設置された大型テレビを見ながら時間を潰すことができる。辿り着いたその場所では既に多くの患者が椅子に座ってテレビに映ったニュース番組を見ている。番組が報道しているのは案の定獅童の事だった。
    テレビの中で、椅子に座ったコメンテーターの大人達が討論を続けている。

    『いやぁ恐ろしい話ですよ。巷を騒がせた精神暴走化事件を起こしていた人間を一度は総理大臣にしようと我々は票を入れてしまっていたわけですからねえ』
    『しかしあの明智吾郎君が彼の息子だっていうのは驚きましたね。言われてみるとちょっと面影があるようなないような……?』
    『彼も獅童容疑者と同じく精神暴走化事件の実行犯だと証言しているとのことですが、その点はどう解釈されますか?』
    『検察側も仕事とはいえ酷なことをしますよねえ。まさか子供に罪を被せようとするなんて。まあ嘘であることは間違いないでしょう。証拠もないし父親の罪を庇おうとしてるんじゃないですか?』
    『ですが獅童容疑者と明智君に、殺人の罪を自ら被るほどの親子としての関係はあったのでしょうか?お互いにその情報は伏せていたようですが…』
    『生まれの経緯はどうあれ、血の繋がった唯一の肉親ですから。自分だけでも父親の無実を信じて、なんとかしたかったんじゃないですかね。探偵としてではなく家族として。あの子も大人びてはいましたが結局はただの高校生の子供ですから』
    は………………?

    吐き気を催すいい加減な会話が、テレビの中から聞こえる。
    違う。無意味に庇ったのはアイツだ。僕じゃない。僕はあんなやつのことなんか庇ってない。何が家族だ、父親だ、ふざけるな。全て僕がやったんだ。証言は嘘じゃない。全部真実なのに。
    世間は誰もそれを信じない。証拠もない嘘を信じてる。目に見える悪しか見ない。

    『その明智君ですが意識不明の重体の状態で議事堂の付近で発見され、現在も都内の病院で入院中とのことですが…獅童容疑者の精神暴走化事件との関連はあるのでしょうか?』
    『獅童容疑者には廃人化ビジネスの件で率いていた取り巻きが居たはずですから、口封じとして殺すつもりで暴行を受けた可能性は高いでしょうねぇ。明智君が実行犯だという虚偽の証言しているということは獅童容疑者の犯行の内容を知っていたということでもありますから。いやあ命に別状はなかったんでしょう?助かって本当に良かったですよ。未来ある若者をこのような理不尽で亡くすわけにはいきませんからね』

    獅童に取り巻きが居たことは事実だけど、そんなわけがない。
    確かにそれが出来る力がある奴らは獅童の一派に居た。だが、獅童の言葉がなければ何も出来なかったようなあの腰抜け共にそんなことをする根性はない。この傷は全て異世界で負ったものだ。現実世界のあのクズ共は何も関係ない。デタラメもいい所だ。

    スタジオでの映像が切り替わると、かつて収録した何かの番組で探偵王子を振舞っていた頃の自分の映像がテレビで流れる。
    『獅童正義と明智吾郎。意外すぎる血の繋がり。その関係と真実とは』なんて、気色の悪い字幕が大きなフォントで表示されて、特集が始まった。その内容は見るに堪えない、何も知らないバカ達が勝手に考えたいい加減なものばかり。しかし、そこには確かな真実も含まれていた。

    なん、で……………

    何がどう転んだら、そんな話の流れになるんだ。
    獅童の息子であるという情報がいつの間にか知れ渡っていることなんて、もはやどうでもよかった。

    美味い餌を手に入れたメディアがその餌をどのように汚く食べ散らかすかは嫌ほど知っている。
    獅童の裁判は既に判決が出た。その話がそれ以上盛り上がることは無い。
    ならば残るメディアの関心──美味い餌は、そんな有罪判決を食らった男の私生児があの明智吾郎だったという事実しかない。
    僕を庇ったらしい時に「息子は関係ない」とでも言ったのだろう。その時点で奴らにとっては良い養分だった。それに加えてその僕自身が獅童と同じく精神暴走事件の実行犯であるという証言したという情報は、奴らの食事を絶品のペレットから最高級の特上練り餌に変えた。
    今まで『二代目探偵王子としての明智吾郎』という餌を食い散らかしてきたアイツらは、今度は『獅童正義の子供である明智吾郎』という餌を食い散らす。
    それこそ練り餌のように、好きな形にするんだ。忌々しい過去を根掘り葉掘り掘り返して、ある事ないこと言いふらして、勝手な人物像を作り上げて、好き勝手に盛り上がり続ける。

    その結果がアイツらが勝手にそう解釈して作り上げた、『家族想いの明智吾郎は、獅童一派の残党によって暴行を受けて瀕死の重傷を負いながらも、それでも父親を庇うために父と同じ罪の自供をしている』という地獄のような歪んだ認知の真相だった。

    ─────

    心臓がうるさい。どくどくと高鳴るそれは今にも胸の内側から爆発しそうだった。ハ、ハ、と息切れとは違う呼吸を繰り返すことしかできない。
    松葉杖を持つ手の力が抜けてカランと重さがあるそれを床に倒す。杖がなければ自立できない身体はそのまま同じく床に崩れ落ちた。
    その音に気づいた周りの患者達の視線がこちらに向いたのが気配で分かる。

    あれ……明智吾郎……?
    ここに運ばれてたのか……
    松葉杖使うくらい酷い怪我だったの?
    じゃあテレビで言ってることって本当なんだ……
    お父さんの身代わりになろうだなんて……
    健気な子……
    …可哀想に…

    やめろ。違う。
    そんな目で見るな。同情なんかするな。同情されることなんか何もしてない。悪いのは全て僕だ。僕は被害者じゃない。加害者なのに。嘘を信じるな。その目で見るな。見ないで。お願いだから。可哀想なんかじゃない。全部違うのに。どうして───

    ぅっ……おぇ……

    一気に口までせり上がってくる胃液を手で押さえ込もうにも止められず、その場に吐き出した。

    …ぁ………、…っ………

    息が吸えない。息の吸い方が分からない。蹲って止まらない胃液を吐き出し続ける。視界にはもう吐瀉物が溜まっていく床しか映らない。
    辺りが一気に騒がしくなった。色んな人間がこちらに駆け寄ってきて、囲まれる。

    明智君、落ち着いて!しっかり!
    ダメだ、過呼吸を起こしてる!ストレッチャー!呼吸器も、早く!!
    テレビ!テレビ消してください!!

    周りの人間達が何かを叫んでいる気がするが何も聞こえない。
    背中を擦られている気がするが、なんの気休めにもならない。胃の中のものなんてとうに全部出てきたはずなのに、それでも胃から溢れるものは止まらなかった。やがて息ができない時間が長すぎたのか、どんどん意識が薄れて行って、視界が急に傾き、そして暗転した。



    ……次に目覚めた時、デイルームにいたはずの身体は病室のベッドの上に戻されていて、とうに取れたはずの呼吸器と点滴がまた何本か腕に刺さっていた。
    あの日から二日間、ずっと意識が戻らなかったらしい。呼吸はもう落ち着いたし、息の吸い方も思い出した。呼吸器はすぐに外されたけど、点滴はしばらくそのままだった。……鎮静剤だと看護師から教えてもらった。

    かつて探偵王子として一斉を風靡した明智吾郎は、今や極悪非道な父親に殺されかけたのにそんな父を庇い立てしている哀れな子供としての認識が確固たるものとなった。冴さんが言ったように、本当の犯人なんですと出頭したところで信じる者は誰もいない。可哀想なものを見る目で見られるのが関の山だ。
    事実、医師や看護師達の態度も腫れ物を触るかのような態度に変わっている。挙句の果てには心のケアが必要だと診断され、日々の検診にカウンセリングが追加される始末。夏の始まりには退院できるという話は当然延期になった。

    ……もう笑う気にもならない。
    罪を償うこともできなければ、もう人前に出ることも叶わない。
    獅童の息子として見られるのは構わない。それはもう事実だから。
    でも、これからずっと『あの』目で見られ続けるのだけは耐えられない。

    ……バカみたいだ

    全てがバカバカしい。
    惨めに生き延びても、何も残ってない。居場所なんてとうになかった。
    なんのために自分が今ここに居るかが分からない。
    あの時、やっぱり死んでおけば良かったんだ。そうすれば、こんな思いはしないで済んだのに。

    ──────

    ……なんだか、疲れてしまった。
    何もかもがどうでもいい。
    生きる意味も、理由も、もう何も分からない。

    だったら、もう────


    〇 〇


    【20XX年 七月】

    明智が病院で倒れたという連絡が冴から入ったのは春の終わり頃。
    聞けば、テレビの報道を見てパニック障害を起こしたのだとか。退院の目処も立っていたけど、念の為延期にされたらしい。
    冴は明智がテレビを見てしまう直前に獅童の裁判のことを話していたそうだ。酷く動揺していたのを分かっていながら、突き放されてそのまま帰ってしまったことを悔やんでいた。
    『寄り添おうなんて、どの口が言えるのかしら』と、話しながら。

    無理もねえよ……あんなある事ないこと言われちゃ流石のアケチも混乱するさ。ただでさえシドーが庇ったせいで自分の罪が無いことになって内心穏やかじゃないであろう時に見ちゃあな……
    ……うん

    今やテレビは再び明智の話題で持ち切りだった。探偵王子としてではなく、獅童の息子としての明智に。
    全てを知っている俺達から見れば、コメンテーターの意見によって日々解釈が捻じれ曲がっていく真相と、お涙頂戴にするという目論見が露骨に伺える捏造だらけの特集は思わず眉間に皺が寄ってしまうほどには見ていて気分がいいものではなかった。
    他人の俺が見てそう思うのだから、当の本人が見たら気分が悪い所の話ではなくなるだろう。

    これもヤルダバオトの影響がまだ残ってるってことなのか
    そうならまだ『仕方ない』と思える救いがあったかもしれねえが、残念ながら違うと思う。単純に他人の不幸で飯を食うどうしようもねえ奴らが食い散らかしてるだけだろうぜ
    ……そうか

    例によって東京に向かったのはその話を聞いてからすぐの事だった。
    今まではベッドの上で身体を起こしながらも窓に顔を向けたまま頑なに振り向かないだけだった明智は、二月の頃に来た時のように点滴の管に繋がれて魂が抜けたかのように項垂れる姿に変わっていた。
    入院生活で伸びた髪でその表情は分からない。ただでさえ細かったその身体は更に細くなって、酷く憔悴しているように見えた。
    ちゃんと食事は食べているのかと尋ねても、当然返事があるわけもなかった。

    ………俺、こっちの大学を受けようと思ってるんだ。皆もいるし、明智も居るから

    地元の学校では既に進路を決めた同級生達が受験生特有の張り詰めた空気をかもし出している。かくいう俺も、地元で高校最後の一年を過ごし終えたらモルガナと共に本格的に東京に上京しようと以前から決めていた。
    秀尽では学年首席を貫いていたが、だからと言って大学受験が楽であるわけではない。確実に東京の大学に合格しての皆の元に帰るためには、そろそろ本格的に試験勉強を始めなければならない。

    正直、お前のこと凄く心配だけど…。流石に勉強しないといけないからそろそろ通うの止めようと思う。八月頃には今度こそ退院できるんだよな?夏休みはずっとこっちに居るつもりだから、その時にまた会いに来るよ
    ………………………

    まるで離れ離れになる恋人同士の会話だな、なんて本人にはとても言えないことを考えてしまう。
    こんな話をして明智から『寂しくなるね』なんてテンプレのような返しが帰ってくるわけもない。そもそも先日のこともあってそれどころではないであろう明智からしたら、俺が今後来なくなる話なんてむしろ願ったり叶ったりだろう。

    じゃあ、そろそろ帰る。……ご飯、ちゃんと食べろよ

    椅子から立ち上がって、踵を返す。
    意識が戻ってから今まで明智と会話が成立したことは一度もない。それは今に始まったことでは無いので、返事がないことに対して思うことは何もない。
    だから今日もいつものように何も言わない明智を残して静かに病室から出る。



    自動スライド式の扉は、明智が居る病室と俺が立つ廊下の間を断ち切るように閉まり始める。
    獅童パレスで聞いた以来の声が名前を呼んだ。

    え……?

    振り返ると目が合う。
    今までずっと俯いていた明智が、二月に意識を取り戻した時に見た以来のその顔が、こちらを見ている。

    あけ──

    そして、

    ばいばい


    その言葉と同時に、扉は静かに閉まった。

    ──────

    呼吸も忘れて、しばらく閉まった扉の前で立ち尽くしていた。
    扉の内側からは何も聞こえない。久しぶりに声も聞いたのに。やっとこちらを見てくれたというのに。
    再び扉を開ける気にはならなかった。

    ……明智……

    久しぶりに見た表情に、一切の生気が無く。
    いつも綺麗だと思っていた赤茶色の瞳も、濁ったビー玉のように虚ろなものに変わり果てていたから。



    〇 〇


    【20XX年 八月】


    ────蝉の声が窓の外から聞こえる。
    その日の食事は、洋食のメニューだった。

    ……ああ、やっとこの日が来てくれた。嬉しい。

    「……すいません。フォークが無いみたいで…持ってきてもらっていいですか」
    「え…?あれ…ちゃんとチェックしたはずなのに…。ごめんなさい。すぐ取って来るね!」

    慌てて病室を出て行く看護婦を見送る。
    ……右手で握ったフォークは、一旦枕の下に隠しておいた。



    〇 〇



    そうして迎えた夏休みは、終業式が終わった段階で東京入りした。
    もちろん下宿先はルブランの屋根裏部屋だ。一か月分の荷物とモルガナと共に、俺は再び四軒茶屋へと足を踏み入れた。
    東京入りした初日は仲間達と時間を過ごし、その翌日にはそこらじゅうから聞こえる蝉の鳴き声を聞きながら明智の居る病院に向かった。ヒートアイランド現象真っただ中の昼間からペットキャリーでもない革の鞄なんかに入れて出かけたら熱中症になりそうで怖いので、モルガナは佐倉家で留守番だ。まあ元より病院なので連れて行くことはできないのだが。
    灼熱の太陽に当たりながら歩いて来たので汗が頬を伝う。病院の自動ドアを開けた瞬間に、冷房のおかげで涼しい空気が全身を包む。涼しい院内で身体を冷やして汗を乾かしながら、自販機で買った飲み物を片手にいつものように病室に向かった。
    扉の前に立ち、ノックをして中にいる明智に声をかける。

    明智、俺だ。久しぶり。開けるぞ

    返事はいつも帰って来ないので、気にせず扉を開ける。
    扉を開けて目に映ったのは、手に持ったフォークを振り上げている明智の姿。食事中ではない。
    そのフォークの下には彼のもう片方の手首が待ち構えている。

    …すぐに彼が何をしようとしているのかを察する。
    察したと同時に明智はそのフォークを振り下ろした。

    「…ッ!」

    今から駆け寄っては間に合わない。咄嗟に持っていたペットボトルを明智に目掛けて投げつける。
    まだ中身に口をつけてないペットボトルは重さがある。投げたペットボトルは明智のフォークを持った左手に当たり、その衝撃で手から離れたフォークはカランカランと音を立てて床に落ちた。
    とてもリハビリ明けの怪我人に行う行動ではないが、彼が今しようとした行動に比べれば些末な問題だった。

    「……………………」

    何も言わず、落ちたフォークにも目を向けない。
    明智は赤くなった左手と、傷つくことのなかった右腕を見下ろしている。邪魔された怒りも何も無い。七月の時に見た、虚ろな目のまま。
    早足で歩み寄って、患者服の胸ぐらを掴みあげる。濁った瞳は、相変わらずこちらを見ないで下を向き続けている。

    「今何しようとしてた」
    「………」
    「答えろ!」
    「……死のうとしたんだ。フォークで手首を何度も刺せば血管の一つくらいは切れる…そうすれば死ねる。見て分からなかった?」
    「ああ、分からない」

    分かりたくもない。
    半年ぶりに会話が成立したことに対する喜びなんて微塵もない。こんなやりとり、したくなんてなかった。

    「…なんでそんなことした」
    「ずっと和食続きだったからフォークを使うメニューが来るのをずっと待ってたんだよ。箸だとすぐ折れちゃうからさ」
    「そういう意味じゃない。なんで死のうとしたかって聞いてるんだ」
    「そんなの死にたかったからに決まってるだろ」
    「だから、なんでだ!!」
    「………これしか、もうないからだよ」

    小さな声でそう言った。吐き捨てるように。

    「…君も知ってるだろ。獅童の奴が、全ての罪を自分がやったことにして有罪になった。『全部』をだ。今更、父親面して息子の罪を被ったとでも言うつもりか?…ハッ、反吐が出るね」
    「…それは」
    「アイツは僕の人生の何もかもを奪って行ったどうしようもないクソ野郎だ。もう、それだけでお腹いっぱいなんだよ。…だっていうのに、最後の最後で今度は罪を償う機会さえも奪っていきやがった。
    ……ねえ、テレビ見た?冴さんに話した真実がアイツが全部の罪を被ったおかげで無くなって、巷を騒がせた精神暴走事件の実行犯になるはずの僕は、今じゃ父親の罪を庇おうとして嘘の罪を告白してる健気で哀れな父親想いの息子呼ばわりだよ。この傷も獅童の一派の奴らがけしかけたことになってる。なんの冗談だって話さ」

    ハハハッと笑い声をあげる。しかしその笑いは探偵王子を振舞っていた頃の爽やかなものではなく、酷く乾いたものだ。
    精神暴走・廃人化事件の実行犯の罪を全て被った獅童は、先日無期懲役の判決を受けた。これは本来、明智に下されるものだった判決だ。
    世間的には事件とは無実で無関係、むしろ獅童に殺されかけた被害者側だと思われている明智は退院すれば、なんの咎めも監視もない、自由な身となる。

    「…僕が獅童の息子であることは既に世間には知れ渡った。しばらくはマスコミの餌だ。当分人前には姿を出せない。探偵だってただの自作自演で、獅童が居ない時点でそれももう廃業。……だから、僕にはもう何も残ってないんだ。今まで忙しかったからさ、疲れたんだよ。休ませてくれたってよくない?」
    「駄目だ」
    「……なんでだよ」

    ゆっくりと顔を上げて、鋭い眼光がこちらを睨みつける。恨みと、怒りが混ぜこぜになった、悲しい瞳の中で自分の顔が映っている。
    だけれどこの目は、あの日の、機関室の時とは少し違う。大きな穴の様な、ただただ虚しい目だ。

    「罪に年齢なんか関係ない。人を殺したクズは同じように死んで侘びるしか罪滅ぼしはできないんだよ。未来なんかある訳ない。なら、何処で死んだって…自分で自分を殺したって変わらないだろ。結果は同じだ」
    「違う」
    「……何が違うんだよ!

    大きく身体を逸らして、掴んだ手を振り払われた。

    俺は人殺しの犯罪者だ!ただ復讐のために彼らを踏み台にして、全部俺がやったんだ!!これは俺が、俺の意思で選んだ道なのに!!なのに、よりにもよってあの男のせいでそれが全部無かったことになって!あんな奴に庇われてッ!!
    「明智」
    この手で色んな奴らのシャドウを撃ち殺した感覚はまだはっきり残ってる…一生消えない…!なのに、もう罪を償うことも出来ない!今更こうして惨めに生き残って…野放しにされて…!どの面下げて生きていけって言うんだよ…!!」
    「………」
    「………死にたいんだよ。もう、何も考えたくない」

    怒りを吐き尽くし、今にも泣き出しそうな顔を見せた後、明智は再び俯いて黙り込んだ。
    胸の部分に手を当てて服を掴んでいる。まるで心臓を握り潰しているかのように。上から見えるその姿はとても小さく見えた。
    このまま放っておいてはこの男は確実に別の何かしらの方法で自殺を図るだろう。

    …………ふざけるなよ

    そんなの冗談じゃない。

    お前、獅童パレスのあの日から今日まで俺がどんな気持ちで過ごしたと思ってる
    …そんなの知るわけないだろ
    ああ、そうだ。お前は知るわけないよな。勝手に俺に対抗心燃やして、自分の失敗を棚に上げて勝手に怒鳴り散らかして、勝手に手袋押し付けて、結局逃げただけのお前には
    ッ!ふざけんなよゴミが!誰が逃げてなんか…!!

    聞き捨てならなかったらしく怒りの形相が向いた。
    それと同時に、その頬を平手で叩いた。

    逃げてるだろッ!!

    ここ数年で一番大きな声が出たと思う。
    自分でもこんなに大きな声が出るとは思わなかったし、こんな大きな声を出すと思ってなかったらしい明智も赤くなった頬に手を当てながら言葉を失っていた。
    そのうちナースの人達が駆け込んで来るかもしれない。
    …だけど、そんなの知ったことか。

    死んで詫びる?お前はそんな大層なことしようとしてない!お前はただ、逃げようとしてるだけだ。精算できない罪を抱えたまま生きるのが辛いから逃げたい。そんな情けないことを、被害者面して言ってるだけだ!獅童パレスのあの時に死に逃げできたら気が楽だったと思ったんだろ。でも、それができなくて、死に損ねたと思ったんだろ!!

    両手で肩を掴んで揺さぶる。
    長くなった前髪から覗く見開かれた赤茶色の瞳は揺れていた。

    そんなの誰も認めない。誰も許さない!だって、お前が逃げたら誰も救われない。お前が殺した人達も、残された人達も、お前自身も!!
    ……ッ……
    双葉も、春も、他の人達も、お前のせいで人生狂わされて、未来を奪われて、大事な人を亡くした。死にたいと思うほど辛い目にあった!けど、皆そこから逃げずに今も生きてる!お前だけ逃げるな!お前だけは、絶対に逃げるな!!

    揺れる瞳を真っ直ぐ見つめると、瞳の中に自分の姿が映った。しっかりと肩を掴む力を込める。目を逸らせないよう、逃がさないように。

    …お前が奪ってきた命の分まで、奪った命を背負って、一分一秒でも長く、生き続けろ。生きることで償え。それが、お前ができる唯一の罪滅ぼしだ

    前提として、明智に味方は居ない。それは自業自得だからだ。裁判では聞く耳持たれなかったとしても、明智が自身が実行犯だと証言したことは知れ渡っている。明智が犯人だとすれば合う辻褄は考え始めれば沢山出てくる。だから、異世界はともかくとして明智が実行犯だという真実に辿り着く人間は、この先絶対に出てくる。

    色んな事を言われると思う、酷いことされるかもしれない。それこそ、お前みたいに復讐心を抱く人間だって出てくる。それでも、何を言われても、何があっても、とにかく死んでいいとは思うな

    目の前に居る明智の姿が歪んで見える。
    もしかしたら泣いてしまっているのかもしれない。

    …だから、頼むから…っ…………生きてくれ………

    もう、どこにも消えないでくれ。
    頭に浮かんだその言葉は、口に出たのか出なかったのかは分からなかった。

    …………なんで

    絞り出すように漏れた声は、震えていた。
    見開かれた目は、俺を理解できない存在として見ている。

    ここに……運ばれて目覚めてから、ずっと……なんでお前は……僕に構うんだ
    俺が、そうしたかったから
    ずっと無視してたのに、新幹線に乗って、毎週毎週、飽きもせず
    無視してる自覚あったのか
    …人殺しで、裏切り者で、お前のことだって、何度も殺そうとした
    それは本当に最悪だったと思う。
    ……そんな奴に、どうして、そこまで

    そんなの、決まってる。

    お前に生きていて欲しいから
    …!

    息を飲む声と共に、掴んだ肩が小さく跳ねた。

    約束だって果たしてほしい。そうじゃなくても、また色んなことで勝負したい。沢山色んな場所に出かけて、他愛ない話をしたい。望まれなかった存在だなんて、もう絶対に言わせない。だって、お前を望んでる存在は、少なくともここに居るから
    …ッ………そんな同情、やめろ……!

    全身で拒絶するように、両手で突き放される。
    こちらも負けじと再び手を伸ばして、その両手首を掴んで止めた。

    同情じゃない。本心だ

    空かさず掴んだ両手を引いて、随分と痩せて細くなってしまった身体を抱き寄せる。
    強ばる背中に手を回すと耳の隣で言葉を失った明智の息遣いが聞こえた。

    『なあ、なんでアケチにそんなに構うんだ。オマエらが仲良かったのは知ってるけどよ、オマエはアイツに殺されそうになったの忘れてねーだろ?』
    なんてことを、モルガナに言われた事がある。
    あの時は『分からない』と返して、深く考えなかった。ただただ、明智が生きていて良かったという気持ちしか無かったから。
    それから、病院に通うようになって。日を重ねる事に包帯や湿布が取れて、両手足はまだまだ治療とリハビリが必要だったけれど、それでも元通りの、見慣れた姿に戻っていく明智を見るのは安心できたし、嬉しかった。だからこそ毎週のように会いに来れた。
    何を話しても無視されて会話は成立しないし、顔も向けてはくれなかったけれど。自分の中ではあの時の時間は、かなり充実していた。
    だから、明智がテレビを見て倒れたと聞いた時は生きた心地がしなかった。実家に帰った選択を後悔することはないとは思っていたが、その話を聞いた時だけは後悔した。ルブランに残っていれば、すぐにでも明智の元に行けたのに、と。
    そしてこうして今、自分から死のうとしている明智を目の前にして。死んでほしくないという自分の気持ちを本人に伝えて。
    モルガナの問いかけへの答えが、ようやく見つかった。

    きっと俺は、とっくのとうにこの男の事が好きになっていたんだと思う。

    愛情なのか友愛なのか、はたまた別の何かか。それは分からない。
    とにかく俺は、明智吾郎のことが人として好きなんだと思った。
    裏切られたって、殺されそうになったって、人殺しだって、そんなの関係ない。
    誰に対しても偽りの嘘の仮面を外さなかった明智が、自分以外の人間なんて興味すらないであろうあの明智が、俺にだけは『嫌いだ』と告げたように。
    俺は明智が、明智だけは、仲間や協力者達とは違う枠組みで『好き』なのだと。そう思った。
    例え会話をしてくれなくても、こっちを見なくても、生きてさえいてくれれば、それだけでいい。明智に死んでほしくない。

    それだけ俺は、お前のことが好きだったんだ。……明智
    ……っ…
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    manju_maa

    DONEタイトル通り。二番煎じに二番煎じを重ねてテンプレを煮詰めたような話。たぶん主明
    ※ペルソナとか異世界とかなんもない本編とは全く関係ない謎時空
    ※明智が架空の病気(※ここ大事)で心臓弱い子
    ※明智ママがガッツリ出てくる。
    ※なんでも許せる人向け
    小学生の病弱吾郎くんと蓮くんが出会う話①この街には小学校の登校路から外れた道を行くと、低めのフェンスに囲まれたかなり大きい家がある。アニメなんかでよく見るお屋敷のそれ。道路も公園も、なんなら住宅も少ないその区域に静かにひっそりとそれは佇んでいた。
    フェンスの内側は芝生が生えた庭があって大きな桜の木が一本生えている。花見し放題だななんて思いながらボーッと眺めていたある日、飛び交う桜の花びらに混じって木の陰に隠れていた屋敷の二階の窓から外を覗く奴が居ることに気づいた。
    チョコレートのような、牛乳をたっぷり入れたココアのような、そんな茶色の髪を風で揺らしながら。夕方近いとはいえまだ太陽が昇っている時間帯にパジャマの上からカーディガンを羽織るという格好で、そいつはずっと外を眺めていた。髪は長いし顔も女の子みたいで、下から見上げるだけじゃ性別は分からない。年齢は多分同い年くらいだと思う。
    35875

    manju_maa

    PROGRESSごろうくん視点。獅童編中盤の全カットした空白の二週間の話の一部とヤルオ討伐後の話。「」ない。
    本当は本編に入れたかったけど時間が足りなくて泣く泣く書くのを止めたけどやっぱり書きたかったから書いたシーン
    来栖暁に育てられたあけちごろうくんの話~番外編③~色んな人の世話になりながら、39度近くまで上がっていた熱は完全に引いた。今は蓮が診せたという医者に言われた通り、静養期間だ。身体が元気なのに学校にも仕事にもなんなら外にも出れないというのは、中学時代の謹慎中の三日間を思い出す。
    熱がある間は昼間は双葉に、夜から朝は蓮が泊まりがけで付きっきりでそばに居たが、熱が引いたことで蓮はひとまずルブランに返した。
    『こうなったのは俺のせいだから』『お前は放っておくとまた無理するから』と色んな理由を述べられて拒否されたが、ならモルガナを監視役として引き続き家に置くからという妥協案を出すと、渋々承諾した。とはいえ昼間は双葉が家に乗り込んできて持参したパソコンをカタカタといじっている。蓮と約束ノートなるものを作って、それのおかげで一人で外出もできるようになったんだと自慢げに話していた。『明智はわたしの恩人だからな!』と満面の笑みを向けられたときは眩暈を起こしかけたが何とか耐えた。
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