ふと、窓の外に輝く三日月が目に入る。
配信が終わり、そのままパソコンに突っ伏して提出物などを片付けていたときだった。
少しだけ疲れて、「んー…」と背筋を伸ばしたとき、カーテンの隙間から見えるきれいな三日月。
うちは、気づけば窓を開けて、ベランダへと出ていた。
涼しい風が、うちの肌をくすぐる。
ビルやらお店やら、人工物で照らされる景色のせいで星なんかは見えにくいけれど。
うちの瞳に雲一つない夜空が広がって、なんだか見惚れてしまう。
AZKi「ミオちゃん」
ミオ「わわっ!」
ふと、あずちゃんの声が後ろからした。
AZKi「あ、ごめん………ノックしたんだけど、返事なかったから…」
びっくりさせてごめんね、と申し訳なさそうに微笑みながらいってくるあずちゃんに、うちも申し訳なくなる。
ミオ「い、いや、うちこそごめんね!」
AZKi「ううん、私は全然。…………なに、みてたの?」
そう言いながらあずちゃんもベランダに出てきて、隣に来てくれる。
ミオ「んー……お月様。きれいだなぁって」
何も考えず、ただ思ったことを声に出した。
でも、言い終わってから少しして、気づく。
………このセリフ、よくある告白のセリフじゃ…。
うちは、自分でも意図せずに言ってしまった言葉に少し苦笑いしつつ、あずちゃんをちらりと見てみる。
赤い。
涙ボクロがあって、少し大人っぽさも感じる目元。
そんなあずちゃんの白いほっぺたが、少しだけ、赤く染まっていて。
うちは、ちょっとだけ、からかいたくなった。
ミオ「…………あずちゃん、顔、赤くなってる」
ニヤリとしながら、ベランダの柵へ両腕を預ける。
うちはあずちゃんの顔を覗き込みたくて、頭をかしげながらそう言った。
AZKi「…………か、からかわないでよ、ミオちゃん…」
ミオ「えへへ、だって、あずちゃんがかわいいから」
AZKi「もう……」
うちはあずちゃんに微笑みかける。
かわいいなぁって、何度も思いながら。
今は、うちが主導権を握っている。
そう、思っていた。
だから、油断してた。
AZKi「…………ミオちゃん」
突然、あずちゃんがうちの背中をなぞる。
ぞくって、体の力が抜けそうになって。
そんなうちを、あずちゃんが支える。
そして太ももを撫でられて、それと同時に足に巻き付いているしっぽを優しくなぞられた。
ミオ「ひあっ…!?」
声が、漏れる。
そしてその瞬間、あずちゃんがうちの手を引っ張って、そのままあずちゃんに体重を預けるみたいな体勢になって。
あずちゃんの舌が、うちの口内へと入り込んだ。
ミオ「んっ、ふっ…!?」
AZKi「……ん…」
舌を絡まされて、上顎や、歯茎、牙もなめられて。
そんな中で、あずちゃんの手はうちの尾てい骨部分へと移動していた。
トン、トン、って、その部分を優しく撫でられる。
ミオ「ふっ、…んっ、ぅ、んんっ…!」
くぐもった声が漏れる。
しっぽには、触れられてない。
なのに。
ただ、尻尾の生え際部分を優しく撫でられているだけなのに。
うちの体は、ビクビクって反応してしまう。
どっちの唾液かわからないものが、うちの口元から垂れる。
涼しい夜風が、うちの熱い体を撫でて。
ふと、あずちゃんの唇が離れた。
ミオ「ふっ、ぁ……はあっ……は、ぁ……」
月の光が、うちとあずちゃんの間にある唾液を照らして、一本の糸みたいにみえる。
そして、その糸が、途切れて。
AZKi「ねえ、ミオちゃん」
ミオ「ひっ…!」
トン、トン。
あずちゃんが、うちの尾てい骨部分をまたもや撫でる。
AZKi「…ただキスして、体を撫でられているだけなのに………。それだけでこんな反応しちゃうミオちゃんのほうがかわいいって、私は思うけど。ミオちゃんも、そう、思わない?」
うちの耳へと、囁いてきて。
ミオ「う………うぅ…」
うちが主導権を握るなんてこと、絶対にありえないって、遠回しに言われてるみたいで。
うちは何も言えずに、ただあずちゃんになでなでされていた。