冬の木枯らしがすっかり全身を冷やしてしまった。さながら雪の女王の牢獄に囚われた囚人のごとし。
心まで凍りつきそうな中小走りで家にたどり着いて居間に入ると、「おー、おけーり」とのんきそのものの緩い声に迎えられた。
こたつから顔だけ出した怠惰の象徴みたいな姿勢で、唯一の兄がニッと笑いかけてくる。若干悔しいことではあるが、その笑顔と「おかえり」の声で木枯らしに冷えきった心も体もゆるゆると解けるような気がしてしまった。
「……ただいま」
そう返しただけで、兄は心から嬉しそうな笑顔を溢す。自然に「ああ可愛いな」という気持ちが湧いてくる、そんな自分に少し驚く。
「今ね、俺たちだけだよ」
「そうなのか?」
「ん」
兄がこたつ布団の裾からちょいちょいと手を出して招いてくる。
素直に近付けば、「手出して」と更に指令が出たので大人しく手袋をつけたままの手を出す。兄はやけに楽しそうに手袋をはずして、その辺の床に放った。ふわり、と少し熱いくらいのぬくもりに包まれる。
「お兄ちゃんほっかほかですよぉ、お兄さん」
いたずらが成功した時のような笑顔。かわいい。また胸の内が鳴く。
「フン…永遠のブリザードに閉ざされた冷えた心まで暖めるさながら…」
「いいから座って」
「あ、はい」
兄の傍らに腰を下ろすと、「もっとこっち」と更に指導が入る。
最終的に、兄を後ろから抱き抱えてこたつに入る体勢になった。
これは……温かい。
「へへぇ、お兄ちゃん専用座椅子ぅ」
楽しそうな兄の声と、少し熱いくらいに温まった兄の身体が心地いい。その温かい手はまたオレの手を温めるように包んでいる。
はあ、と兄がオレの手に息を吹き掛けた。
温かさ以上に落ち着かない気持ちになる。胸の鼓動が速い。きっと兄には伝わっている。
それなのに屈託のない子供のような顔でこちらを向いてみせるから。
「な?ほっかほかだろー?」
「……うん」
目の前の肩に顔を埋める。ついでに我らがマミーのおかげでどてらの中綿がふかふかだ。
温かい。
敵わない。
満たされていく心でそう思う。
だけどそのまま言ったらきっと調子に乗るだろうから、重なっていた手を返してそっと指を握った。
「…おそ松、こっち向いて」
「ん~~~?」
素直に顔を上げた兄にすり、と額をすり合わせる。
表情を変えないようで、ぴくりと小さく震えたのがまた可愛い。
「そうだな。温めてくれ……兄貴」
甘さをたっぷり乗せた声で囁いて、頬に軽くキスをする。小さく息を飲む音が伝わって来た。
「い、イタいよぉ……」
鼻の頭にもキスを落とすと、兄はへらへらと笑いながらテレビの方を向いてしまった。
オレは小さく笑いが溢れるのを止められなかった。
背中から伝わる鼓動がオレと同じくらい速い。
後ろから見える耳が赤い。
その鼓動が、光景が愛おしくて、温まってきた唇でそっと熱い熱い耳元に口づけた。