原作終了後のコーハジ※時間軸は原作終了後
原作ネタバレを含みます、アニメ勢はご注意ください!
この手は、掴んではいけない。ずっとそう思ってきた。
自分のために言葉をかけてくれた彼に酷いことを言って、もう会うこともないと思っていた。それでも彼の言葉はなんでか心に残ってしまって、断酒を続けたりできてしまった。眠れなくて苦しい日もあったけど、それでもお酒に手を出してしまう事はしなかった。
あの日の彼を思い出すから。彼の言葉や表情を鮮明に思い出してしまうから。
2年、業界にいた中のたった2年の彼のせいで、おかげで、お酒を断ち切ることができてしまった。
自分にとって彼はなんなんだろう。湧き上がる答えに蓋をした。
だけど、お歳暮を持って現れた彼を見た時、その蓋が少しずつずれ始めたんだ。
「美味しいですね、このお茶」
「昔馴染みのお客さんが教えてくれたんだ」
最後の別れ方が嘘のように彼ーハジメ君とはお茶友達になった。
互いの日常を話して、時に笑ったり、時に感心したり。今なんて僕の部屋でテレビを見ながら、淹れたてのお茶を啜っている。
そう、僕らは友だちなんだ
でも、僕の中のずれた蓋から溢れようとしているものは友達からは遠くて。
「お茶ありがとうございました、そろそろお暇しますね」
「あぁ、うん」
いつものように帰っていく彼の背中をいつものように見送ろうとして。
なぜか彼の左手を掴んでしまった。
「コーイチさん?」
「………正之くん」
訝しむ彼の顔を見て、咄嗟に出てきた言葉。その言葉に彼が息を呑む。
きっと今じゃなくてもいい。もっと場面を整えてからでもよかったはずだ。
トリリオンにいた時なら、もっと強気に言えただろう。
クラブワンの時なら、もっと落ち着いて言えたかもしれない。
でも、今はどちらでもない。ただの藩田清吉なんだ。
弱々しく掴んだ手で、震える声で、君の目を見つめて。
「普通はこんなタイミングじゃないんだろうけど………それでも、多分、今じゃないとダメなんだと思う」
「………」
「どうしたって僕は君より先に逝く」
酷使した身体がこの穏やかな生活でも元に戻るわけじゃない。
いつかの未来を先延ばしにしているだけなんだから。
「でも、それでも、君の手を掴んでいたい」
向き直ってくれた彼の手に自分の両手を重ねる。
「僕の隣に、君に居てほしい」
溢れ出たものを震える声で彼に伝える。
あぁ、情けない。彼の顔を見ることができない。友だちとしての一線を超えようとしているのは自分なのに。
「………清吉さん」
彼の右手が僕の手と重なる。
視線の先には、穏やかに微笑む正之くんがあった。
「僕も貴方の隣にいたいです………できれば、さいごまで」
年甲斐もなく、泣き笑いしたのは初めてかもしれない。
彼を抱きしめながら、そう思った。
『死が二人を別つまで』