この時点では信と正義に息がある 火の手がどこまで回っているか確認して、もし近いようならもっと上の小屋へ移動して、村や大人たちがどうなっているか確認して……
そう考えて、それを行動に移したはずなのに、気づけば氷船はふらふらと山小屋や村の周囲を彷徨っていた。あれこれ確認して次の行動を決めなければ、と頭では分かっているつもりなのに、焼けた村を目にするのがどうしても怖い。代わりにあちこちへ無意味な視線を投げながら歩いているうちに、踏みつけた草で靴が滑って視界と重心が転げた。
ずざざざ、と自分が山を滑っていく音が氷船の意識を席巻する。呆然とする氷船の耳に、鋭い声が飛び込んだ。
「氷船くん!」
同時にガクンと視界が止まって、肩の布地が上に引きずられ腰帯がずれる。しぱしぱと何度か瞬きをしていた氷船は、覚束ない動作で肩の上のほうを見上げた。
「……海晴先生」
「何をやってるんだ君は! 長老と一緒に山小屋じゃないのか!!」
力の抜けた氷船の声にすぐ怒声を返してきた海晴は、頬がいくらか煤けているが元気そうだ。村の医者である海晴が元気ならしばらく安心だな、などと斜面に転がったまま考えていた氷船だったが、海晴に急かされて立ち上がった。
「……まったく、的が大きいから間に合ったが、僕が間に合わなかったりそもそも誰もいなかったらどうするつもりだったんだ。どこか捻ったり折れたりしていないか、いくらかは薬も持っている」
土や草で汚れた氷船の服をはたきながら海晴が確認して、氷船は平気だと答えた。それからずれた服を直すと、首を巡らせて木立ちの向こうを見る。
「……さっき、草の中に何か……誰か?が、いた。見てきてもいいかい」
「構わないが……本当にいるのか? 僕には見えな……あっこら一人で行くんじゃない、今の失態をもう忘れたのか」