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    Ao_MiNaMii

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    ししんでんしんそくぜんしゅぞく本Side玄武 人間族の章2

    正義
    手負いの獣人。知らん人間が仲間に触ろうとしていたのでバチギレ

    海晴
    人間の村の医者。怪我人の手当をできるほど周囲の安全が確保できない

    氷船
    獣人たちの第一発見者。村の子どもの一人。

    正義登場「……さっき、草の中に何か……誰か?が、いた。見てきてもいいかい」
    「構わないが……本当にいるのか? 僕には見えな……あっこら一人で行くんじゃない、今の失態をもう忘れたのか」
     海晴に叱られながら氷船は斜めに斜面を登り、その草むらを覗き込んで息を呑んだ。
     山を滑りながら氷船が見た草の中には、氷船よりもいくらか年下くらいの少年が寝かされていた。ただ、その傷の大きさや顔色から、もう息をしていないことが分かる。
     後からついてきた海晴が、またも呆然としている氷船の横をすり抜けて草むらの脇に膝をついた。
    「……獣人族、だな。どういうことだ? 仲間割れでもしたのか。この傷は獣の爪だろう、妙にでかいが」
     草の中へ丁寧に寝かされた少年のそばには、氷船と同じくらいの年頃らしい金赤毛の獣人、それからもっと大きな、見たことのない黒い獣の体が転がっていた。少年を挟んで川の字に金赤と獣が並んでいて、草の倒れ方が荒れていないことから、少年の傷はこの場所でついたものではなさそうだと氷船は考える。獣も金赤も酷く傷だらけで、とても氷船たちの村を襲った犯人とは思えなかった。
     そこへ、だだ、と何かの走る足音が近づいてくる。四足の獣に近いが、少し乱れた足音だ。だが疾い。二人が音の方向を見たときには、もう足音の主は目の前だった。
    「触゛!!」
     怒号とともに花葉色の塊が木立から飛び出し、横合いから海晴に突進する。海晴を支えようとした氷船まで一緒に弾き飛ばされて、それぞれの肩や肘、背中に土がついた。氷船と海晴が慌てて起き上がると、獣人の少年たちの前、ついさっきまで海晴がいた場所に男がうずくまっていた。
     それは、花葉色の衣を纏った獣人族だった。くすんだ赤毛の、海晴より年嵩らしき男。人間族二人を追い払い、それだけで力尽きたかのようだったが、震える四肢をどうにか地に立てようとしている。彼もまた、草むらに寝かされた獣人たちと同じように傷だらけで、特に両手が泥にまみれ、獣人族自慢の爪も割れて剥がれていた。
     だからただの体当たりだったのか、と氷船が理解する間にも、獣人の男はよろよろと四足で上体を持ち上げる。血や涎の混じった赤い体液が男の口の端から垂れ、胸元からもばたばた血が滴った。海晴の顔色が変わる。
    「やめろ! それ以上動くのは君が危険だ、僕らに攻撃の意思はない!」
     だが、聞こえているのかいないのか、獣人の男は人間族を睨んで身構えたままだ。視力があるのかどうかも分からない、濁って焦点の合わない目が、それでもぎらぎら光って海晴と氷船の方向を睨んでいる。
     海晴が氷船の前に立って、後ろ手に逃げ道を示した。しかし、ここで医師を失っては村全体の生存率に関わる。氷船が前に出ようとするのと、獣人の男がじりりと後脚をたわめるのとは同時だった。
     しかし、獣人族がたわめた後脚のばねを発揮する直前、男の目がぐるりと上向いて体が傾いだ。男が白目を剝いて崩れ落ち、人間族二人の緊張した息遣いだけがその場に満ちる。
    「……」
     なぜ、と氷船の頭を疑問が渦巻いた。村をめちゃくちゃにしたのはいったい誰なのか、獣人族の彼らはなぜこんなに傷だらけなのか、彼らを襲った何かしらの存在は村人にも害を及ぼすだろうか。渦巻くのは疑問ばかりで、答えどころか解法さえひとつも出てこない。
     次の行動を決めあぐねている氷船の腕をゆっくり掴み、海晴が静かに言った。
    「この場所は危険かもしれない。すぐに離れよう、長居するなら猟師でも連れて来るべきだ」
    「でも」
     氷船は草むらのほうを見やった。あの獣人の男は、満身創痍ではあるがついさっきまで確かに生きていた。今処置をすれば、まだ助かるかもしれない。
     氷船の視線を追った海晴が眉を寄せて逡巡を見せる。
    「……身体能力の高い獣人族をあんなにした犯人が、まだそばにいるかもしれないんだぞ」
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