薬その本は晶馬クンが持ってきた暇つぶし用の本の中に紛れ混んでいた。
「媚薬の作り方」
読んでみて改めて馬鹿らしいタイトルだと思う。
ただ、読んでみると媚薬と言っても体が火照るとかそういう効果ではなく内面的。つまり本当にその人に惚れさせる薬の作り方らしい。
本当なのだろうか?
まぁ、もしダメだったら逃げればいいか。そんな心持ちで脱走のついでに生物薬品室に行って念の為、大量に作っておく。
そして、自分の我駆力刀を回収してそのまま拓海クンの部屋に入った。
拓海クンはそんな事も知らずにスヤスヤと寝息を立てている。その口にさっき作った薬を滑り込ませて、ペットボトルに入った水を少し垂らした。
しばらくしてゴクリと喉仏が動くのがわかった。効果は1時間ほど、24時間持続するらしい。
仕方ないので、その作り方の本を読み返して時間を潰した。
1時間が経った頃を見計らって拓海クンを起こす。本によると薬を飲んで最初に目に入った人を好きになるらしい。
なんだか、雛みたいだなと思いながら寝ぼけまなこの拓海クンを見る。
「んー」
「あ、起きた?」
「あれ?蒼月?なんでオレの部屋に居るんだ?」
起きた拓海クンは目を擦りながら驚いてる。これだけじゃ。本当に薬が効果があるのかわからない。
「…。拓海クン。ボクの事好き?」
とりあえず、直球で聞いてみる。
「え、好きだけど?」
当然のように普通はありえない回答が返ってきた。どうやら薬は本当に効果があるらしい。
「じゃあ、行こうか。ボクの事好きなら来てくれるよね?」
ボクは当然のように手を差し出す。
「いいけど、どこに?」
何もわかってない拓海クンがその手を取って首を傾けた。
そこからボクらの逃避行生活が始まった。
拓海クンは本当にボクの事が好きらしく、ボクの為にボクの世話をし、ボクの為に戦った。
「蒼月はオレが守るからな」
そう言って拓海クンはいつも笑う。最近の口癖だった。
それを聞くたびに何故かボクは胸が締め付けられたような気持ちになった。
毎日、廃墟を彷徨って食べ物を探し、敵が居たら倒した。
そうしていると村らしき場所に辿り着いた。
そこには人が生活していた為、その人に交渉して食べ物を分けてもらう。
その村の人によるとその人達も侵校生による被害に頭を悩まされているらしい。
その事を知って、ボク達は食糧と寝床を提供してもらう代わりに侵校生を倒す約束をした。
そこからは比較的安定した生活が出来た。
今日も侵校生を倒して、いつも寝泊まりしている家に帰る。
「おかえり」
そこには笑顔で夜ご飯を作って待っていてくれた拓海クンが居た。
「戦闘ならオレが行くのに」
「今日はボクの番だったはずだよ」
「いいだろ。オレが行きたいんだから」
毎日交互に戦闘をしてどちらかが家の事をする。それは村で暮らし初めて二人が決めたルールだった。それでも、ボクを守りたい拓海クンはすぐに戦闘に出かけてしまう。だからボクの当番の日は拓海クンより早く目を覚まして、そっと戦闘に出かけるのが習慣になっていた。
ご飯を食べて、お風呂に入り。二人で寝る。
いつもの習慣だ。
ただ一つ今日は違うことがあった。
今日は拓海クンはいつもの薬を飲んでいない。あんなに大量にあった薬もついに底をついてしまった。拓海クンは毎日ボクに言われるままに何の薬かわからないモノを飲まされていたのだから、あの薬はすごいと思う。
それと同時に怖いとも思う。今までの生活はあの薬によってなり立っていた。それが無くなったら、この生活が終わってしまうのだ。ボクはこの生活が案外気に入っていたし、何よりボクは拓海クンが好きになっていた。いや、たぶんこの感情は依存と言った方が正しいのかも知れない。
だから、拓海クンを紐で縛りあげる。どこにも行けないように。ずっと一緒に居られるように。
「ごめんね。拓海クン」
「よくわからないけど、蒼月が縛りたいならオレは別に構わないよ」
ボクの事が大好きな拓海クンが言う。
ボク達の心は一緒だった。