すれ違いずっと心残りだった。
あの時、蒼月を学園を追い出した事が本当に正しかったのか。
悩み事は尽きない。
正体不明の部隊長ダルシャーを倒してもまだ、ヴェシネスがいる。ヴェシネスの事とは別にその後この星の人を皆殺しにしてもいいのかという問題がある。
考える事だらけだ。
それでも、やっぱり蒼月の事がいつも頭から離れなかった。
だから100日まで残り5日になった今日、探索に出かけるフリをしてオレは蒼月を探して第二学園に向かった。
SIREIに後から聞いた話によると蒼月は食糧と消えない炎の爆弾を持って第二学園に向かったと言う話だった。
だから蒼月は第二学園に居るはずだ。
正直、蒼月を見つけてどうしようかまでは考えていなかった。
ただ、会って話したいと思った。
なんとなく蒼月の憎まれ口を久しぶりに聞きたくなったのだ。
でも、一人で向かったオレが第二学園で最初に見つけたのは校庭にあった何かが爆発した跡だった。
オレはこの爆発跡に見覚えがあった。
消えない炎の爆弾。確か、あの爆弾が爆発した跡がこんな跡だったはずだ。
嫌な胸騒ぎがした。
急いで第二学園に入る。
何度も蒼月の名前を呼んだ。
蒼月が死ぬなんて想像も出来なかった。だから死なないと思っていた。たとえ、学園を出ても悪知恵が働く蒼月ならなんだかんだ生き延びると思っていた。
なのにあったのは蒼月が食べたらしい食糧の残骸ぐらいだった。
食糧の残骸は別の場所にも転がっていた。
几帳面な蒼月なら一箇所にまとめるはずだからきっと違う誰かが居たのかも知れない。
そんな事を考えていたら後ろからガザガザと音がした。
「誰だ」
広い静かな空間にオレの声が響き渡る。
音がした方向を注意深く見ていると観念したように両手を上げた二人の人影が出てきた。
一人は顔を布で隠した男の人。もう一人は明るい茶色の9才ぐらいの女の子だった。フトゥールム人だろうか。
「警戒させてすまない。俺たちは君に危害を加えるつもりはない」
そう言ってオレの数歩先で止まる。
「ここで、何をしてる?」
警戒を解かずに聞く。
「人を探している。白髪のサングラスをした人だ」
「蒼月を?」
思わず、驚いた声が出てしまう。
「君の知り合いかい?この子を助けてくれたお礼を言いたいんだ。どこに居るかわかるだろうか?」
「助けた?蒼月が?」
正直、信じられなかった。蒼月が人を助けるなんて想像出来なかった。
「優しかったよ。…食糧分けてくれた。これからどうしたらいいのかも教えてくれた。怪物からも助けてくれたの」
女の子が勇気を出した声で懸命に伝える。
その声を聞いてやっと何があったのかわかった。
校庭の爆弾の跡。食糧の残骸。女の子の懸命な声。その全てがオレの固定概念を覆す。
「ああああぁぁ…」
オレが悪かったのだ。やっぱり蒼月を追い出すのは間違いだった。蒼月を信じれば良かった。
信じられなかった後悔がオレの心を支配する。
ただ知るべきではなかった。その事はわかった。
正直、そこからどうやって学園に戻って来たのか覚えていない。
そんな後悔を引きずっていたからなのかも知れない。あるいは蒼月の戦力が足りなかったからなのかも知れない。とにかくオレ達はその後あっさり負けて死んだ。
それこそ、清々しいほどあっさりと。
生まれた時からボクには前世の記憶があった。
だから、この認証障害も慣れたものだった。
だから認識障害とも折り合いをつけて過ごそうと決めた。
本当は前世のように目を潰すのが一番いいのだろうけど、それは出来なかった。
それは一言で言えば未練なのだろう。
彼に。拓海クンに会いたい未練。
でも、ボクは会ってはいけない事もわかっている。
あんな事があって、どうして会いに行けるのだろう。
そもそも、ボクは拓海クンとは会わない方がいい。拓海クンに会ったら拓海クンを不幸にしてしまう。そんな予感がした。
だから、拓海クンのことは探さない。そう決めていた。
きっとボクが死んだ後、拓海クンは幸せに暮らした。もしそうでないなら…。
そこまで考えてボクは頭を振る。
余計な事を考えてはいけない。
こんな考えばかりしているから拓海クンから信用されなかったのだ。
ため息を一つこぼして、出かける準備をする。
今日はノートが終わりそうだから文房具を買いに行く予定だ。
サクッと買い物を終わらせて、部屋の片付けをして後はゆっくり過ごそう。
そう決めて外に出る。
夏の日差しが照りつける中、少しでも涼しい道を行きたくて公園に入る。
フッと懐かしい悪臭が鼻を掠めた。
ボクはこの匂いを知っている。
匂いの方向に急いで向かう。
心臓が高鳴った。
どこだ。どこだろう。
焦りばかりが募って、手がじんわりと汗ばむのがわかった。
そして見つけた。
「拓海クン」
思わずその後ろ姿に声をかける。
「蒼月?」
ああ、キミはやっぱりこの世界でも醜い。
でもボクはキミの拓海クンの美しさを今でも覚えている。
「覚えてる?」
泣き出しそうになりながら、そんな姿は見せられないと堪えて震えた声を出す。
「あぁ、覚えてるよ」
醜い拓海クンが笑ったのだろう。肉塊がぐにゃりと歪む。
ああ、どうしてこんな時でもボクの認識障害は拓海クンを正しく見せてくれないのだろうか。
やっぱり、こんなバグだらけの目は早く潰してしまおう。もう拓海クンに出会えたのだ。役目は終えたも同然だ。
「一つ聞きたかったんだ。あの後、拓海クンは幸せだった?」
ボクが一番気になってた事を聞いた。拓海クンに会ったら最初に聞こうとずっと決めていたのだ。
拓海クンはいい辛さそうに少し間を開けて言った。
「幸せ…ではなかったな…。ずっと後悔してた」
だからと、拓海クンはボクに近づいて手を差し出す。
「オレ達やり直そう。まずは、その…友達から」
ボクからは気持ち悪い触覚にしか見えないそれをボクは喜んで、握る。
正直、嬉しくて笑いを堪えるのに必死だった。
ずっと決めていたんだ。もし、あの後拓海クンが幸せじゃなかったら。絶対に何があってもボクが拓海クンを幸せにするんだって、そう決意を固めた。