終焉の果てまで離さない災害が降り注ぐ中、エルは座り込むことしか出来なかった。
吹きつける風は皮膚を切り裂くほどに痛く、呼吸するための酸素を奪っていく。
もはや雨とは言えないほどの暴雨は周囲の岩をも削り、雷は虚空から現れたかと思うと上へ下へ、或いは横へと稲光を走らせる。
しかし少女はそれらに屈しているのではない。むしろ、そんなことは心の底からどうでもよかった。
2人で暮らした家は見る影もなく、ネールが好きだと言って育てていた花は見るも無残に散らばっている。
ソレの訪れは突然だった。
予見されていた未来なのは間違いない。ただ、具体的な予兆が何ひとつとして無かった。エルですらも見通せず、不意をつかれた結果がこれだ。
尤も、十全な準備の上だとしても数分の延命が関の山だろうが。
なんて粗末な終わりなのだろう。
「……」
目の前で横たわる師は、既に呼吸をしていなかった。
エル自身も深手を負っている。治癒能力も働いてはいるが、普通の人間なら一瞬にして命を絶たれるほどに荒れ狂う大気の中ではそちらの治癒にかかりきりだ。
これこそが“御使い”の所業だった。
あまりに圧倒的な災禍、神の手たる創形師を殲滅するにも十分すぎる剄を惜しげなく晒してくる。
エルがここに残ったのは、どれだけ必死に繕っても結局はネールを置いていけなかったからに他ならない。
ならば自分は今、何のために生に縋っているのだろう。
一体どれだけの間、師だったものを抱きしめ、全身から血を流し、涙を雨粒に紛れさせ続ければいいのか。
エルに向かう天剄の刃は、当然傍らの既に死んだ創形師をも壊していく。既にその身体は人の形を保っていると言えるかも怪しいほどで、項垂れるエルが抱きしめるのはどうしようもなく破片と化した亡骸でしかなかった。