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    me2024ham

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    ふせったから転記。すけべのときだけ面を外す👹の話。

    クラカイ小話②午後の里は、どこかゆるくて平和だった。
    草の匂い、遠くで焼ける薪のにおい、子どもたちの笑い声。
    クラマは縁に腰を下ろし、風に舞う小さな葉を目で追っていた。
    秋の風は今日も、静かに賑やかだ。

    「よーし!次は鬼ごっこだ!俺が鬼な!」
    カイの声がした。
    子どもたちの歓声がぱっと広がる。
    「うぉっ!?てめ、速すぎんだろっ!」
    ドドドッ、と土を蹴る音。
    小さな足音と大きな足音が交差して、ひとりの子がつまずいた。
    反射的にカイが手を伸ばして、受け止めた。

    けれど、そのとき――
    バランスを崩した子どもが、勢いよくぶつかってしまった。

    カイの仮面が、スルリと外れた。
    空気が、一瞬だけ止まった。

    子どもたちは、すぐさま何事もなかったかのように笑って、また走り出した。

    けれど、クラマは、息を飲んで動けなかった。
    心臓がひとつ、大きく跳ねた。
    何でもない風のなかに、夜の匂いがまぎれこんでくる。

    ――夜だけに現れる、やわらかな眼差し。
    荒々しい鬼の皮を脱いだあとに見せる、ほんとうの顔。
    息づかい、熱、肌の音。
    カイは、夜だけ、面を外す。
    それは秘密の儀式みたいで、ふたりの間にだけ流れる時間だった。

    「……なんだよ」
    いつのまにかこちらを見ていたカイが眉をひそめている。面はもう元の位置に戻っていた。
    「いや。なんでもない」
    クラマは風に紛らせるように言った。
    でも胸の奥では、たしかに火が灯っていた。
    夜のカイの匂いが、昼間の風のなかにまだ漂っている気がした。
    その甘くて、少しだけ苦い熱が、喉元に残った。
    「なぁ、今日……また、行っていいか?」
    何気ないように珍しく控えめなカイの声が、風に運ばれて、胸に沈んでいった。
    「……勝手にしろ」
    クラマは、湯飲みの中で揺れる影を見つめた。
    けれどその指先は、ほんの少し、震えていた。

    夜がまた来る。
    そのとき、仮面が落ちて、ふたりだけの秘密がまた始まる。
    風は、もうそのことを知っていた。
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