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    me2024ham

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    ふせったから転記。🍂が👹の素顔を見たことあるのか問題。

    クラカイ小話③秋の里に、風の音だけが流れていた。
    紅の葉が踊り、空には一枚の雲もなかった。
    「クラマさんは、カイさんの面の下の顔を見たことはありますか?」
    舞手の問いかけは、あまりに真っ直ぐで、風を忘れていたクラマの耳を打った。
    囲碁盤の上に残された白石が、どことなく中途半端な配置で、じっと彼の指先を待っていた。
    「……興味がないな」
    クラマはそう返したけれど、舞手の眼はまるで霧のかからない湖みたいで、少しも曇らなかった。

    カイの面の下の顔。
    見たことがある。いや、あれは……見てしまった、という方が近い。
    もう少し風が強かったなら、あるいは酒があと一杯多かったなら。
    ある晩、宴のあとで高くなりすぎた月が、厚い雲に隠れたその瞬間に、カイが面を外したのだ。
    夜の中、露にされたのは、静かで、妖しい、艶やかな顔とまなざしだった。

    「つまり、見たことはないんですね?」
    舞手のさらりとした声に、小さく我に帰る。
    クラマは何も答えず、ただ黙って立ち上がった。
    風が彼の長い外套を持ち上げて、葉を巻き込んで踊らせた。

    ──見たよ。
    でも、それを「見た」と言ってしまうと、何かが変わってしまいそうだった。

    風の音がひときわ強くなり、囲碁盤の上の白石がひとつだけ転がった。
    それは、勝ちでも負けでもない、ただの一手だった。
    しかし、クラマには、その一手が、
    どんな鬼神の拳よりも重たく感じられたのだった。
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