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    ぶんた

    ヌリの小説をぽろぽろあげたりする

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    ぶんた

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    龍神ヌさんと孤児リ殿(4歳)のなんちゃって異世界和風パロディなヌリ。夜と朝とお風呂の話。

    龍神様といっしょ 最初の夜少し心を開いたのだろうか、子どもは何をするでもなくひたすら私の後ろをついて回る。
    大きな私の服では先ほどから突っかかって転んでしまいそうになっているので仕方なく適切な大きさに切ってやった。
    だが身軽になったせいか、本を読んでいても、窓辺で日を浴びていても、振り返れば必ずそこに小さな影がある。

    「なぜずっとついてくるのだ」
    「…なにしたらいいかわからない」
    「なら本でも読みなさい」
    「ほん…?」
    「遊んでなさい」
    「あそぶ…?」

    ああ、どうしたものか。
    ヌヴィレットは思わず頭を抱えてしまう。
    子どもが楽しめそうなことなど、私は知らない。たとえ知っていたとしても、ここには何もない。

    「庭の石でも積んでいなさい」
    「いし?」
    「そうだ、庭にたくさんあるだろう」

    リオセスリは素直に頷くと、外に出て手頃な石を探し始めた。小さな手で丁寧に石を積み上げては崩れ、また積み直している。その真剣な姿を横目で見ながら、やっと私は解放され、ゆっくり日向で本を開いた。





    「かみさま、おなかすきました」
    「ん?」

    本に夢中になっていたせいか、気づくと辺りは日が暮れかけ橙色の光があたりを燃えるように染めていた。

    「ああ、夕餉の時間か」

    食事を済ませると、そろそろ眠る時間だ。
    最高審判官として昼も夜もなく働いていた時や、ひっきりなしに人が願いを述べに来ていたあのころとは違い、灯りをつけてまでしなければならないことなど今の私にはなかった。

    「私は寝る。君は隣の部屋で寝なさい」
    「う…ん、おやすみ」
    「ああ」

    小さな声で挨拶を交わし、私は自室へと戻る。
    子どもの面倒を見るというのは、案外達成感のあるものだと不思議な気分に浸っていた。
    そのため、リオセスリの顔に浮かんだ寂しげな表情には気付くことができなかった。

    夜更け。隣の部屋から小さな泣き声が聞こえた。
    気になって覗いてみると、リオセスリが布団の中でひっそり泣いていた。
    「どうした」
    「ひ…え……」
    「どこか痛いのか」
    「いたくないけど」
    「なぜ泣く?」
    「なんか…わかんない」
    「まったく…泣いてばかりだな…」
    私は静かに息をついた。正直泣かれてしまうとどうしたらいいのかわからない。
    「一度落ち着きなさい。何かあれば隣の部屋に居るから呼びに来るように」
    「あ………っ」
    「では」
    そう言って立ち上がり襖を開けようとした。

    どさっ。

    おかしな音に振り返ると、リオセスリは布団から抜け出したまま倒れ込み、苦しそうに息を乱していた。

    「か…っ…ひ、ひゅ……ひ、は、ぁ…」
    「なんだ!?どうした?」
    慌てて傍に駆け寄る。子どもは私の袖をぎゅっと掴み、震える声で言った。
    「いや……は、は、ひっ……すてな……いで」
    まるで息ができないかのように喘ぐ子どもの姿を見て、心がざわつく。
    どうしようかと少し戸惑ったあと、ぎこちなく小さな背中をさすった。
    「リオセスリ、大丈夫だ捨てたりしない、ここにいる」
    「はっ、は、…ふ、」
    「落ち着いて呼吸しなさい」
    次第に落ち着きを取り戻してきたのか、リオセスリは私の袖を握りしめながら、小さく言った。
    「ごめんなさい、かみさま…」
    「謝るなこれは、私が悪い」
    よく考えればこの子は母に捨てられて、独りぼっちになったばかりの4歳の子どもだ。夜一人きりで、見知らぬ場所で過ごすという事の意味を私はよく理解していなかった。
    ぼろぼろと涙を流しながらすがる姿に胸が締め付けられる。
    「そんなに泣いていてはかなわない、なにかほしいものはないのか?」
    「かぞく…ずっといっしょにいてくれる、かぞくがほしい」
    家族。
    私は、それなりに神としての格式は上の方だ。人の身で不可能である事柄もたいていのことであれば実現することができる。
    しかしながら、家族は…与えるという事ができないものだ。
    「すまない、それは無理だ…」
    無力感と共に絞り出した言葉を聞いて、リオセスリは諦めたような顔で悲しそうに目を伏せた。
    歳の割に賢い子だ。この子もわかっていたのだろう。それは叶わない願いであることを。だが、それでも口に出さずにいられなかったのだ。
    「…いっしょにいてほしい」
    本当は、願いをかなえることは、あまり好きではない。
    もう人の願いをかなえる神であることはやめた。
    だが服にしみこむような吐息と共に吐き出された温かなその願いだけは叶えてやりたいと思った。
    「添い寝をしてやるので私の部屋へ来なさい」
    「うん」
    リオセスリは涙で濡れた目を輝かせ、小さく頷いた。
    その手は私の袖を掴んだまま、離れようとはしなかった。

    ーーー
    朝。
    襖の隙間から、穏やかな日差しが差し込み、遠くで小鳥の鳴き声が聞こえる。
    そんな平穏な朝の中で、リオセスリは真っ赤な顔で正座をし、小さく縮こまっていた。
    真っ白な布団の上には大きな、黄色い染みが広がってしまっている。
    「かみさま…おねしょ……ごめんなさい」
    「いい、問題ない」
    「でもかみさままでぬれちゃった」
    「濡れることはさほど問題でもないが」
    さて、どうしたものか。
    衣類や布団は取り換えればいい。
    だが、これは一度風呂に入るべきだろう。龍神であるが故に一瞬で湯殿に湯を満たすことはすぐにできる。
    問題があるとすれば私が子どもと風呂に入った経験がないという一点のみだ。
    「まずは身を清めよう、こちらへ」
    「う、ん…?」
    リオセスリは頷きながら私の袖を握った。
    伝わってきた小さな戸惑いはこれから何が起こるかわかっていない様子であった。

    湯殿に入った途端、リオセスリの顔色は真っ青に変わった。
    私が泳げるように、広めに作られたそこはなみなみと湯が張られている。しかし、そんな湯船を見つめたまま唇をわななかせ、身体を強張らせながらその場に釘付けされたように動かなくなってしまった。
    「風呂が怖いのか?」
    「…ぅ……」
    首を縦に振ることすらできないようだ。

    そうか。
    この子は、湖に足を滑らせて命を落としかけていた。
    その記憶は身体に刻み込まれ、『溜まっている水』それ自体が死の恐怖に直結してしまっているのだろう。

    「お湯を被るのは平気か?」
    「た、ぶん……へ、いき」
    声は相変わらず震えていたがそれでも返事をしようとする姿勢は立派だった。

    「目をつぶりなさい」
    「…かみさま、だっこでも、いい?」
    「わかった」
    そっと抱き上げると私の胸に頭を寄せしがみつくように小さな手を回した。
    片手でリオセスリを持ちながら、もう片方の手でばしゃ、ばしゃと一緒に湯を被る。
    抱き上げた身体はあまりにも軽い。
    もっと様々なものを食べさせたほうがいいかもしれない。とふと思った。
    ほんのりと湯気が立ちのぼり、水音だけが静かな空間に響く。
    この状態できちんと洗えているのかは正直わからなかった。
    だが湯殿から出た時、リオセスリの安堵したような顔を見た瞬間、自然と頬が緩んでしまった。
    「偉いな」
    そう言ってやりたくなった。なぜ自分がそんな言葉を口にしたのかはよくわからなかった。
    リオセスリはそんな私を不思議そうに見つめ返していたのだった。

    身体が濡れたままだといけない。
    だが、以前この子に身体を拭かせたときに非常にもどかしかったことが頭をよぎる。
    「君は身体を拭くのがへたくそだ、私が拭こう」
    布を手に取り、子どもの髪をがしがしと拭いてやる。
    リオセスリの髪を拭くのはこれで二回目だが、だいぶ慣れてきたように感じる。
    「かみさまはふかなくていいの?」
    「ああ」
    そう言って私は、ぱちん、と指を軽く弾いた。すると身体を濡らしていた水滴は、あっという間に霧散し消える。
    リオセスリはその光景に目を丸くして、称賛の言葉を送った。
    「すごいね、かみさま」
    「当然だ。この身は水を司る龍神であるが故」
    「う…ん?ねえ、それおれにもしてもらえる?」
    期待を込めてじっと見つめられる。
    私は少し申し訳なく思いながら首を横に振った。
    「残念だが、人間の身体の強度がもう私にはよくわからない。君の皮膚まで削り取ってしまっては困るだろう?」
    「……できないってこと?」
    「ああ」
    「そっか」
    リオセスリは残念そうにつぶやいた。
    こうなったら水を『優しく』弾き飛ばす練習でもしたいところだが、ここにはこの子以外の人間はいないため練習もできない。困ったように唸る私を見てリオセスリは私の手を取った。
    「でもおれ、かみさまがふいてくれるのうれしい」
    「…そうか」
    重なった手のひらからぬくもりが伝わって来る。じわじわと私の胸にも広がっていくそれが何かわからなかったが、そんなことで喜ぶのなら、この子が満足するまで拭いてやりたいなどと、おかしなことを考えてしまうのだった。
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