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    ぶんた

    ヌリの小説をぽろぽろあげたりする

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    ぶんた

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    龍神ヌさんと孤児リ殿(4歳)のなんちゃって異世界パロディなヌリ。仲良くなるヌリとか鍾離先生とかでてくる。

    龍神様といっしょ 成長「みて!神さま!またちがう花さいてる!」
    「それはひまわりだ、リオセスリ」
    「きのうのは、あさがおだった!」
    「そうだ、よくおぼえていたな」
    リオセスリを拾ってからそれなりに時間が経った。
    蝉がじわじわ鳴き、白い日差しが庭石を焼く。暑さは好かないが、庭を駆け回るこの子を眺めていると、不思議と胸が満たされた。
    あれから、この子は良く笑うようになった。同じようによく泣くところは変わらないが、優しく抱いてやれば嬉しそうに顔を寄せるので泣いても笑っても可愛くて仕方がない。
    まあ、子どもとはそういうものだろう。
    賢いこの子は読み書きを教えるとすっかり覚えてしまって、簡単な本なら自分で読めるようになった。それでも私に読んでほしいと本を持ってくる。そういうところも愛らしいのだが。
    「神さま、ひまわり、さわりたいからかたぐるまして」
    「わかった」
    ぐ、と肩に乗せて持ち上げる。軽い。だが、ここへ来た時よりは、確かに重みが増した。すこしずつこの子は成長しているということだろう。
    「ひまわりはどうだ?」
    「んー?」
    うむ。
    触れているのは、目の前で揺れる黄色い花ではなかった。
    私の頭だ。白い髪をくるくる、くしゃくしゃと。何がそんなに面白いのか、肩の上で喉を鳴らすように笑っている。
    「まったく…ひまわりに触らないのなら降ろすぞ」
    「う…ぅ…」
    「なんだ、また泣いているのか」
    嗚咽を上げ始めた子どもを抱きかかえてあやすように背をさすると、袖口でちらりとこちらを盗み見て、口角をあげた。
    どうやらもう泣き止んだらしい。
    「へへ」
    「君はすっかり甘えん坊だな」
    「…きらい?」
    「そうではない、可愛い子よ。いくらでも甘えていい」
    「いつかおれ、ひまわりよりも、神さまよりも、大きくなれるかな?」
    七つまでは神のうち。
    それまでは現世も幽世も行き来できる不安定で不完全な存在でいられる。本来は時が止まるはずの身体が成長しているのもその不完全さからだ。
    だが、もし、この子が七つを超えて幽世にいるのなら…この子の時が動くことはない。大きくなりたいという願いを叶えたいなら、この地を出て私と離れることになる。
    …わからない。何を選んでやればいいのか。
    この子はまだ幼すぎる。私が決めて良いものでもない。
    やがて大きくなるその時、この子に、選ばせるべきなのだろうか。
    「神さま?かんがえごと?」
    「ああ、少し」
    ちり、ちり、と風鈴が鳴る。
    初めて軒に吊した日、リオセスリは長いこと風鈴が揺れるのをじっと見つめていた。
    もう夏だ。ということはこの子がこの地に来て、もうすでに半年がたった。
    「今日もだっこしながらおふろはいろうね」
    「大きくなるにはまず一人で風呂に入れるようになるところからだな」
    「じゃあ小さいままでいい」
    少しだけ拗ねたようにそう言ったリオセスリに『仕方ない』という顔で私は笑った。
    もう考えるのはやめよう。別れのことばかり思ってもそれこそ仕方ない。
    今、私にすがってくるこの子の姿はまだ、幼子の、どうしようもなく愛おしい姿なのだから。

    ーーー
    「人嫌いの貴殿が人と暮らしているとそう聞いたのだが」
    神域が揺れる気配がして外に出てみれば…見たくもない顔がそこに立っていた。
    黒を基調としたロングコートに金の意匠。片耳には細い装飾が揺れ、長い髪は後ろ束ねられ、その毛先には微かな金が灯っていた。
    琥珀の眼はこちらを量るように見ている。
    この岩神という神は大陸に一つの大きな国を作ったのだという。そして幾年かごとに一度地上に降りて、その国の民に信託を下しているらしい。それまではこの稲妻にある幽世で悠々と暮らしているのだと。
    信仰とその神の力は比例する。一国を束ねる神ならば、それ相応の神格を有している。
    認めたくはないが、私の神域すらすり抜けてしまえるほどの力があった。
    「誰から聞いた」
    「風神から」
    風神はモンドの神だ。自由を愛し、モンドと他国を行き来しながら好き勝手に過ごしている、と本人が言っていた。まあ、その実はただの酒飲みだが。
    風神も岩神も稲妻の神ではない。
    稲妻という土地はかなり特殊な地だ。人同士は異郷のものに排他的なのだが、神に関してはその限りではない。様々な信仰を受け入れ独自の解釈で祀り上げる。私も、彼らもこのようにこの地で居を構えることができるのはその独自性ゆえだ。
    この二柱は異郷から来た私と妙な同族意識があるようでこうして時折ちょっかいをかけてくる。
    本当に余計なお世話だ。老骨ゆえの老婆心というやつなのだろうか。
    岩神は私を、人嫌いと言った。
    だが、私は人が嫌いなのではない。神が嫌いなのだ。
    神は、人の運命をたやすく変える。力を持つものは干渉せずに見守るのが一番だと私はそう思っている。
    ゆえに、こうやって人と積極的に関わり、交わろうとする神々とは根本で相いれない。
    「貴殿であれば問題ないとは思うが」
    岩神はゆっくりと言葉を置く。
    「なんだ」
    「それは毒だぞ」
    「貴様にそのようなことを言われる筋合いはない」
    「いや杞憂ならいいんだが、水も情も、染みる物だ」
    ははは、と笑いながら一見朗らかにそう言う岩神の目は笑っていない。
    「貴殿は律に篤い。が、真面目過ぎるというのもな…神というものは、時に鈍くなければならない」
    「余計なお世話だ、嫌みを言いに来たのか貴様は」
    「そう聞こえてしまったのなら申し訳ないな」
    「そうとしか聞こえなかったが」
    「いやなに、昔、そうやって一人の人間に執着しすぎて身を滅ぼした神もいた。堕ちて魔獣となった神を打ち倒すのは骨が折れる。貴殿の様に力の強い神ならば俺の国にまで影響を及ぼしかねない」
    岩神はそう言って踵を返した。
    「まあ、別れの覚悟だけはしておけよ」
    一条の影のように空へ溶ける。軒下の風鈴が、ちりん、と鳴り、元の静けさがあたりを包む。
    岩神の言う事は杞憂だ。
    私はそもそも世界と関わり合うための心など人の頃から持ち合わせてなどいない。
    故郷すら、信仰すらたやすくと捨ててしまえるようなわたしに、あの琥珀が一体何を見ているのか、私には理解できなかった。
    ーーー
    金木犀の甘い匂いが縁側まで流れ込む季節になった頃に、リオセスリが「泳げるようになりたい」と言ったのはまさしく青天の霹靂だった。
    それは、風呂場でのやり取りから始まった。
    最初はしがみついていなければ水を被ることさえできなかったこの子はいつの間にか手を握っていなくても湯船につかることができるようになっていた。
    「もう水は怖くないか」
    「うん、だって神さまはお水が好きなんでしょ?だからへいき」
    若干会話がかみ合っていない気もするのだが、恐怖を克服できたのならよいことだ。
    「お水が好きだからお風呂広いんだよね?」
    「好きだから、というよりも泳ぎたいからだな。そもそも私は、あの湖で毎日泳いでいた」
    「え、神さま、今は泳いでないよ…?」
    リオセスリがこの世界へ来る前、私は毎日、湖にいた。
    というより、それしか楽しみがなかった。
    そうだ、あの日も。泳いでいて、湖でこの子と出会った。
    だがこの子は水を怖がる。私がこっそり抜け出せば、あの夜のように泣きながら屋敷中を探すかもしれない。それがあまりに不憫で、この半年は水に入るのをやめていた。
    「今は…いい。水に触れていなくとも」
    水に触れることよりも、この子と過ごす時間の方が遥かに胸を満たす。
    そう言って頭を撫でてやるがリオセスリの顔は曇ったままであった。そしてぐ、とこぶしを握り、何かを決意するような顔をして、私をまっすぐに見上げた。
    「俺、みずうみに行きたい」
    「だが湖は君にとって…」
    「神さまといっしょに泳げるようになる」
    湖はこの子の恐怖の形そのものだ。だが、それでも私と一緒に泳ぎたいのだと強く言い切った言葉は酷く大人びているように聞こえた。
    どちらにしても、湖で泳げるようにはならないといけない。
    現世に帰るのであれば、その出口はあの湖になるからだ。結果的に手放す準備になるだろう。
    そう考えると、なぜか胸がチクリと鋭く傷んだ。
    「わかった、だが怖くなったらすぐにやめてもいいからな」
    「うん」

    次の日、湖に向かうリオセスリは妙にそわそわした様子だった。
    つないだ手が、何度も指を絡め直してくる。葦の匂いが風に混じり、遠くで水面が細かく鳴っる音が聞こえるたびに何度もこちらを見上げていた。
    「あのさ」
    「どうした?」
    「神さま、さいしょに会った時、ちがうすがただったよね?」
    「あれが、私の神としての姿だ」
    「あの神さまといっしょならだいじょうぶだと思う、だってあの神さまが助けてくれたんでしょ」
    「龍の姿が、いいのか」
    小さな手のひらが、肯定するようにきゅ、と強く握った。

    少しだけ不安だった。
    龍の姿を見て、泣き虫なこの子が怯えてしまわないか、私を拒絶してしまうのではないか。
    しかし、この子のほかならぬ望みであるなら受け入れるほかない。

    「湖はまだ怖いか?」
    「神さまがいっしょにおよいでくれるんでしょ、ならへいき」
    「うむ、では」
    本来の姿に戻る。影が伸びていき、その身体は空へ近づいていく。
    蒼い巨体に流れるような白銀の鬣が風に揺れてうねる。薄い水色の触角が二本空を切るように伸びていった。
    怯えていないか確認するために、ドラゴンガーネットの瞳を下に向けると、リオセスリはその蒼い目をぱちくりと瞬かせた。
    「神さま、大きくて、かっこいい」
    『怖くはないのか』
    グル、と唸るように声を響かせる。人間の身体とは違いうまく声が出せないので鼓膜に直接響かせるように声をのせる。
    「なんで?いつもとかわらないけど」
    『そうなのか??』
    「それに神さまのからだ、おれの目とおんなじ色でうれしい」
    『うれしい…のか』
    私の不安など吹き飛ばすような満面の笑みに、胸がきゅう、となった気がして思わず動揺してしまう。
    「りゅうの神さまといっしょならぜったいにおぼれないし安心だよ」
    『君が満足ならそれでいい』

    とことこと、近づいてきたちいさな手がそっと陽光を受けて鋭く輝く鱗に触れた。
    「かたいね」
    『けがをする、不用意に触るな』
    「ん」
    しかし子どもは恐れることなく、そばからはなれようとはしなかった
    『あまり近づいては』
    「けがしてもいいからいっしょがいい」
    何事にも臆しないゆえか、無知ゆえなのか。
    それとも私ならば酷いことにはわかっているからなのか。

    「神さま、どうしたの?」
    『いや』
    「およぎ方おしえて」
    『わかった、まずは力を抜いて水に浮くところから』

    身をくねらせて輪を作り、子どもを囲う。
    水に入ろうとするリオセスリは自分の震えを抑えるように一歩ずつ、力強く湖の中に入っていく。
    ざぷ、ざぷと水音を響く中、ひざ下から、下半身がすべて水に浸かる。その冷たさに肩が少し跳ねたが、身をゆだねるように、ぷか、と体を水の上に浮かせた。

    自らの足で未来に向かって歩みだしたリオセスリに、よくやったと歓喜する気持ちと共に、強い焦燥感を覚える。


    このまま水に攫われて行くように、居なくなってしまうのではないか。


    この子は私に全幅の信頼を置いている。
    しかし、この子は理解できていない。私は人ではなく神であるのだ。価値観もその歩みも全く異なる。
    そもそも本来はこのように人と交わるつもりなどなかった。『娘』たちと同じ孤独な子どもを助けてやるだけなのだと。しかしこの子が私を求めてくるからつい許してしまった。
    触らないでほしい、近づかないでほしいと思うのに、繋ぎとめておきたい、このまま私にすがっていてほしいと強く願ってしまっている。
    保護者としての憐憫であればよかった、しかし、これは神としての衝動なのかもしれない。

    神というものは人の信仰がなければ存在できない。

    「神さま、しっぽ…」
    『リオセスリ…』
    「いたいよ」
    いつの間にか、自身の尾を小さな身体に巻き付かせてしまっていた。柔く白い肌に蒼い尾が食い込んでしまっている。
    『!!すまない』
    慌てて離すが、少し赤くなってしまった。
    「はなさないで、神さま」
    その手は自らを傷つけたはずの尾をそっと掴む。
    『だが』
    「このままいっしょに浮かんで」

    眼を閉じて、波を受けながらゆったりと。浮雲の様に佇む子どもを見つめる。
    縋り付いてくるから仕方なく受け入れていたつもりだった。

    ああ、離れがたいと思っているのは、もしかして、私、なのか。

    「きもちいいね、神さま」
    『……そうだな』

    気づいてしまったところでもうどうしようもない。
    時間というものは不可逆なのだから。
    零れて、溢れた水を、元の盆に戻すことはできないように。

    「くしゅん!」
    「もうそろそろ上がろう、君には少し寒かっただろうか」
    水の中をゆっくり掻く手が撫でるように私に触れる。
    「へいき、もうちょっと神さまのこと見てたい」
    その顔には確かにまだ遊びたいと書いてあったが、少し震えているのを私は見逃さなかった。
    「また来よう、いつでも来ることができる」
    「…ん、わかった」

    「つかれたからだっこ」
    いつものようにそう言って抱っこをせがむリオセスリを見て私は微笑んだ。
    ――この子はまだ・・、小さな子どもだ。
    「良く泳げていたな」
    「んふふ、うん、またいっしょにおよごうね」
    「もちろんだ」
    腕の中の少し冷えた身体が沈みゆく日に照らされ、緋に染まり、そして、暗い帳の中に落ちていく。


    次の日の朝、隣に寝ているリオセスリの苦しそうな息遣いで目が醒めた。
    いつもよりも高い体温と火照った頬、どうやらこの子は風邪をひいてしまったようだ。
    「可愛い私のリオセスリ、身体はどうだ。まだ寒いか?」
    リオセスリは重そうな瞼をゆっくりと開けてごほ、と咳をしながら腫れた喉で答えた。
    「ん、神さま、ちょっときもちわるいだけ」
    「どうしたらいい?なにかほしいものはないのか」
    「だいじょうぶ、神さまがいっしょにいてくれたらいいよ」
    そういうと、心配そうな私の顔を見てリオセスリは力なく笑った。
    私はそんな痛ましい様子を苦虫をかみつぶした顔で見守るしかできない。
    水で絞った布を額に当て、布団をかけなおす。

    「君の好きなこれを」
    そういってジンジャーブレッドを差し出す。
    「…うん、ありがと」
    熱でとろりとした目が少し瞬き、そう言ってひとかじりしたはいいがしたはいいがそれ以上口にしようとしない。
    「ごめんね、なんかたべたくない、いたい」
    ごほごほ、と喉を触るリオセスリは涙目のまま悲しそうに俯いた。
    「そうか…なにか口にできそうなものはあるか?」
    「わかんない…」

    やはり、私にはなにもできない。

    「果実水ならどうだ」
    「…のむ」
    ごくごくと喉を鳴らしながらコップの中の水は無くなっていく。
    「おいしかった」
    「それはよかった」
    「何もしてやれなくてすまない」
    ううん、と力なく笑いながらリオセスリは私の手を取り頬に当てた。
    「そばにいてくれるのがうれしい、やさしいね、神さま」
    「私は、やさしく、など…」
    優しいなどとそのような評価は不相応だ。
    冷酷、無慈悲、無私、そういったものとは無縁の存在だと……思っていたのに。
    「神さまはやさしいよ、さいしょからずっと」
    「そうか、少し眠りなさい、このまま傍に居よう」
    「わかった、おやすみ神さま」

    幸せを願う心も
    繋ぎ留めたいという心も

    結局どちらも私のエゴでしかない。


    「神さま!元気になったからあそんで!みずうみにいこ」
    「君はまだ病み上がりだリオセスリ。今日は家の中にしておきなさい」
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