1122の日。
「ねぇねぇ! なんでお母さんはお父さんと結婚したの?」
幼年学校から帰ってくるなり、キラがカリダの足に引っ付いて聞いてきた。
「なぁに、キラ。帰ってくるなりいきなり」
帰って来たら手洗いとうがいでしょ? も促すも、キラは話を優先にして離れようとしない。
「だって学校で女の子達が話してたんだもん。今日は語呂合わせで良い夫婦の日なんだよって」
「あぁ、そっか。今日は11月22日だったわね」
カレンダー見てもうそんな時期かと思わず微笑む。
「ねぇー、なんで?」
ぐいぐいとスカートを引っ張るキラに困った様に笑うと、目線を合わせるようにしゃがむ。
「うーん、そうね。お母さんがお父さんの事大好きだからかしら」
そう言いながらキラの頭を撫でてやり、その後キラの柔らかな頬を両手で包む。
キラに言うのは少し恥ずかしいが、好きでなかったら今ハルマと一緒にいる事はなかっただろう。
彼が私とキラを受け入れてくれたから私達は今でも仲良く過ごせていると言える。
「僕もお母さんもお父さんも大好き!」
笑顔で大好きと言ってくれるキラに愛おしさが募る。
「私もキラの事が大好きよ」
「僕も大きくなったらお父さんやお母さんみたいに、大好きな人と結婚出来るかなぁ」
突然のキラの発言に目を丸くする。
「あら。キラは好きな人居ないの?」
まだ幼いキラには早い話ではあるが、いつか大きくなったら素敵なパートナーを見付けるのかと思うと少し寂しくもある。
「んー? 好きな人? あ! アスラン大好きだよ!」
「アスラン君かぁ」
何となくキラはそう言うだろうと予想はしていた。
お隣のアスランはキラの事をよく見てくれるし、本当にキラと同い年なのかと思う程大人びている子だ。
キラが好きなら同性だろうが否定はしないし、キラには幸せになって欲しいと願って止まない。
「いい? キラ。貴方が誰を好きになってもいい。私は、いえ、私達はずっとあなたの味方だからね」
「? うん。わかったぁ」
ぎゅっとよく分かっていないキラを抱き締めると直ぐに身体を離す。
「じゃあ今日はお父さんの好きなロールキャベツを作りましょうか! アスラン君も食べに来るって言ってたし、キラも手伝ってくれる?」
「うん! 手伝う!」
あの日はお祝いという訳では無いが、みんなの好きなロールキャベツを作る事になり、アスランも来て暖かな夕食になった。
* * *
「⋯⋯て事が昔あってね」
「まぁ! 素敵ですわ!」
オーブにあるヤマト夫妻の家で世話になっている、キラとラクスはもう時期コンパスに戻る事になっていた。
そんな中11月22日を迎えて、カリダは懐かしむように話をする。
「⋯⋯母さん、そんな昔の話⋯⋯」
「あら、良いでは無いですか。わたくしはもっとお話を聞きたいですわ」
「なるほどな。あの時キラがやたら“いーふーふの日”って言ってたのはそれか」
「もう⋯⋯アスランも蒸し返さないでよ⋯⋯」
むくれるキラを見て皆が笑う。
そろそろこの暖かな時間も取れなくなるだろうと言うことで、アスランとカガリも訪れて居て賑やかだった。
「おーい、キラ。ちょっといいか?」
「はーい。何?」
別部屋でハルマの呼ぶ声が聞こえて、キラは返事をしながら、リビングから出て行く。
「⋯⋯けど、本当に皆がキラの傍に居てくれて良かったわ」
キラが席を外してカリダは目を伏せる。
「あの子にずっと秘密にしていた事が知られて、どう接したらいいのか迷っていたの。けど、皆が居てくれたからキラは立ち直れたし、前を向いてくれていると私は思うの」
キラは出生の件を秘密にしていたカリダを責めなかった。責められても仕方がないと覚悟をしていたのに、キラはカリダを母だと今でも接してくれる。精神的に疲弊していたキラがまた穏やかな顔をして過ごせるようになった事が本当に嬉しい。
「⋯⋯俺はキラのご両親がお二人で良かったと思ってます。2人の子供で無かったら、俺とキラは出会えていなかったですし、キラもあんな風には育っていない⋯⋯」
「そうだな。お二人がキラを育ててくれて、本当に感謝してもしきれない」
「キラも言葉には出さなくてもお二人に感謝していると思いますわ」
アスラン、カガリ、ラクスから次々言って貰えた言葉に胸が詰まる。
「ありがとう⋯⋯これからもあの子の事、よろしくお願い出来るかしら?」
「「「もちろん」」ですわ」
カリダに3人とも強く頷いてくれて、涙が出そうになった。
「ん? なんか話盛り上がってる?」
戻って来たキラにカリダは優しく微笑む。
「キラ。貴方が私達の子供で本当に良かった。これからも父と母としていてもいいかしら?」
カリダの言葉にキラはきょとんとして直ぐに微笑む。
「当たり前でしょう? 僕の両親は2人だよ。これからもよろしくお願いします」
キラの言葉に涙が一雫溢れた。
「ふふ」
「あれ? 母さん泣いてる?」
「いいえ。これは嬉しさが出たのよ」
「そっか⋯⋯」
ほんわかと暖かなヤマト夫妻とキラを見て、三人もつられて微笑む。
「⋯⋯やっぱり俺の中で良い夫婦はヤマト夫妻しか居ないな」
「そうですわね。わたくしもキラとこのような夫婦になれるように頑張らなくてはなりませんわね」
「⋯⋯まだ気が早くないか? まだキラを嫁に出したくないなぁ」
「カガリ? 僕は男だよ? 嫁は違うんじゃ⋯⋯」
「あら。わたくし、キラならお嫁さんにしたいですわ」
「キラが嫁なら俺が婿でいいんじゃないか?」
「はぁ!? ラクスはともかく、アスランにキラは簡単にやれないぞ!?」
何故か始まったキラの取り合いにヤマト夫妻もキラも目を丸くした。
「本当にキラはみんなに愛されてるわね」
「まぁ愛されるのは悪い事じゃないからな」
「⋯⋯うん。けど、僕まだ結婚とか考えてないよ⋯⋯? やること沢山だし⋯⋯」
「⋯⋯まぁ気長に待つわよ」
「そうだな⋯⋯」
果たしてキラが結婚する日がいつになるやら。そして相手も誰になるのか全く予想もつかない。
「⋯⋯じゃあ今日は皆でロールキャベツを食べましょうね」
「あ、僕手伝うよ」
「すっかりこの日はロールキャベツを食べる日になったなぁ」
ほんわかとしたヤマト家の会話とは反対に、バチバチのライバル関係の二人+姉の3人はキラへの想いを言い合っていたが、夕食が出来上がると大人しく食べて、まったりとした良い夫婦の日を過ごしたのだった。