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    長生きしろよ
    @jakaasea

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    夏の便利屋

    晩夏 めぼしい夏の行事は終わってしまった。人々の歩みは夏の大きな脱け殻を抜けていく。風は汗やら水やらの湿り気を含んでだらりとぬるく、あらゆる熱とだるさは駅から駅へ、通りから路地へ、人にへばり付いてつきまとう。気温31度のそんな朝のこと。

    多田便利軒のクーラーが壊れたのはつい昨日の夜だ。
    ゲッソリした顔の多田がかなり乱暴に自室スペースと事務所の仕切りのカーテンを開ける。
    暑い、眠い、眠れたもんじゃないと呪いの様に呟きながら貼り付くシャツをつまんでは離す。自分の汗のにおいにうんざりしながら流しに立つ。
    この広いまほろ市に便利屋を置きながら、今日の仕事の予定はゼロ。ラッキーストライクは残り一本。反比例して増える請求書。
    何かしら依頼をくれたって良さそうなのに
    またビラでも撒くかなぁ。
    顔を洗ってすぐ汗が噴き出してくる。汗なのか水なのか分からない。うんざりだ……とタオルを首にかけ、ソファに身を投げ出す。
    こんな時に残り一本か…
    ため息代わりに細長く吹く煙もなんだか汚ならしく部屋の空気に散る。暑過ぎて空気すら伸びているような気がする。作ってから時間がたったラーメンみたいに…
    腹は減っているが動くのが面倒くさ過ぎる。
    多田は茹だった頭で伸びきったラーメンを想像した。
    麺はだるだるで箸で持ち上げただけで切れてしまい、分裂した短い麺はしょうゆ色のスープの中へ帰っていく。どうしてレンゲが付いていないんだろう?いっそ掬って食べればよくないか?ぶつん、ぶつん…

    食糧を求めて外へ出る。億劫で鍵はかけなかった。
    朝の外気はまだマシに感じられる。


    「多田ー」
    「なんだよ…俺はもう疲れたよ」
    「見てこれ」

    行天が回数券を拾う 多田いさめるけど電車に乗る 電車で寝る 起きて散歩する 帰りの福引きでくじびき当たる旅行券をクーラー代にあてる
    「ええ、俺たちってフィクションだから税金なんてかからないんじゃないの」
    確かにお前は存在自体がフィクションみたいだよ行天。
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