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    長生きしろよ
    @jakaasea

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    MAIKING二十歳岸辺露伴は二十歳である
    つまり酒が飲めるようになったのは最近のことである
    彼はいわゆるワクだ ワクというのはザルの更に上のレベルである 引っかかるものすらなく底無しに酒が飲める体質という意味だ
    しかしいくら底無しとはいえ、人間であるからにはアルコール許容量の絶対値というものが必ずある
    彼は以前しっかりした酒量を入れた事があったが、存外酔わず、また二日酔いにもならなかった
    となるとやはり気になってくるのは「自分の酒量の限界はどのあたりだろう?」ということだ
    (彼の死因はいつだって結局は好奇心だ)
    (自分の酒量の限界を知っておくのは大人、そして酒を嗜む者にとっては大切な事でもある)

    彼はまず後に3日の休みを確保し、それから編集者と作家たちの飲み会に初めて顔を出した
    編集者、作家たちは大いに喜び、また歳若くも孤高の天才作家である露伴をここぞとばかりにイジリ倒し、やっかみやら羨望やら人脈作りたさやら、純粋に友達になりたいだけの奴までそれはもうゴッチャリと彼に絡みにいった
    どうせ酒を飲むなら飲み会というものも経験しておこうという趣旨だったが、そもそも人間関係が面倒と思っているなら別に来なくても 2038

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    CAN’T MAKE行天についての考察行天春彦は幼くして分別の良くつく子供だった。
    神の声を信じる両親のもとに生を受けた彼は、それでもまだ物心がついてしばらくは世の中は平和で正しく、両親は完全で、自分もまた完全に、幸せに生きるものだとそう思っていた。
    最初に違和感を覚えたのは彼が幼稚園にやっと入ったくらいの年だった。大流行した病気に彼もまたかかった。それまでも軽い風邪を引いたりはしたが、大病はしなかった。酷く苦しい思いをしたものの出席停止期間内には回復した。だが元気な子であれば2、3日あれば全快するような病気だった。彼はクラスメイトから病院での注射が怖かったという話を聞いた。どうやら休んでいた子たちはみんなそこへ行ったらしい。
    彼の両親は新興宗教の熱心な信者だった。浄水器の不純物濾過率や食品添加物をいつも気にした。過激なオーガニック愛好が修行、神の声が聞こえることが悟りと定義された世界。外野から見ると小さな世界だが、両親にとっての世界はそこがすべてだった。

    教団の食事は毎度質素で味気ないものだったが、学校では給食が出た。初めて給食を食べた日、幼い行天はその美味しさに心底驚き、体が飢えていることに気がついてしまった。
    そも 1693

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    MAIKING夏の便利屋晩夏 めぼしい夏の行事は終わってしまった。人々の歩みは夏の大きな脱け殻を抜けていく。風は汗やら水やらの湿り気を含んでだらりとぬるく、あらゆる熱とだるさは駅から駅へ、通りから路地へ、人にへばり付いてつきまとう。気温31度のそんな朝のこと。

    多田便利軒のクーラーが壊れたのはつい昨日の夜だ。
    ゲッソリした顔の多田がかなり乱暴に自室スペースと事務所の仕切りのカーテンを開ける。
    暑い、眠い、眠れたもんじゃないと呪いの様に呟きながら貼り付くシャツをつまんでは離す。自分の汗のにおいにうんざりしながら流しに立つ。
    この広いまほろ市に便利屋を置きながら、今日の仕事の予定はゼロ。ラッキーストライクは残り一本。反比例して増える請求書。
    何かしら依頼をくれたって良さそうなのに
    またビラでも撒くかなぁ。
    顔を洗ってすぐ汗が噴き出してくる。汗なのか水なのか分からない。うんざりだ……とタオルを首にかけ、ソファに身を投げ出す。
    こんな時に残り一本か…
    ため息代わりに細長く吹く煙もなんだか汚ならしく部屋の空気に散る。暑過ぎて空気すら伸びているような気がする。作ってから時間がたったラーメンみたいに…
    腹は減っているが動 832

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    MAIKING真冬の便利屋ソファの下には缶がある。とうの昔に中身をなくした小さなクッキーの缶だ。最近はたまに何かが入っていたりいなかったりする。
    「…」
    居候は時々その蓋を開けて中を眺めつつタバコを吸っている。
    今日は随分長くそうしているような気がし、多田は斜向かいをパソコン越しにチラと見遣った。
    卓上スタンドとパソコン画面の明るさから夜の薄暗い居間へ、明暗に目が追いつかず表情はよく見えない。
    奴の背中を丸めて座るシルエットがソファと毛布、雑然とした部屋の影全てと繋がって何か人ではないモノに見えた。ソイツが長い指で弄ぶ缶は暗い金光りをさせている。それがストーブの火に照らされ生き物のようにテラ、テラ、と動いている。
    一瞬、多田は居るはずのない所へ来たような気がした。
    「行天?」
    「…うん?」
    「何してんだそれ」
    黒い影は蓋を外した缶をちょっと掲げてみせる。
    「多田には内緒」
    内緒なのか…なんなんだ内緒って
    言葉尻を聞きながら目を閉じこめかみを揉みほぐす。少しののち目を開けると多田便利軒の景色はいつも通りに見えた。
    オーバーワークだったかな…目がチカチカする
    スタンドの明かりを消し、椅子から立ち上がってストレッチを 2257

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    MAIKING行天とハイシーについて 晩夏の国道ハイシーは四車線の国道沿いを歩いていた。
    とんでもない夏日だ。晩夏の趣きにガソリンをぶちまけ火をつけたような、野蛮な日差しがまほろ市の全てを焦がしていた。
    九月半ばの午後三時半、防災放送が遠くから聞こえる。光化学スモッグ注意報の発令を知らせるそれは熱い空気に溶けて消えていく。
    熱中症に注意を呼びかけるとかじゃないんだな…
    ぼんやり思う間にも汗は流れ落ちてくる。まだすっぴんの目に入りかけたそれを瞬きで弾き飛ばした。
    シルバーの日傘にはデコラティブな刺繍が施されている。ルルの持ち物の中では比較的大人しい色合いをしており、機能性が良いためハイシーも気に入りなのだ。
    今日は借りてきて本当に良かった…
    ルルはまだハナと一緒に部屋で伸びてるのかなあ…帰ったらハナに水浴びさせてあげよう。ついでにルルと私もさっぱりしよう。
    日傘の下で蒸されつつ赤信号の道向こうを眺めると、揺らめく逃げ水の中に見覚えのある背中がある。
    便利屋の多田…の相棒の方だ。もう少し先に多田もいて二人で除草作業中らしい。広い歩道の一部に設えられた花壇は、確かまほろの商店街か何かの組合が管理しているような話を聞いた覚えがあった。
    しか 3023