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    長生きしろよ
    @jakaasea

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    POIPOI 23

    二十歳

    岸辺露伴は二十歳である
    つまり酒が飲めるようになったのは最近のことである
    彼はいわゆるワクだ ワクというのはザルの更に上のレベルである 引っかかるものすらなく底無しに酒が飲める体質という意味だ
    しかしいくら底無しとはいえ、人間であるからにはアルコール許容量の絶対値というものが必ずある
    彼は以前しっかりした酒量を入れた事があったが、存外酔わず、また二日酔いにもならなかった
    となるとやはり気になってくるのは「自分の酒量の限界はどのあたりだろう?」ということだ
    (彼の死因はいつだって結局は好奇心だ)
    (自分の酒量の限界を知っておくのは大人、そして酒を嗜む者にとっては大切な事でもある)

    彼はまず後に3日の休みを確保し、それから編集者と作家たちの飲み会に初めて顔を出した
    編集者、作家たちは大いに喜び、また歳若くも孤高の天才作家である露伴をここぞとばかりにイジリ倒し、やっかみやら羨望やら人脈作りたさやら、純粋に友達になりたいだけの奴までそれはもうゴッチャリと彼に絡みにいった
    どうせ酒を飲むなら飲み会というものも経験しておこうという趣旨だったが、そもそも人間関係が面倒と思っているなら別に来なくても良かったな、と結論づける他なかった それに飲み放題の薄い発泡酒の味はまだ大して飲み慣れてもない露伴でもゲンナリだった
    周りがグダグダしてきた頃合いで適当に退散しようと上着を羽織っていると、この店の酒じゃ露伴先生のお口には合わなかったでしょう?飲みなおしませんか?二十歳のお祝いでもさせてくださいよ、と編集者の中でもまあまあエライと記憶している男が声をかけてきた
    その男とあと1人、露伴の3人で抜け出して向かった二軒目はオーセンティックなバーだ
    格式高くはあるものの、カウンター天板の角の使い込まれた丸みや音響、チェアの掛け心地、照明などはとても居心地よく、柔らかい雰囲気で露伴たちを包み込む
    ウィスキーの種類が豊富な店で、ウィスキー初心者の露伴にはハイボールから勧めてくれる
    それが美味しかった
    ハイボールから始めて水割り、4杯目にトワイスアップを飲んでいると編集者たちは目を細めて「どうです?いいでしょうこのお店 ウィスキーも美味しいけどカクテルもとても美味しいんですよ」「先生、ワクですねえ いいなあ」「また美味しいお酒ご馳走させてくださいよ、たまには連絡ください」「僕らは編集者だが貴方のファンでもあるんだ」と口々に言う
    この性格の、青二才と思われてもおかしくない歳下の自分を相手に、良くめげずにコミュニケーションを図ろうとするものだ…と年長の社会人たちの心の練れ具合に素直に尊敬の念を抱いた
    バーの店主はピンクダークの少年を熱心に読んでくれており、保存用だという初版の一巻に露伴はサインを入れてやった
    資料で使うなら店内やカウンター内の写真も撮って良いと言うのでホクホクしながらシャッターを切り、満足した頃にはエライ編集者のツレの方は寝こけていた
    その寝こけ方が絵に描いたようで良かったのでしばらくスケッチをすることにした
    「こいつ、先生にスケッチされてるって知ったら飛び起きちゃいますよ」とエライ編集者が押し殺した笑い声でクツクツと肩を揺らし、
    バーの店主もウィスキーを傾けつつ露伴の早筆を熱い視線で眺め「いやあ…凄いなぁ」と漏らしている

    起きている3人のグラスがロックにかわり、チェイサーの水が2回注ぎ足され、深皿のマカダミアナッツが殻だけになった
    そして露伴がその辺のものをあらかたスケッチし終えた頃、2人連れの客が入店してきた
    こちらを見た途端あっ!と声を上げて近寄って来る そういえば先程の飲み会で見た顔だ
    俺たちも露伴先生とイチャイチャしたかったのに!抜け駆けなんてズルいです!とエライ編集者に詰め寄り肩を揺すっている エライ編集者の方は早い者勝ちだよ、と言いカラカラと笑っていた
    2人連れは一方が漫画家、もう一人は編集者だった
    しばらく5人でグラスを傾け漫画の話などをするうち、寝こけていた編集者がやっと起きた
    話のキリも良かったので会計をして店を出ることにする
    「お会いできて良かった また是非いらしてください」とバーの店主は握手をしながら露伴に言い、先生はどうやら特別お酒強いようですから…けど一応お守りに、とパックのオレンジジュースをくれた
    お酒をよく飲んだ時は甘いものも摂ると良いですよ、お水も飲んでくださいね、という店主のアドバイスを頭に留めながら大人5人で暫く繁華街を歩く

    先程寝こけていた編集者は完全に睡眠モードになってしまったらしく「先生〜お休みなさい〜!また一緒に飲みましょうね!」とフニャフャ挨拶し、あとから来た編集者の方と2人で帰路に着いた
    タクシー乗り場で見送りをし、エライ編集者とあとから来た漫画家の方、露伴の3人が残った
    「ねえ先生、ラーメン行きません?それかこの辺りに旨いお茶漬け屋があるんですけど…どっちの気分です?」
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