リツキさんはとにかくお金の使い方が荒い。
服なんて、僕が一年かけて使う額を一着で軽く越えてくるし、アクセサリーも僕のバイト代を何か月分かまとめたような値段のものを平気でいくつも持っている。食べるのも好きだから、毎週のようにちょっといいお肉を食べに行きたいと言うときもあるし、ランチより高いスイーツを「写真撮りたいから」なんて言って食べに行く。それに付き合ってたら僕は破産してしまう。けど、そう言っても「俺が奢るからさ〜」なんて簡単に言って払ってしまう。
お金を使うこと自体は悪いことじゃない。稼いでる人が稼いだ分を好きに使うのは自由だと思う。でも、問題はそのあとで「金がねぇ〜…」としょっちゅう嘆いてることだ。
僕たちは数ヶ月前から一緒に住んでいる。住み始めたとき「もっと大きいベッドほしいなー」なんて軽く言ったと思ったら、数日後には本当に部屋にどーんと巨大なベッドが届いていた。その次の月、残高不足でカードが止まっていた。その後すぐお金は入ったらしいけど。
「スズヤ〜この服どっちがいいと思う?」
リツキさんがスマホを見せてきた。画面に映っているのはクマのイラストがついたパーカーで、違いといえば片方はケーキ、もう片方はパフェを食べているくらい。正直、僕は絶対買わないタイプだから違いなんてよく分からないし、どっちでもいい。
「……どっちも似合うと思いますけど」
「え〜じゃあどっちも買えばいいか」
サラッと言ってスマホを引っ込めようとする腕を、慌てて掴んだ。
「いやいやいや、なんでそうなるんですか」
「え?」
「それ、いくらするんですか」
「えっと……五万だって」
信じられない数字があっさり口から出てきた。
「ふたつ買ったら十万ですよ?」
「え、そうだね?」
何が問題なの?と言わんばかりの顔。問題しかない。もちろんリツキさんならそのくらい払えるのは分かってる。でも絶対後でまたお金がないと嘆くに決まってる。そもそもパーカーで一着五万ってなんなんだ。僕が持ってるスーツより全然高い。
「ケーキ、ケーキのやつの方が断然いいんでそっちだけにしましょ」
「そう?ならそうしよ」
そう言って納得したようにまたスマホを触りだした。スマホをポチポチして購入し終わったくらいでリツキさんがまたこっちを向く。
「一着分浮いたし今日焼肉でも食べに行きたいな〜」
「浮いたの意味が分かんないんですけど…」
「上々苑行がいいな〜」
僕の話なんて聞かずに勝手に話を進めようとする。
「食べ放題にしましょうよ、なんかフェアとかやってますよ」
「え!見せて!それもいいな〜」
僕が近場の焼肉食べ放題のHPを見せるとリツキさんが食いついてきた。リツキさんは高い焼肉も好きだけど、別に舌が超えてるわけじゃない。むしろ子供っぽいところがあるから“食べ放題”とか“バイキング”とか結構好きだ。嬉しそうにメニューを眺めている姿を見て、僕は少し安心した。
たくさん選べるからって理由で一番高いコースにするんだろうけど、高級焼肉店よりは全然マシだ。
「はあ…」
こんな風にお金を使わないように気を回したとこで違うとこに使うんだろうな…この前だってアプリのゲームにムキになって、僕がドン引きするくらい課金していたし。
それでも、前よりは困っている姿を見なくなった気がする。僕がそばにいる分、止められる機会が増えたしベッドの件でさすがに多少は反省したはず。
そんなことを考えていたら、リツキさんが後ろからひょいと顔をのぞかせてきた。スマホを返してきながら「これありがと」と軽く抱きついてくる。
「てかさ、スズヤ最近ちょっと太った?」
「えっ」
図星だった。体重は測ってないけど、鏡を見たときに心当たりはあった。この人の食生活に付き合ったせいだ。リツキさんはどれだけ食べても太らないけど、僕は違う。普通に食べすぎれば普通に太る。
「やっぱり今日、焼肉行きません」
「え〜!なんでだよ!大丈夫だって!ぽっちゃりした子も好きだから!」
「やめてください!僕にそういうの求めるの!一人で行ってください!」
「やだやだやだ!」
そんなやり取りをしたけど結局食べ放題には行ったし食べないともったいないから食べすぎた。…………運動しないとな。