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    kk_a1004

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    kk_a1004

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    図書室でドキドキなどしたいよね。

    秋、窓の外は既に薄暗い。ワイシャツ1枚では少し肌寒いな、上着持ってくればよかったかな。など思いながら図書室の棚に参考書を返す。
    高校1年生の秋、文理選択も分かれ始め受験という現実がヒシヒシと迫る。

    「飽きちゃったなー」

    独り言を呟きながら本棚に視線を滑らせる。さすが氷帝学園、蔵書数も桁違いだ。なんとなく目に付いた本を手に取る。『経営学の基本』パラパラとめくってみるが私の世界とはまるで縁のない言葉で頭の中がすぐ疑問符で埋まる。彼は、この世界にいずれ飛び込むかもしれないんだ。
    その隣に置いてあったテニス雑誌を手に取る。見出しには『氷帝学園の強さの秘訣とは?部長の跡部景吾くんにも取材!』

    「跡部くんって、すごいなー」

    雑誌を読みながら思わず口からこぼれる。私が中学3年生の時なんて、当たり前に取材を受けたことなんてない。撮り下ろし写真なんてのもあってまるでモデルみたいだ、まぁそのくらいカッコイイのも事実なんだけれど。

    『跡部くんは今お付き合いしてる方は?』

    そんな質問が目に入る。テニス雑誌で何を聞いてるんだと思わず二度見したが見間違いでは無かった。だが彼の人気を考えればそんな質問があるのも理解できる。私も彼のファンだったら絶対に気になる、多分、おそらく。
    ドキドキしながら彼の答えを見る。

    『いませんね、今はテニスの事しか考えられないので』

    そう書かれてあった。こんな答え方、ファンの子に一抹の期待を抱かせてしまうではないかと思わず苦笑する。

    付き合っているのを公表しないで欲しいというのは私の願いだ。あの跡部景吾に彼女がいるなんて知られたら大変なことになる。多分学校はその日1日機能しないし女子たちは授業を受ける気になんてならない。というのは冗談として、跡部景吾という立場を背負っている彼の邪魔になりたくない。という私のささやかな願いだ。彼の進む道の邪魔になるような事はしたくない、そういうと彼は納得してないようだったが了承してくれた。彼のことだ、きっと本当は堂々と公表して並んで歩きたいとか思っているのだろう。なのに私の意思を尊重してくれるあたり、彼はやはり優しいと思う。

    「テニスの事しか考えられない、か」

    彼の答えを復唱する。

    彼のテニスをしてる姿に惹かれた。彼のテニスをしている時に見せる凍てつき刺すような視線に心を奪われた。泥臭く気高い唯一無二の彼のテニスが私の神様だ。

    いずれ彼が私とテニスを天秤にかける日がくるのかもしれない。その時には彼はテニスを選ぶのだろうし、私もそうして欲しいと思っている。血迷って彼がテニスを捨てるなど言い出したら怒ってしまうかもしれない。

    「でも寂しいなー、うーん」

    彼がテニスを選ぶ日を想像し少し胸が痛んだ。彼との時間は今は当たり前だ、でもその当たり前がいつ消えるかなんて分からない。なんだか勝手に1人で寂しくなってしまい近付く足音に気が付かなかった。

    「おい」

    後ろから響いたのは聞き慣れた声。みんなの前では凛としていて、でも私の前では少し甘い、これは私だけが知っている特権だ。

    「跡部くん」

    振り向いて彼を見上げる。彼の碧紺色の目に吸い込まれる。

    「勉強か?」

    彼が少し首を傾げる。髪がサラリと揺れる。

    「うん、跡部くんは?」
    「ちょっと資料取りにな」

    そう言って彼が手に取ったのは私がさっきパラパラと見ていた『経営学の基本』
    偶然だけど少し嬉しくて口角が上がってしまう。

    「嬉しそうだな」

    資料を片手に私をチラリと見た跡部くんはそう言う。

    「なんか跡部くんと一緒にいれた気がして」

    そう返す、彼は少し不思議そうな顔をしたが、「フン」と笑い本に目を戻す。私が楽しそうならいいかという気持ちだあれは、多分。

    開いた窓から風が吹き込む。そういえば肌寒かったのを思い出した。肩をすくめ寒さを逃す。もちろん跡部くんは目敏い。

    「これ着とけ」

    そう言い彼のブレザーが肩にかけられる。彼の香りに包まれ心臓がうるさい。彼の香りは隣で今まで沢山知ってるはずなのに、まだこの瞬間には慣れない。

    「…ありがと」

    そう返し彼のブレザーの襟元に少し顔を埋め息を吸う。心がいっぱいになり暖かくなる。

    「でも跡部くん寒くない?あ、てかこれいつ返せば」

    1人でワタワタとする私に跡部くんは楽しそうに笑う。

    「帰りにでも返せよ」

    これで放課後の予定ができたなと私の頭をポンと撫でる。

    「…じゃあ最終下校のチャイムなったら、校門で待ってるね」

    俯きながら何とか小声で返す。跡部くんは狡い、いつも私の心臓を持ってく。

    「それと…」

    彼が近付く。目の前に彼が迫る。顔を上げられない、多分いま耳まで赤い。
    彼が膝を曲げるのが視界に入る。覗き込まれる形で彼と目が合う。
    彼の唇が頬に触れる。火傷したみたいに熱い。

    「余計なこと考えてるみたいだったからな」

    視線を逸らすことを許さないというように彼の手が私の頬に触れる。

    「俺にはお前だけだ、お前がいれば、いい。」

    そう言い額同士が触れる。彼には敵わない、全てお見通しだ。

    「……うん」

    何とか声を絞り出すと彼は満足したように頭をひとなでし本を手に出口へ向かう。

    「勉強頑張れよ先輩、また後でな」

    もうちょっと頑張ろうかなと新しい参考書を手に取った。
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