菊田は、渋くて暗い萌黄色をした洋傘がお気に入りだ。特別に仕立てさせたものだそうだが、職人が死んでしまったので、もう同じ物は作れないと言う。気に入ってはいるが大切に仕舞うのではなく、雨の日にはよく差している。杉元を拾った夜にも差していた。
他にも、菊田は物を集めるのが趣味なようで、日本刀やら外国製の短銃やら、いろんな物を所有している。だからきっと、自分も収集物のひとつなのだろうと杉元は思っている。滅多にいない特別な性を、しかも菊田と対になる性を有する存在だから。珍しいもの好きなのだ。
「あのコートもなかなか良いもんだぜ。どこの仕立屋に作らせたんだ」
「さあ、俺は知りません」
杉元が着ていたとんびコートは濃い鼠色をしていて、本当は少し丈が長くてサイズが合わない。元はあの人のものだったから。
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