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    Luinil7

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    みなさんが海の日記念で色んな海ちゃんをアップされてたので、私も何か書くか〜とお題ガチャして出てきたのがコレだった。うーん診断メーカーくん流石。

    しかし毎回似たような話で申し訳ない😇

    それはどういう意味ですか【2】「ウミ。お前は気は長いほうか?」
    「え?」
    唐突にそう訊ねられて、海はきょとんとした表情で大きな目を瞬かせる。
    「・・・内容による、と思うわ」
    クレフの意図が掴めず、困ったように首を傾げて曖昧な答えを返した海に、セフィーロ最高位の導師は「なるほど、それはそうだな」と小さく笑った。
    クレフは徐に執務机から立ち上がると、応接用のテーブルに宿題を広げていた海の、向かいのソファーへと腰を下ろす。その視線はノートの端を押さえるように置かれていた少女の左手へと向かった。
    ―――正確には、その薬指に。
    「クレフ?」
    海が再び首を傾げる。
    「なぁに、休憩?お茶にする?」
    控えめな期待がこめられた声はいつもよりワントーン高い音でクレフの耳を擽り、そんな些細な変化さえ「可愛らしいな」と頬が緩みそうになる。
    いや、と軽く首を振りながら、クレフは参考書や筆記具を片付けようとしていた海の手を柔らかく捉えると、その薬指に嵌められた銀色の指輪をついとなぞった。
    「え、っな、なに?」
    突然の予期せぬ行動に―――しかも手を握られて、海の頬にサッと朱が差したがそんな様子はどこ吹く風とばかり、クレフの指は何かを確かめるように指輪の上を行ったり来たりしている。

    「・・・あの、クレフ?」
    触れられるのは嬉しい。伝わる体温は愛おしい。
    けれど、この行動の真意がわからない。
    様々な感情が綯い交ぜになり、いっそ不安げな表情で名を呼んだ少女に、クレフはそっと口を開いた。
    「・・・これを贈った時、言っていたな。男が女に指輪を贈るのは、チキュウでは求婚の意味になるのだと」

    いつかのバザールでクレフが買ってくれた指輪。
    その意味を知ってか知らずか左手の薬指に手ずから嵌められた海は、口から飛び出してしまいそうなほど早鐘を打つ心臓の代わりに、指輪と結婚にまつわる地球の風習をあれこれとまくし立てたのだった。

    「い、言った・・・けど」
    あの時のことを思い出し、海の顔はますます赤みを増していく。
    いい虫除けになるから身につけておけ、と言われた通り、あれから地球でもセフィーロでも、海の薬指にはいつだってこの指輪が光っていた。
    いつも着けていろと言ったのはクレフなのだからと言い訳を用意していたものの、今日の今日までクレフが指輪について言及したことはなかった。

    顔が熱い。重ねられた手を振り払えなどしないが、それでも静かな表情で自分を見つめる水色の瞳に耐えきれず、せめてもの逃避のように視線を彷徨わせた海の耳に、信じられない言葉が追い打ちをかける。

    「―――そういう意味だった、と言ったらどうする」

    時間が止まった。
    いや、勿論そんなわけはないのだが、そのように海は感じた。
    聞こえた言葉を脳内で反芻すること三回、その意味を咀嚼するまで実際には何秒経っていたのだろう。

    「・・・・・・・・・へ・・・?」
    そうしてようやく絞り出せたのはたったの1音。ぽかんと開かれた口はそれ以上動くことはなく、クレフはフッと微かに笑うと、重ねていた海の左手を俄に持ち上げる。
    「この国がもう少し落ち着いて、私の身が今より多少自由になった時。・・・もう一度、お前に指輪を贈りたい」
    もちろん、ここに。
    そう言って薬指に嵌められた指輪にそっと口付けてみせると、声にならない悲鳴が海の喉の奥で弾けた。そのまま石像のように固まった少女を上目遣いに見遣った齢745の男は、人間の顔とはここまで赤みを帯びられるものなのかと暢気に思う。
    果たしてこの言葉は彼女に正しく届いているのだろうか。
    もはや海の両目には混乱がぐるぐると渦巻き模様を描いているような気さえする。
    だがここまで口にしたからには、クレフとしては了承を取り付けておきたかった。
    ウミ、と敢えて低めた声で名を呼ぶと、ギギギ、と軋む音が聞こえてきそうな様子で海が顔を向ける。それが思考処理能力が限界に達した脳の、音に反応しただけの反射運動でないことを祈りながら、クレフは問うた。

    「それまで、待っていてくれるか」

    乞うような言葉と視線に、海の瞳から僅かに混沌の波が引く。
    まだ彼女の脳内では「そういう意味だった、と言ったらどうする」という先の言葉さえ消化しきれていなかったが、ハムスターの回し車のように空回っていた思考はかろうじて「返事をしなければ」という答えを海に与えてくれた。

    「・・・・・・はい」
    反射ではない、確かな意思を感じる声が、了承の意をクレフに示す。
    さしもの導師も緊張していたのだろうか、ほっとしたように彼の纏う空気が緩んだ。
    「けど、」
    赤い顔を隠すように両手で口元を覆い、クレフから視線を外した海がもごもごと言い募る。

    「あんまり引き伸ばされたら、千切れちゃうかも・・・」

    私の気。
    照れ隠しなのか、拗ねたような表情でそんなことを告げる少女にクレフは虚を突かれたように目を瞬くと、珍しく笑い声を上げた。初めて聞くその声に、海は再びぽかんとしてクレフを見つめてしまう。
    くつくつと笑いを収めたクレフがおかしそうに、しかし愛おしそうに目を細めて視線を返すと、もう一度笑った。

    「では、先に言葉だけ贈っておこう」
    そう言ってクレフが囁くように告げた言葉に、海は今度こそ限界を迎えてソファーに倒れ込んだのだった。




    140字お題:結婚しちゃおっか


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