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    晩鐘⚰️夢 /🌸視点
    前回書いた出会った時の過去の小話の🌸視点の話です。
    注意書きは初回の内容を確認してください。

    つくづく、噂は噂でしかないのだと思う。

    「あれが噂の?」
    「宰相の一人娘の…」
    「生まれつき身体が弱いそうね」
    「精神も病んでいるとか」
    「変人を通り越して狂人だと聞いたわ」
    「あれでは政略結婚にも使えない」
    「いくらお父上に実力があってもね」
    「とんだお荷物……」
    「学院には厄介払いで来たとか」

    お荷物なことには違いないけれど、私の両親は確かに私を愛していた。
    この学院に来たのも、療養の目的もあってのことだった。
    自然も豊かで、敷地も広い。好きなことをして自由に過ごしても誰も叱らない。
    退屈なほど……、

    入学してしばらくは、私に媚びへつらう子もたくさん居た。
    蠅のようにたかってくるのが煩わしくて、全員追い払ったけれど。
    周囲から離れていっても、騒々しさは消えなかった。

    「あの森に居た──ジャスミンって猫、最近見かけないな」
    「……やっぱり、『晩鐘』が捕まえて殺しているんじゃないか?」
    「そういえばこの前も、……」

    「……」

    もしそれが本当なら、いっそ彼に殺された方が世のためになるのかしら。
    人間の解剖なんて、早々できないもの。

    ちらりと、遠目にサークル棟を見る。
    彼の部室はあの棟の地下にあるらしい。
    しかし、サークル棟の近くは色々な生徒で賑わっている。

    「(とてもじゃないけど、近づきたくはないわ)」

    だからこうして、川辺を歩く。
    この時間帯は各々好きなことをしているから、このあたりには人が少ない。

    川のせせらぎと、鳥の囀り、草木が揺れて、虫が鳴いている。
    その音に合わせて、意味のない空っぽの歌を歌う。
    足元に咲く美しい花々を摘み取っていく。
    それを編みながら、でも渡す人なんていないのだと気付く。

    「……やっぱり、厄介払いだったのかもね」

    突然の胸の痛みに呼吸が詰まり、思わず身体を縮め座り込もうする。
    足元の泥濘が、私の身体を川へと放り投げた。
    ぐらりと視界が回転し、冷たい水が身体を包んでいく。
    手元を離れた花々が川を流れていく。
    言うことをきかない手足を動かすことを早々に諦め、私は小さく笑った。

    遠くで、時計台の鐘が鳴る。
    そういえば、時計台には幽霊がいるのだっけ。
    私も、新しい謎として永遠に学院内を彷徨うのかしら。
    ……なら、このまま歌い続けた方が劇的かしら。

    くすくすと笑う。
    水を含んだ布は重く、ゆっくりと身体が沈んでいく。
    目を閉じて、水に身を委ね、何処かで聴いたマザー・グースを歌う。

    ──冷たい。

    呼吸ができなくなっていることに気付いて、自分の身体が完全に沈んだのだと理解した。
    私はこのまま溺れて死ぬのだろう。

    けれど、私の予想は大きく外れた。
    温かい両手に抱きしめられ、私は池のほとりへと連れ出されたのだ。

    数度咳き込み、その姿を捉えた。
    灰色の髪を濡らして、疲労の滲んだ表情の彼──「晩鐘」がそこにいた。

    「あはは、ふふ……っはぁ、ふふふ……」

    よりにもよって、私を助けるのが彼だなんて。誰が想像できたかしら。
    それが酷く可笑しくて、私は堪えきれず笑ってしまった。

    「誰もいないと思っていたの、私」
    「まさか、あなたに助けられるなんて……思いもしなかったわ」

    彼は驚いたように目を見開いて、言葉に迷うように視線を揺らした。
    悪いことをした子供のようで、それもなんだか可笑しく思えてしまう。

    「あなた、『晩鐘』でしょう?」
    「小動物を捕まえて解剖しているって噂だったのに。ふふふ…」

    「……」

    それまで困惑していた彼の表情は、すぐに怪訝な表情へと変わる。
    不快感や嫌悪感を隠す気のないその態度は、いっそ新鮮で、彼はとても素直な性格なのかもしれないと思った。

    「あら、怖い顔」
    「私を助けてくれた王子様はどこへ行ったのかしら?」

    「……僕は、そんな器じゃない」

    「でも助けてくれたでしょう?」

    「……なんで、君はあんなところにいたんだ?」

    ああ、きっと彼は……私の噂を知らない。
    知っていたらきっと、気狂いの女のすることだと誰も疑わないもの。

    「あの池、人が少なくて居心地が良いの」
    「だから川辺を歩いて向かっていたら、途中で落ちてしまったの」

    「……そう」
    「だとしても、その……もう少し、驚いたり……抵抗するものじゃないの?」

    やっぱり、噂は噂でしかないのだわ。
    彼はきっと、とても……とても、優しい人だもの。

    「……助けてくれる人なんていないと思っていたから」
    「暴れて藻掻き苦しむなんて惨めでしょう?」
    「それなら歌でも歌って、全てを委ねて沈んでしまった方が素敵だと思ったの」

    「……」

    「狂ってると思う?」

    「……そこまでは思わないよ」

    「ふふふ」

    安心感からか、ふっと身体の力が抜ける。
    心はどうしようもなく踊っているのに、身体はそれに耐えられないみたい。

    「早く寮に戻ったほうが良い」

    「そうね。……少し、はしゃぎすぎたみたい」

    ふらつく足をなんとか動かそうと、一歩踏み出す。
    どうして私の身体は、私の思った通りに動いてくれないのだろう。

    「……僕が運ぶよ」

    差し伸べられたその手には、なんの下心も感じられない。
    こんな純粋な優しさを向けられたのは、いつぶりだろう。

    ──私、彼に惹かれているわ。

    温かな体温は居心地が良くて、ゆっくりと瞼を閉じる。
    しがみつけば、嗅ぎ慣れていない薬品の匂いがした。

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