矢板「所長」になった話所長という肩書きを得る、それは喉から手が出るほどの代物だ。だが、それを手に入れるのは自分の実力ではなく、今の代の所長に選ばれるた人間だけだ。
「矢板くん、君に次期所長を任せてみようと思うのだが、どうかな?」
俺にそんな話が来るとは思わなかった。俺の父親はこの研究所だけでなく、世界的に有名な科学者ではあった。だが、俺にそんな肩書きを背負うほどの実力などない。自分の意思でここに来ただけだ。
「お断りします」
俺が一蹴すると所長はため息と共に俺の肩を掴んできた。
「君はここの研究員を引っ張れるほどのリーダーシップの素質はあると思う。そして、君は父親のことを気にしているかもしれないが、私は君の父親がどうのこうのなど興味がない。矢板くん単体として見て、君が良いと思ったんだ」
俺はあまりこういうので揺れ動かされるほど人間ができていない。それでも俺は断ろうとした。
俺は知っている。一度、研究所の古株からそんな話を聞いてしまった。コイツらが、父親の死を黙認し、見殺しにしたことを。
父親は勝手にいなくなり、俺達家族を崩壊させた。だから嫌いだった。だが、どこかしらで生きていると思ってた。そうしたらどうだ。死んでるじゃないか。
古株ども曰く、父親はここで自殺してしまった。最後に研究から離れられなかったのは父親らしい。そして、コイツらは父親の自殺を事故処理としたらしい。
こんな奴らの言うことなど、気がしれない。だから断る以外ない。
「まぁ、矢板くんが断るだろうとは思っていたから、もう事務処理したから逃げられるわけないけどな」
俺はここに来たのは失敗したかもしれない。そうして、俺は無理矢理所長となる形になった。
まぁ、まさか他の二人が風流と神鳴になったと聞いた時はどこまでも腐れ縁だなとは思った。