アキレアお題 花言葉から「治療、いたわり」
よくある微小特異点が発生した。放っておいても消えるほど小規模なものだったが、一応調査はしておこうという方針になったため、藤丸、マシュ、インドラの少数精鋭で出向く。
「着い、たぁ!?」
「先輩っ!?」
特異点の景色が見えたところで悲鳴が上がる。敵襲かとインドラは瞬時に周囲を警戒した。
目の前で派手に転倒した藤丸へマシュが慌てて駆け寄る。インドラも目を向け、藤丸の着地地点に拳大の石があることを視認する。
どうやらあれに足を取られ体勢を崩したらしい。
(鈍臭いな)
特に敵性らしいものも見当たらない。これならば暫く留まっていても問題ないだろうと判断し、一旦警戒を緩める。だが念のため、ヴァジュラたちへ周囲を見てくるよう指示を出した。
目線を藤丸へ戻せば自力で立ち上がり傷の具合を確認している。
「すぐに手当てを!」
「あ、大丈夫大丈夫!ちょこっと擦りむいただけだから」
盾から医療用キットを取り出そうとしているマシュを藤丸が制する。
「これくらいで薬使うの勿体ないよ。何かあった時困るかもしれないし」
「ですが……」
藤丸の言う通り、スカートから露出した膝に親指の爪ほどの擦り傷が出来ているだけなので軽傷だ。いざという時のため物資を温存しておきたいという言い分は理解できた。それはマシュも同じようで、心配そうな素振りは変わらないが、反論の言葉は返さない。
「せめて消毒だけはさせてください。小さな傷から入った細菌が命取りになることもありますので」
「分かった、お願い」
二人のやりとりを見ているだけでは暇なので周囲を観察する。と、見覚えのあるものが目の端に映った。
「ヴァジュラ」
「はい」「はーい!」
インドラの意思を読み取り戻ってきたヴァジュラたちが目的のものを回収する。持って来られたものを確認するとやはり人界を放浪していた頃使ったことのある薬草だった。
(戦場に立つ以上傷が出来るのは仕方ないこととはいえ、若い女の肌だ。傷が残らないに越したことはあるまい)
「おい、これを傷に貼っておけ。止血効果がある」
「わっ、ありがとうございますインドラ様!わざわざすみません」
「フンッ。神の手を煩わせるとはな」
「手がかかるなー」「集中推奨(周りをよく見てください)」
薬草を揉んで手渡してやれば藤丸は申し訳なさそうに眉を下げた。周りを飛び周り口々に注意するヴァジュラたちにも頭を下げているが、此方の真意は伝わっていなさそうだ。
(本当に手のかかるやつだ)
無防備なオレンジ頭へ手を伸ばし、思いっきり掻き混ぜる。
「おわわわっ!?」
「インドラ神、あ、あの。先輩から手を離してください。このままでは目が回ってしまいます!」
ひとしきり撫で回したところで手を離せば、藤丸の頭はすっかりグシャグシャになっていた。
「謙虚は美徳だが、周りの意を汲むのも主として必要な資質だ。いたわりの心を受け入れることも覚えろ」
「あ」
不安そうなマシュの顔を見て彼女の心情をようやく察したのか藤丸が小さく声を上げる。乱れた髪も相まってその姿は酷く滑稽に見えた。
「心配かけてごめんねマシュ」
「い、いえ。先輩のサーヴァントとして当然のことですので」
笑い合う二人を少し離れたところから見守る。と、藤丸が髪を直しながら寄ってきた。
「インドラ様。教えてくださるのは有り難いのですが、少し乱暴では?」
「なんだ、未熟な己を棚に上げて神に意見とはずいぶんと偉くなったものだな?」
「うー、そうじゃないですけどー」
乙女としてはちょっと複雑なんですと訴えるのを鼻で笑い、早くマシュのもとへ戻れと手で追い払う。
それへ大人しく従い踵を返した藤丸だったが、何か思い出した様子でトコトコと戻ってきた。
「インドラ様」
「なんだ」
「心配してくださってありがとうございました。以後、なるべく怪我しないように気をつけます!」
「なっ……誰が人間の貴様の心配など!おい、聞けっ!」
言いたいことだけ言って足早にかけて行く藤丸を捕まえ損ね、インドラはむすりと口を引き結ぶ。それを見ていたヴァジュラたちは可笑しそうにクスクスと笑っていた。