『青い雪まつり』++++++ くるるさん
『青い雪まつり』
さわこが見た最後の景色は視界いっぱいに広がる海よりも深い青だった。
とおとおと降り積もる雪に埋もれる視界。
「おとぉーさん、見えないよー!おんぶしてー!!」
私がそうやってねだると父は仕方がないなぁと嬉しそうに、私を背負ってくれた。
「爽子は雪が好きだなぁ」
「うん! 積もって白く染めていくのに、最後は跡形もなく消えるから」
「消えない雪もあるよ」
「えっ」
「思い出の雪さ、パパは爽子と見たこの景色は永遠に忘れないよ」
思い出はそこで途切れ、視界が青に染まる。
父は暴走する車に跳ねられ、私は空高く放り出されたのだ。
++++++ ちみにぃさん
さわこが目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。
いや、目を覚ますと……というのが正しい表現なのかどうか、わからない。病院のベッドの上というのも、後から聞いた話だ。
何故なら、さわこの目はもう、二度と開かれることがなくなっていたからだ。
「──目が覚めたのね!? 良かった……爽子……!!」
涙に揺れる母親の声が聞こえる。
「……ママ?」
まったく状況がわからない。目の前に広がっているのは、最後に見た深い青。
思い出せるのは白い雪と、おぶさっていた父親の背中の温かさ、そして──猛スピードで迫ってくる車と、クラクション、悲鳴。
「!! パパは!? ママ、パパはどこ!?」
++++++ いとま
落ち着き目が見えない私に母は今の現状を教えてくれた。
「あの雪の日爽子とお父さん事故にあってね、お父さんが爽子に
覆いかぶさって守ってくれたのよ」
「・・・お父さんは?」
「死んでしまったわ、救急車が来た時にはもう・・」
++++++ たけのこさん
「そんな…私はお父さんにありがとうの一言も伝えられないの?」
じわじわと自分の発した言葉は心に染み込み、現実感を増し、ずっしりとした重しが乗っかったように思考が鈍る。
自分が目が見えないことよりも、自分のそばに居てくれた人の声を聞けないことの方がよっぽど受け入れ難い。
そうだ、こんな日には俳句を読もう…
++++++ ゆうりさん
手探りで紙とペンを探し、感覚で書き記していく。
「お父さん 浮気は母も 知っている」
たぶん脳内でイメージした言葉をかけたはずだ。
そう思うだけでもう満足感で心が充実してきた。
さて、この満足感のまま雪だるまでも作ろうかな、いやそれとも雪の上にまた俳句を書くのはどうだろう? 色々とやりたいことが頭に浮かび自然と笑みがこぼれる。
明日もいい日になーれ。
~完~