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    エンジェライト

    愛と平和が好き。只今ブレトワ推し。二次創作の小説を書きます。

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    エンジェライト

    ☆quiet follow

    パン屋でバイトをするトワと、そのトワに出会って一目惚れをする息吹(ブレ)。
    紆余曲折を経て最終的に彼らが恋人同士になるまでの過程を描きます。
    息吹の通う高校名はブレリンの声優さん由来です(笑)あとハイラルの“ハイ”の高いという言葉を入れてみたくて。
    なお、トワの性格は温和です。

    少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。

    #ブレトワ
    bretwa

    レンズフレア(Side.Ibuki)

    一目惚れをした。

    おれの通う高校の近くにある、駅近のパン屋の、レジカウンターに立つアルバイト店員に、ある日おれは衝撃的な出会いをした。

    そのパン屋は、小規模展開するチェーン店でありながら、大変人気があり、特に朝や昼の時間帯は客で溢れていて、店員の客さばきが上手いのか客の出入りの回転も速い。
    店内には広いイートインスペースが設置され、その盛況の忙しさと切り離されたかのようにそこではゆっくりとした時が流れ、利用客は主婦や年配の人が多いようだ。
    店内を流れるカントリー調の曲とも相俟って店の売りとなっている。

    一目惚れをしたそのアルバイトの子に会うためにおれは学校が終わった後、足繁くパン屋に通った。
    パンは好きだ。
    炭水化物は肉の次に大好物。
    好き嫌いはあまりないし、食べる量も人より多い。
    特に買うのはサンドイッチや惣菜パン。
    甘いパンも好きだが食べ盛りのおれは惣菜系をチョイスしがちだ。
    サンドイッチは下校時間帯には売り切れていることが多いから、なかなか食べられず、だから休日にも出向いて朝、サンドイッチを狙う。
    でも、目的は飽く迄もあのバイトのトワって子だ。
    名前は、エプロンに付いている名札で確認済み。
    おそらく高校生で、どこの高校の子かは知らない。
    いつも長めの前髪を横に流してヘアピンで留めていて、瑠璃色みたいなキレイな青の瞳と、ハンチング帽から覗く襟足の髪は稲穂のような落ち着いた金色が印象的だった。
    レジ打ちをする時に発せられる声はほんの少しハスキーで、柔らかい。
    「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」以外に喋る言葉を聞いてみたかった。
    そしてその子とは、歴とした男の子だった。
    おれも彼に出会うまで、自分が男を好きになるだなんて思いもしなかった。
    人生、なにが起きるか分からないものだな。




    さて。今日も今日とて通い詰めるあのパン屋。
    三角屋根の外装で、煉瓦造り風の家屋の壁に切り抜かれたちょっと不釣り合いな自動ドアをくぐると、かぐわしい焼けたパンの香りと、カントリーBGM、客の賑わいが五感に飛び込む。
    うーん、今日も大盛況。おれは入り口すぐそばの重ねて置かれたトレーを手にして、トングを横の籠から取り出す。
    店の奥のレジカウンターに目をやると、居た。
    お目当てのあの子だ。
    今日も前髪をヘアピンで留めて、超イケメンな顔で接客している。
    ああ早くレジまで行きたいっ!

    「659円のお買い上げでございます」

    二台あるレジカウンターのうちのトワのいる方をしかと陣取って、数個のパンの載ったトレーをカウンターに置いた。
    すると彼の見事なレジ打ちが始まり、パンの値段をひとつずつ声に出しながら計算してゆき、最後に合計金額を告げてくれる。
    ああ、いい声!
    めっちゃ耳に心地良い!!
    その美声、この耳に確かに録音致しましたっ!
    今夜の夢に出てくるといいな…。

    そしてパンが袋に鮮やかに詰められて、彼の手から直々に受け取る。
    手が触れ合うことはなかったけれど、今のおれには充分幸せなことだった。
    そして向けられる、いつもの“ありがとうございました”、がとびきりの笑顔付き。いや、笑顔で接客するのは店の方針なのだろうが、個人的に向けられた笑顔だと錯覚してしまう。
    おれは目を見開いてその笑顔を焼き付ける。

    彼が笑うと。
    なんだろう、光って見える。
    あの、写真や映像でいう、強い光がレンズに入り込んで白く発光する…アレみたいだ。

    そうして彼からの最高のプレゼントを受け取って、今日もほくほくとして帰路についた。



    ◇◆◇



    パン屋にほぼ毎日通い詰めているとトワのシフトが自然と分かってきた。
    平日の月、水、金の夕方以降と土日の午後。
    大丈夫かおれ、なんかストーキングみたいになってない?
    いや大丈夫!これはまだ幼い恋なのだ!犯罪などでは決してない。


    「いつもありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」


    そんなことを考えながらまた今日も彼の元を訪れると、こう言われた。
    あ。
    彼今、おれのこと“いつもの客”って認識してる。
    …覚えててくれたんだ!

    おれは嬉しくって嬉しくって自然と笑みが零れた。
    よし、次来た時は思い切って一声かけてみよう!






    「今日はピザパンが焼き立てが出てますけど、どうですか?」


    トワの次のシフトの日、いつも通りレジでトワのいるカウンターの前で財布を出していると、言われた。
    なんと!
    トワから声がかかった!
    しかもおれがいつも惣菜パンを買うって覚えてくれてる一言だ!
    これはここで行くっきゃない!!

    「……あッ!!あははっじゃあ買っちゃおうかなっっ、あ、あのっ、おれのこと、覚えてくれてるんですか?!」
    「ええ、いつも来て下さってますよね、訊いてしまっていいのか分からないんですけど…高梨高校の方ですか?」
    会話が広がった!!
    チャンス!!
    「あっ、はい、そうです!!駅に近いからっっおれここのパン屋大好きでっッ!!お、おれもあなたのこといつも会うから覚えてますよっト、トワさんってお名前なんですよね!」
    「あっ。ふふふ、はい、トワっていいます。あなたはいつも来て下さるから、オレ勝手に親近感抱いちゃってて…あ、ごめんなさい、急いでピザパンお持ちしますねっ」

    …マ、ジ、かぁあ〜〜〜っっ!!!!
    トワ、おれに親近感持ってくれてるって…!!!
    奇跡キタァ!!!
    これはここで押さなきゃ男が廃る!!!

    焼き立てのピザパンにシートを被せ、トングで器用に袋へ詰めるトワ。
    その間に畳み掛ける。
    「あのっ!!おれ、息吹っていいます!!高二ですッ!!トワのこと訊いてもいいですかっ?!」
    やべ、つい呼び捨てにしちゃった…
    ところがトワは気にした風もなく、
    「オレは高一です。二駅先の黄昏高校って分かりますか?そこに通ってます。」
    と答えてくれた。
    「ああ、あっちの…」
    「うちは父子家庭なので、この春からバイトを始めて……、あっすみません話しすぎましたね」
    いやもう全然!!!ガンガン話して!!!
    「えッいいっスどんどん話してもらっても…、父子家庭…偉いですね学業と両立させて…。おれなんて全然…」
    そこで会計を済ませ、トワから焼き立てのピザパンの入った袋とその他の袋を受け取る。
    ああ、もう今日はこれでお別れか。
    おれは思わず、こう言ってレジを離れた。

    「トワ!おれまた来るから!その時はもっと仲良くなれるといいね!!」

    顔が赤くなっている自覚があった。
    するとトワは。

    「……はいっ。」

    にこりと優しい笑顔でおれを送り出してくれた。

    うわ…。
    今のは営業スマイルじゃなかった。
    トワ、素で笑うと
    こんなかわいいんだ………。

    それにまたアレだ。
    トワの後ろに強い光がさして
    トワの輪郭がくっきりドラマティックに光って見える…
    やばい。
    すんごい天使…。
    (おれの語彙力はもはやドブに捨てた)



    ◇◆◇



    「やぁ!来たよトワ!今日はコレとコレと…あと野菜ジュース!」
    「いらっしゃいませっ」

    ある水曜の夕方。
    前よりも少しだけ距離の縮んだおれとトワ。
    うわぁ、なんだなんだ、
    なんか今日のトワ、前よりすごい、いい笑顔じゃんっ!
    これを他の客にもしないでくれよ!頼む!
    「今日は珍しくお客様少ないから…ゆっくりレジ打ちしちゃおうかな」
    「ホントっ?」
    やば。おれ特別扱い?超アガる!!
    今日は惣菜パンの他に、いつもと違って珍しく明日の朝食用に四枚切りの食パンを一斤買った。おれが最近いつもパン屋のパンを食ってるのを見て、親が、美味しそうだから買って来てくれないか、と頼んできたからだ。
    目にも留まらぬ速さで打ついつものレジ打ちとは違い、ゆっくりと、トワはそれを行う。
    なんか嬉し過ぎる。

    「トワ、あのさ、トワっていつも何時に上がるの?良かったら今日帰りさ…、一緒に帰らない?」
    よし、言った!おれ!!
    「えっ?いいんですか?オレいつも平日は八時までで遅いんですけど…」
    「そんなに頑張ってんのっ?!すごぉ…!!いいよ、おれ、待つし!!イートインスペースで食ってるから!」


    やったやったやったやった!!!
    遂にあの憧れのトワと帰宅デート(ぶっ飛んだ解釈)だ!!!
    イートインスペースで惣菜パンを食いながら待つ間、ワクワクでパンの味が何倍にも美味しく膨れ上がって感じた。味蕾まで興奮したか。




    「すみません、お待たせしちゃって…」
    「大丈夫大丈夫っ、全然待ってない!!あ、トワ、その、それ、敬語いらないから!」
    「え、でも…」

    夜八時過ぎ。
    風が少し冷たく感じて、ポケットに手を突っ込んだ。
    目の前には、パン屋の制服じゃないトワの姿。
    まぁ、高校の制服になっただけだけど。
    それでも新鮮だった。
    前髪のヘアピンは外されて、さらりとした長めの前髪が耳側に向かって流れている。
    やば、イケメン降臨再び!!

    そしておれは次にはこう言っていた。

    「あのさ、おれ、トワと友達になりたい!!」
    「!」
    駅前の街の灯りを背景に、トワが大きく目を見開いた。
    おれはそれを見て恥ずかしくてちょっと俯きがちに話した。
    「ずっと見てたから…トワに憧れてた…。実はさ、トワに会いたくて、ずっとこのパン屋に通ってた…。あは、引くかな…?」
    トワはぱちり、と目を瞬いて、返す。
    「そう…なんだ…。オレも…、いつもオレのいる時間に君が来てくれるから……君のこと気になってて…」
    「…ホントッ?!」
    「えへ、うん。年も近そうだったし、髪の色と眼の色がオレと似てたし…。嬉しいな、オレに会いたくて来てくれてたなんて。」
    うわはっ!!!うっそマジ?!?それめっちゃ嬉しいんですけどッ!!!
    おれは瞳をキラキラとさせて顔を上げてトワを見つめた。
    「これからも来るよ!!トワのパン屋のパン美味しいしっ!!前髪ピンで留めてるトワかわいいしっ!!…ぁっ、ごめ…」
    しまった!口が滑った!トワ引くか…??
    「えっ……ピン…?あ、あれね、お店の規制でハットに入れるかまとめるかしないといけなくて…そう言われるとなんか恥ずかしいな…」
    そう言ってトワは顔をやや赤くした。
    うおあ!
    トワ照れてるっ!!
    これは決定的瞬間!!
    なんてレアなんだっ!!
    か、かわいい〜〜〜っっ!!!
    いかん心臓がもたんっ!!
    「あははっ」
    すると、突然トワが笑い声を上げた。
    「…んえ?」
    「息吹君て、そんな顔するんだっ!」
    「へ。…ど、どんな顔…」
    「なんか表情筋ゆるゆるって顔!」
    「ぁ、ウソ…」
    やべ。顔に出てた?!
    「ふふふっ、息吹君かっこいい顔してるから、ギャップっていうか、ふふっ!」
    と、よく笑うトワ。

    やーばいんですけど、やべぇって!
    トワめっちゃキュートに笑うやん。
    その辺の女子より全然かわいいんだが。

    「え、おれかっこよ…?!てか、トワの方こそイケメンなのに、笑うとめっちゃかわいいじゃん!」
    「えっ?そうかなっ?」
    いいぞ、いいぞ!今おれ達すんごい仲良くなってるッ!!

    星の瞬く夜空の下。
    閉店したパン屋の前で長話をして、
    すぐ近くの駅まで行ってしまいたくない気持ちと葛藤して。
    あなたとの夜が
    最高に尊い。
    どうかこのままずっと続いて。
    心密かに
    夜空に願いをかけた。



    ◇◆◇



    「ああ〜、パン屋に通い詰めてパンばっか食ってるから太るかなぁおれ」

    月曜の夜八時。
    近頃はこうしてトワのバイトが終わるのを待って、駅まで一緒に歩きながら会話するのが習慣化してきていた。
    出来るだけゆっくり歩いた。
    すぐ近くの駅までの距離がのびてくれたらと何度も思う。
    隣を歩くトワは、夜風に吹かれる前髪にヘアピンの跡が少し残っているように見えて、ちょっぴりかわいい。

    「え?息吹君太るどころか、すごい腕とか筋肉付いてるよね」
    おお。おれの腕とか見てくれてたんだ。いちいち嬉しくなる。
    「あ〜…これはね、うちの親が剣道の師範で…おれもうずっと剣道やってるから。部には入ってないけど、家帰ると稽古稽古で最近はもう面倒でさぁ…」
    「……大丈夫だったの?そんな事情があるのに、オレのバイトが終わるまで待ってたりして…」
    「ん〜?大丈夫大丈夫。おれも羽伸ばさなきゃやってらんないからさ」
    んー、と伸びをして、星のひしめく夜空を仰ぎ見る。するとその隣でトワの声がした。
    「なんか…ごめんね」
    「えッ?!なんでトワが謝るのさっ!むしろおれこそごめん、気にしないでよ」
    「……息吹君て、かっこいいし剣道も強そうだし、……モテるんだろうなぁ」
    「はッ?!?!」
    トワの思わぬ言葉におれは目玉が飛び出そうになる。
    「それ言ったらトワもじゃん!!超イケメンで性格もイケメン、笑うとかわいい、敵なしじゃんっ!!」
    「そんなっ!オレ…バイトに勉学にってやってたら、すごくのめり込んじゃう質で、付き合い悪いからって言われて…あまり友達もいなくて…」
    「…えぇっっ?!そうなの?!」
    こんなイケメン放っとくヤツがいるのかよっ?!
    「だから息吹君が友達になりたいって言ってくれた時すごく嬉しかったんだよ」
    「…ト、トワぁっ!!!」
    ああおれ今、奇跡の中に居るみたい。
    初めは言葉も交わせなかったのに、今はこうして憧れのトワと友達になれて、肩を並べて夜の街を歩いてる。
    だけどなぁ。
    欲を言えば。
    ホントは友達以上になりたいんだけどな
    ねえトワ。



    ◇◆◇



    「おれは週末、トマトサンドを狙う。」

    金曜のいつもの時間。
    おれとトワは長く話をしていたくて、駅前のコンビニの前に足を止めていた。

    「サンドイッチ人気だからね…午後はほぼ残ってないから…」
    「美味いんだよな、パン屋のサンドイッチって。」
    「サンドの担当の人に伝えとく。喜ぶと思うよ」
    「トワはホント優しいなぁ…」

    そうかな、と言ってトワが笑ったので、コンビニの照明よりもはるかに、またいつもみたいに彼の背に強く白い光がさすように見えて、幻想的で、誰よりも美しかった。
    サラサラの髪、凛々しい眉、通った鼻筋、意外と厚みのある唇、まだ幼さの残る柔らかそうな頬、肌理の整った白くてキレイな肌。
    その上に心地良い美声、優しい素朴な性格、世界一キュートな笑顔。
    どれもおれを魅了してやまない。
    あのパン屋の奥のレジカウンターで、あなたに出会えたのはきっと偶然じゃない。
    それをここで証明してみせたい。


    「あのさぁトワぁ、」


    おれは勇気を出して、ついに伝えることを決めた。
    気が早いかも知れない?
    ううん、本当ならもっと早く、
    あなたに伝えたくてたまらなかったこと。

    「なに?」

    話すおれ達の後ろのコンビニの自動ドアを利用客が出たり入ったりしている。
    隣のガラス越しには、雑誌コーナーで立ち読みをする客の姿。
    それでも構わなかった。
    ここは今、おれとトワのふたりだけの舞台だ。


    「トワはさ、……おれが、……トワのこと好きだって、言ったら………どう思う?」


    「…え…?」


    トワが長い睫毛を上下させておれを注視する。

    コンビニの前の道路を車が何台も通り過ぎる。
    やがて歩行者の信号が青に変わって、横断歩道の誘導音が夜の街に鳴り響く。

    「す、好き…って…?友達の?」
    「ううん。恋愛の好き。愛してるの好き。」
    「………ぇ、」


    トワが黙った。
    コンビニの駐車場に停まる車から人が降りてきて店に吸い込まれていき、また別の車にはコンビニから人が戻って来て乗り込む。
    車の発車するエンジン音。
    歩道を歩く人の微かな足音。
    幾多の音と光景がおれの耳と目を通り抜けて行った後に、トワはようやく口を開いた。

    「じ、」

    視線をトワに向けるおれ。

    「冗談だよね…?息吹く―、」

    「本気だって言ったら?」


    やや食い気味に返したら、トワは口を軽く開いたまま、浅い呼吸を繰り返した。
    彼のキレイな青の瞳が小刻みに揺らいでいる。
    明らかな動揺。
    そして混乱。


    「……ご、……………ごめ、オ、オレ………よく、分かんない……」
    「トワ」
    縋るように彼の目を見つめる。
    でもトワは。
    「だって、君は、と、友達なんだっ、それにオレ、男だしっ………、な、なんで息吹君そんな……」
    「……急で受け入れられない?」
    「ソレ…受け入れたら君ともう……友達じゃいられないのかな……?だったらオレ……ッ、オレ……どうしていいのか……」
    「トワ少し落ち着こう」
    「そんな…無理だよ…っ、だってオレ、君と友達になれて本当に嬉しかったッ、ずっと君とは友達でいたいと思ってた…!失くしたくないんだ、君との関係…。好きに、なっちゃったら…ッ、……、……す……っ、…ッ!」

    トワの青の瞳が海の底みたいに深い色をして、濡れていた。

    あ。
    トワ、泣いてる…。

    初めて見る
    あなたの涙。
    ごめん、場違いだけど、おれ、
    キレイだと思うよトワ。
    すごくキレイだ。
    あなたは悲しいのかも知れないけれど、
    そんなあなたでさえ輝いて眩しい
    それはあの
    いつもあなたが笑った時に見る
    レンズフレアの
    輝きに似た
    それ以上の特別ななにかだ


    「トワ、泣かないで」
    思わず反射で手を彼の前に差し伸べた。
    けれど、
    その手が取られることはなかった。
    トワは俯いて、その美しい涙を手の甲で拭って、呟くような声で。

    「うぅッ…ぅ…!…ふ…っ、きみと…、」
    「…なに?」
    「…ともだちで、いたい…っ!」
    「…トワ…」


    トワ。
    トワ、トワ。

    何度繰り返し呼んでも
    愛しい響きのその名前。
    この先もずっと
    口ずさみたい。
    愛を持って
    呼び続けたい。
    喉で呼ぶのじゃない、
    魂で
    呼ぶのだ


    「好きなんだトワ」
    「ぅッやめて…っ」
    「ずっと好きだった。一目惚れだったんだ」
    「いぶきくん…オレ、……考えさせて…。今は混乱してて受け入れられない…っ」
    「…………分かった。」


    差し伸べた手を引っ込めてポケットに突っ込む。自分の手じゃないみたいに、冷たく冷えていた。


    それから、駅までを黙ってふたりで歩いた。
    駅の裏道の、街灯の少ない暗い小道で、おれは伝える。

    「待ってる」
    立ち止まったおれに対して数歩先を行くトワが、振り返っておれを見た。
    「…!」
    その瞳は、まだ涙に濡れていた。切ない眼差しがおれの顔の上を漂う。
    「あなたが応えてくれるまで、ずっと待ってるから」
    「……ッ…、」
    そのまま、振り切るように夜の闇に消えて去るトワ。
    涙が、
    彼が闇を振り向いた拍子に宙に散って光っていった。



    ◇◆◇



    週末、予告通りに朝イチでトマトサンドを買いにパン屋へ行き、自宅に戻りそれを食べ、課題を片付け、自宅横にある大きな剣道場で稽古をし、夕方にはもう一度、あのパン屋へと赴いた。しかしその日トワはそこには居なかった。
    ショックだった。
    毎回必ずシフトに入っていた彼が、初めて姿を現さなかった。

    避けられている?
    いや、彼の場合、
    答えを出すのに時間がかかっているのだ。

    そこまで彼を悩ませてしまったという
    少しの罪悪感と、
    それ以上に彼を求める恋慕と
    直視出来ないようなドロドロとした醜い感情と。

    自室の机に向かって思い煩う。

    どう出る、トワ。
    あなたは、どうしたい。
    あなたの出す答えを
    おれは受け止めるしかない。
    待つんだ
    ただ信じて待て。






    トワの居ない平日の朝、パン屋に寄ってチキンカツサンドとツナマヨパンとあんドーナツとパックの野菜ジュースを買って、その日の昼、教室の片隅で、それらを食べた。
    あのパン屋のパンの生地を食べていれば、いつでもトワと繋がっていられる気がしていた。


    そしてその日、彼に会えないことを覚悟の上で、学校帰りにパン屋へ寄った。
    すると、


    「いらっしゃいませ」


    レジカウンターには茶色のハンチング帽とエプロンをして、いつものように前髪をピンで留めたトワが立っていた。

    心臓がぎゅうっと締め付けられた。

    どうする
    トワがここに居るってことは
    もう彼の中で答えが出ているのだ
    踏み込んでいいのか
    今更二の足を踏むなんてかっこ悪い

    商品を選び、トレーに載せ、心臓をバクバク鳴らしながらレジへと向かう。
    トワだって覚悟を決めて来た筈だ。
    おれも腹括れ。
    「ポテトサラダパンが焼き上がったばかりだけど、焼き立てと交換する?」
    はっと顔を上げた。
    見るとトワは頬を赤くして少し照れた様子でそう言った。
    おれの中で抑えていたなにかがぐわっと込み上げるのを感じた。


    イートインスペースであつあつのポテトサラダパンを齧りながらトワの終業時間まで待つ。
    緊張と不安と期待で、鼻から抜けるパセリの風味も今はよく分からなくなっていた。






    「息吹君、ごめんね、先週末オレ店に居なくて」

    数日ぶりに顔を合わせたトワは、申し訳なさそうに困り眉をして謝罪した。
    場所は閉店したパン屋の前。
    店長が店のシャッターを下ろしている。
    おれは色んな感情に後押しされて、居ても立ってもいられずに、催促した。
    「いいって。…それで、トワ、……返事を訊いてもいい……?」
    「うん」
    トワは案外とすんなり反応をした。やはり気持ちを決めて来たようだ。

    トワのサラサラの髪を風がさらって揺らした。

    そしてトワの瞳が、真っ直ぐにおれを見つめて、それから彼は言った。

    「…君のこと好きになったら、友達には戻れないって、オレ思ってた」
    「…うん」
    「でも、……好きになっても、友達でいてもいいのかな……?」
    「え?」
    おれは目を瞬く。
    トワは続ける。
    「息吹君とは友達で、……その、……こ、……恋人……でって、ことって、出来るのかなって…思って…。ご、ごめん、言ってること変、だよねオレ…、」
    「トワはおれとどうしても友達でいたいんだね?」
    「なんていうか、友達でいる時の、君のことが、好きなんだ」
    「……へ……。」
    「恋人になったら、変わっちゃうのかなって、怖くて……」
    ふむ、と一瞬考える。それから言った。
    「…まぁ、予定ですけどキスとかハグとか、するようにはなるだろうね」
    「…キッ!!キス…とハグ…っっ!!!」
    「嫌ならトワはおれのこと好きじゃないと思う」
    言ってて悲しくないかおれ。
    というかトワ顔真っ赤。すごいウブ。
    「嫌っ…ていうかっっ…は、恥ずかしい……」
    「嫌じゃないの?」
    「……わ、…分かんない、けど、多分……嫌じゃない、…気がする……」
    「おお」
    「オレ、息吹君のこと好きだよ」
    「…エ…?」
    「その……、うまく、言えないんだけれど、友達としての君のことは好きだし、同じ男としてかっこいいなとも思うし、すごく、好き」
    「……ン?」
    「ッ好きだと思う!」
    「なんか無理に好きだと思おうとしてない?」
    「いや、そんなことない、…だって息吹君が勇気を出してオレのこと好きだって言ってくれたのに、断るなんて、出来なく、て……」
    「ほらやっぱり。トワのお人好しが前に出過ぎてるんだよ」
    「だってもしオレが断ったら、息吹君とは友達には戻れないんだよね?」
    はっとする。どうなんだろう、そこのところ。いや、おれはどうしたいんだ。彼のことを好きでいながらも彼と友達として接していけるか。それも、その気持ちを相手が知った状態で。
    考えた末、
    「……………、いや、友達でも、いい。つらいけど、でも、繋がりを断たれるくらいなら、友達でいたい。トワと一緒に居たい」
    「息吹君…。」

    そうだ、これでいい。どんな形であろうと、大好きなトワと繋がっていたい。これからもずっと共に同じ時を過ごしていきたい。大人になっても友達でいたい。そのためなら―。


    「ねえ息吹君、オレ、この数日間考えたよ。考えたけど、どうしてもまだよく分かってないみたい。だから、息吹君と恋人になってみてから考える」


    へ?


    「…はぃ??」

    なんだ?トワ今なんてった??
    おれが疑問符を大量に頭の上に浮かべていると、トワは言ったのだった。


    「だからオレと付き合って下さい」


    「……………。………ッ?!?!」



    そんなとんでもない理由で、
    とりあえず(?)おれとトワは仮の恋人としてお付き合いをすることになったのである。



    ◇◆◇



    (Side.Towa)

    息吹君とは初め、オレのバイトの入っていない土日の午前中に、彼曰く“デート”と称しての付き合いをすることから始まった。
    電車を何駅か乗り、辿り着いた公共公園で最初のデートをした。
    緑豊かで池や噴水もあって、広い敷地のその公園で、道なりに歩く。天候も麗らかで、絶好の散歩日和だ。
    息吹君はオレの右側を歩き、かなり近付いて歩いていたものだから、時折手がぶつかって、オレが謝ると、彼は、
    「トワ、せっかくだから手、繋ご」
    と言うのだった。
    オレは瞬時に顔を真っ赤に染めた。
    息吹君はそのオレを見て、一度困ったような顔をした後、すぐににこりと笑いかけた。
    「付き合って下さいって言ったのトワなんだから、ほら、照れてないで!」
    と、左手を差し出す息吹君。
    ついじっとその手先を見つめてしまう。
    大きな手のひら。剣道の関係か、たこのようなものが出来ている。そこから伸びる腕には太い血管が浮かび上がっていて、しなやかな筋肉に覆われて、逞しい。
    ドキドキと鳴る心臓の音を無視して、オレは思い切って息吹君の手を右手で握った。
    すると。
    「…!」
    彼の手が優しく握り返してきてくれた。
    オレの手よりも分厚くて体温も高い気がして、なんだかまるで息吹君の人となりみたいに、どこまでも柔らかく握り返してくれる。
    初めて。
    こんな風に誰かと手を握り合った。
    なんだろう…
    すごく、
    すごく幸せな気持ちになった。


    ドキドキ、ドキドキ。


    ずっと鳴り止まない心臓の音。

    友達と手を繋いでるだけなのに、
    どうしてこんなに胸が切なくなるの…?
    なんだか叫び出したくなるんだろう?

    公園の道ですれ違うウォーキング中の人がオレ達を見て微笑む。
    完全に恋人同士だと思われている。
    ああ…恥ずかしい…
    でも、こそばゆいっていうか、
    なんだかちょっと、得意な気分だ。

    「うわぁ〜……トワと手繋いじゃった…!嬉し過ぎんだけど!トワの手かわいい〜!」

    隣を見ると息吹君がまたにこりと微笑んだ。
    ドッキンと心臓が跳ねた。
    息吹君かっこいいからその顔で微笑まれると、し、心臓が……。
    サッと前を向いて気持ちを立て直す。
    握り合った手が
    オレの脈と息吹君の熱で
    いっぱいになっていった。



    公園の内部では、ガレットを売るキッチンカーが停まっていて、息吹君が食べようと言ったので、ふたりでガレットを購入した。
    公園の道沿いのベンチに座って、ガレットを食べる。
    ふたり共同じ種類のガレットを買ったのに、息吹君は手にした紙に包まれたガレットをこちらに差し出して、

    「ほら、トワ、あ〜ん。」

    と言った。
    数秒間思考が止まるオレ。

    そこから、なんとか復活して、

    「えッぇっっ!い、息吹君っそんなオレっっ…!」

    とわたわたするので精一杯。
    戸惑っていると、
    「ほら早く!冷めちゃうよ?」
    と彼が言うから、オレはもう顔から湯気を出しながら仕方なく、
    「ゎ、分かった…っ、一口だけねっ!」
    と急いで息吹君の差し出すガレットの端に齧りついた。
    慌てたものだから思いのほかたくさん口の中に入ってしまい、むぐむぐと頬張って必死にガレットを飲み下そうとする。
    それを見ていた息吹君は、
    「ぁはっ!かーわい〜っトワぁ!ん、口の端に卵ついてるよ」
    と言って人差し指でオレの口の端を拭ってきた。
    ピーーーーーッ!とやかんが頭の中だけで沸騰して鳴り響いた気がした。
    息吹君はさり気なくその指に取った卵の欠片を口に含み、オレがそれを見て更に顔を真っ赤にしていると、追い打ちのごとく、彼の口に含んだ人差し指をオレの唇にちょんっと押し当てる仕草をした。

    ……?!?!?!

    「はい、間接キス〜っ!!やったぁ!」

    今日が初デートだというのに、彼は恥じらうということを知らないのだろうか。
    なんというか、すごくノリノリだ。
    水を得た魚のようだ。
    オレは彼の行動に翻弄されてどうにも出来ないでいるのに。
    バクバクしながら、そうこうしていると、今度は息吹君が、ガレットを持つオレの手の手首を握ってきて彼の方へ引き寄せて、

    「じゃあトワのもあ〜んさせて」

    と言って、オレがえっ、とかあっ、とか言っているうちに強引にガブリとオレのガレットを齧った。
    なんか、
    ぐいぐい引っ張って行かれる。
    息吹君てこういうところあるんだ…。
    知らなかった。
    呆気に取られるんだけど、
    一方で率直に、すごい、かっこいいって思ってしまう……。
    「…んーっトワのガレット、サイコー!んまァ〜!!」
    互いに味の違いなんてないガレットなのにオレのだってだけでものすごく幸せそうにする息吹君にちょっとときめいた。それにこんな風に食べ物を美味しそうに頬張る彼も、なんだか全力で男の子って感じで、オレの中の母性(?)がくすぐられる。
    「ね、トワ、トワも間接キスして?」
    「えッ!!」
    ああダメだブンブン振り回される。完全に息吹君のペースだ。
    でもなんでかな…、
    なんだかそれが、
    今のオレには心地良い気がして…。
    「はっ、恥ずかしいよッまだ、息吹君とは、と、友達なんだしっっ」
    「えー??でも仮でも恋人は恋人じゃん。なってみないと分からないってトワ言ったじゃん」
    「………〜〜〜〜〜〜っっ」
    神様っ、恥ずかし過ぎて、死にそうです。
    オレは自分の唇に指を押し付け、その指先を息吹君の唇に押し当てた。
    ええいっこうなればヤケだぁ!!
    すると息吹君は、
    「…ふへへ〜やったッ、超嬉しいっ!!トワのその仕草めちゃくちゃかぁいいし!眼福です!ありがたくっ!」
    とふざけて笑った。
    「もぅーっ!息吹君たら!」
    そう言いながらも、気が付くとオレもふふっと笑いを零していたのだった。



    ◇◆◇



    それから週末が来る度に息吹君とオレはカフェや映画館やカラオケや美術館など、あちこちへデートに出かけた。
    パン屋以外で会う息吹君はシンプルな服装に身を包んでいるにも関わらず、スタイルがいいからモデルみたいにさらりと着こなしていてかっこよくて、隣に並んだ時に不釣り合いにならないか、出かける前には鏡とにらめっこをして髪を整えたり服装に悩んだりと忙しかった。
    なんだかこれじゃまるで、本当に彼の恋人みたいだ。
    鏡の前でそう考えてしまって、自分で恥ずかしくなって、背伸びをして首にかけたアクセサリーをベッドの上に放り投げる。

    息吹君に会う回数を重ねるごとに、彼の色んな魅力に気付いていく。
    かっこよくて、紳士なところもあるけれど、時に子供みたいにはしゃいで、すごく純粋で、好奇心も旺盛で、ご飯は普通の人よりもたくさん食べて、でも、ふとした瞬間にふわりと羽根が触れるみたいな優しさを放つ時があって。フレキシブルな人だな、それに麗しい見目に反して男らしいところもあるし。
    オレが恋人としての目で見ているからなのか。
    友達のままでは気付けなかった彼の多面的な光に、気付けば目を細めている自分がいた。






    そんなある別の日。
    息吹君はご家族からスーパーに買い出しに行けとのお達しを受けた。
    一緒に行こうよ、と誘われて、近所の大型スーパーへとふたりで買い出しに出かけた。




    息吹君はここでも、“これはデートだ”と言った。ああ、そうなるのか。そうなるのだな。
    息吹君の頭の中の方程式がなんとなく分かり始めた。要はふたりきりで出かけるとそれはデートになるのだろう。

    息吹君はスマホのメモ画面を睨みながら、籠を載せたカートを押して、食料品コーナーを順繰りに回っていく。
    商品をふたりで見比べて、こっちの方が安い?とか、あっちの方が美味しそう、等と話し合ってはカートの籠に入れていく。
    すると不意に、息吹君が、はははっ、と声を上げて笑った。
    オレは視線を上げて彼を見た。
    彼の笑い声は、いつだって太陽みたいに周りを照らして、暗闇を打ち払ってくれる力を持つ。
    急にキュンとした。
    オレ今ドキドキいってる。
    なんで…?
    あれ?

    「なんかさぁ、こうやって買い物してるとおれとトワ、夫婦みたいだねっ!」

    ふ、夫婦…?!?

    いやそれよりも。
    息吹君の笑顔が素敵だ。
    息がうまく吸えない。
    ドキドキが止まらない。
    これ、
    こういうの、
    なんて言うんだっけ……?

    「…あれ…?トワどったの?顔めっちゃ赤いよ?」

    「ぅ……ぅん……、」

    ダメだ息吹君と目が合わせられない。
    緊張しちゃう…
    なんで今更。
    だって、
    だって息吹君が―…!

    息吹君はその後オレが体調でも悪くしたと思い込み、手早く買い物を済ませ、スーパー内のイートインコーナーの椅子にオレを座らせて、買い物の途中で買ったペットボトルの飲料を差し出した。
    「飲みなよ」
    「ぁ、…アリガト…」
    もはや片言。スマートだなぁ、息吹君。またしても彼の魅力を発見してしまった。こんなにかっこよくてリーダーシップもあって、さぞや高校の女子達にはモテるんだろうな…。
    そう思った瞬間、急に胸の辺りがモヤッとした。
    吐き気かな?
    等とのぼせていたオレは見当違いなことを考える。
    飲料を何口か飲み終えて、ぼうっとしていると、隣に息吹君が座った。
    そしてすごーくオレの顔に顔を近付けてきて、

    とんっ。

    額同士がぶつかった。

    息吹君の綺麗な空色の瞳の色が視界いっぱいにぼやける。

    「うん、熱はないみたい。今日ちょっと暑いもんね、早く帰ろっか」

    鼻先が触れ合う至近距離から見つめられてそう告げられる。

    うッ。

    し、心臓が口から出そう。
    息吹君オレおかしいのかも。
    さっきから君を見てると
    心臓がバクバクいって苦しい。
    大丈夫かな、ホントに熱、ないのかな。
    …なんて、考える自分は本当に無知だ。
    後から気付く、
    これはホンモノの恋の熱。





    帰り道、息吹君はオレを気遣って重たい荷物をその逞しい腕で持ってくれ、おまけに車道側の歩道をフラフラ歩くオレを見兼ねて、
    「危ないから」
    と言って歩道の内側へオレの肩を抱き寄せて移動させてくれた。
    またドキドキした。
    なんてジェントルマンな所作。
    こんなの絶対にモテるってば。
    うぇ、また吐き気が…
    いや違うな、これは…なんとなく思うに、もしや“嫉妬”の類いなのでは…?

    オレが息吹君に、嫉妬……。

    おかしいな、前は彼のことをモテるだろうなぁと言った時にはなにも思わなかった筈なのに…。

    ………。

    ……………………。


    え、なに?!
    オレ息吹君のこと※#✕%▲◯★……?!?!?


    その後別の意味で世界が暗転したオレだった。



    ◇◆◇



    (Side.Ibuki)

    「あの後大丈夫だったのトワ?オレすごい心配してたよ。ラインしても反応ないし…」

    次の週の平日の夕方、トワのバイトの日にパン屋を訪ね、手短にレジカウンターで話した。
    トワはあの日みたいに頬を赤く染めて、にこっと素の笑顔を見せた。
    「ごめんね息吹君。オレもちょっと色々と心境に変化があって対応出来なくてああなっちゃってて…」
    「…心境の、変化…?」
    「ねえ息吹君、今週末、ファミレスで一緒にご飯食べよう?話したいことがあるんだ」
    お。
    おおお!
    トワから誘って来た!!
    なんだなんだ??!!これはかぐわしい匂いがプンプンするぞ!
    「じゃあまた後でね。お待ちのお客様どうぞ…」
    去り際、トワがパチリとウィンクした。
    …ッドガシャーーーン!!!!
    興奮のあまり、おれの心臓に穴が空いた音である。(※なお臓器には金属を含みません)



    ◇◆◇



    迎える週末。
    休日のファミレスは家族連れやカップル、学生などの客で賑わっていた。
    ボックス席の奥に座るトワの向かいには座らず、敢えて隣に着席すると、トワが照れたみたいにあははと笑った。
    窓ガラスから太陽光がさしたのか、トワが笑ったからまた眩しかったのか、見分けがつかなかった。
    出会って間もない頃よりずっと、笑う今のトワはかわいくて、キレイで、それを見たおれの心臓がぎゅっと掴まれた。
    好きだな。
    心からそう思って、メニューを開くトワの横顔を穴が開くほど見つめた。

    「なぁに?息吹君?」

    メニューから顔を上げてトワがこちらに気付く。
    頬が赤い。
    瞳がキラキラしている。
    ねえトワって、
    ひょっとして
    今おれに恋してるよね…?

    そう思った時、トワが急にメニューを閉じておれの目を見て言った。

    「あのね息吹君。…初めは…君と友達でいなきゃって頑なに思ってた…。でも、今はその……、君と、こ、恋人でいる気分も、割りと平気かなっ、ていうか、うん、心地良いかも…って。」

    おれは目をめいっぱいに見開いた。
    同時に空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
    コレはもしかして。
    おれの告白に対する返事はOKってことで、
    …いいってこと……?!

    「友達以上になっても平気?」

    震えそうになる声を正して尋ねると、

    「………ぅん。」

    とトワは照れ臭そうに頷いてくれた。

    おれの胸の中心で
    薔薇色の大輪の花が
    ぶわっと花開いた感じがした。

    嬉しい。
    めちゃめちゃ嬉しい。
    え、
    喜んでいいんだよな?
    トワ、おれのこと、もう………。

    気が付くと、椅子の上のトワの手を握りに行く自分がいた。
    トワは驚いていたけど、ちっとも嫌がらずに、重ねた手を翻しておれの手を握り返してくれた。

    涙が出そうになった。
    夢だったんだ。
    トワ、あなたと想いが通じ合うことが。

    見つめ合う時間を
    永遠に感じた。

    おれとトワのふたりだけが
    空間から切り離されて
    別世界に居るみたいだった。


    しばらくそうして感動に浸って、ようやくここがファミレスであることを思い出す。

    「…なんか、随分遠回りしちゃったね、おれ達」
    「えへ、ごめん」
    「でも、楽しかった。トワと恋人ごっこ。でもさ、これからは本物の恋人、なんだよね?おれ達。」
    「うっ、うんっ」
    「キスしちゃう?」
    「えッ」
    「恋人記念に」
    「ぅわ…は、恥ずかしいぃっっっ」
    「じゃあほっぺにするから。それでいい?」
    「ぅ、んっ。…はいっっ」
    「あははっ、よろしい。では早速…」
    「待って、息吹君っ」
    「?」
    「オレに、伝えさせて。」

    握り合う手から、トワの生命が響いた。
    彼の瞳は今はもう、正真正銘恋する瞳。
    こんなイケメンなのに、
    さながら少女のように無垢で可憐だ。
    その彼が言うのには。


    「君のこと、好きです。友達を卒業して、オレと恋人に、なってくれますか…?」


    初めは静かに遠くから、やがて間近に迫って怒濤のように歓喜の波がおれの中に押し寄せた。
    ……う、!!!!
    感・激!!!
    トワたまらんっ!!!かわいいッ!!!
    もー好きだ好きだ好きだ!!!!

    「あー!おれのセリフ取らないでよねぇ!もうトワったらー!」
    「ふふっ。…じゃあ息吹君からもどうぞ」
    「かぁわいいなぁホントに!言うよっ?」
    「ん。」
    身体を横に向けてトワに向き合って、彼の両肩を握って真っ直ぐその瞳を見つめて告げた。


    「おれはパン屋であなたに一目惚れしました。好きです、大好きです。オレと生涯のパートナーになって下さい。」


    「…え…」

    トワの瞳がキラリキラリと光を反射する。
    おれは目を細める。

    「最初からそのつもり。あなたを永遠に愛していくよ。大切なんだ、なによりも。」
    「息吹君………」
    「愛しています、おれのかわいい人。トワ以外考えられないよ。ずっと伝えていく、あなたへの愛。止めることはしないから」

    その瞬間、トワのキレイな瞳から歓びの雫がコロリと煌めいて落ちた。
    それを見て、愛しくてたまらなくなって、
    ファミレスの片隅で
    人目も憚らず
    抱き締め合って
    頬にキスをした。

    初めてのキスは
    不思議と
    パン屋の小麦粉の風味がするようだった

    それが可笑しくて
    でも嬉しくて嬉しくて
    おれは笑う

    「ねえ、トワも笑ってよ」

    そうして、嬉し涙を流すトワに呼びかける。

    すると彼はその濡れた大きな目で上目遣いにおれを見た後、
    泣きながら
    笑ってくれた。

    ああキレイだよ。
    トワ。

    あなたはキレイ。
    世界一。


    そうして
    あなたが笑う
    ただそれだけで、
    光がさす

    それはあの、
    レンズフレアの
    燦然たる輝きのように

    これまでも
    この先も
    幾重にも日々を重ねながら
    おれを魅了し続ける

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    PASTブレ→一人称はおれ。トワのことを、リンク、と呼ぶ。十七才。

    トワ→一人称はオレ。ブレのことを、リンク君、と呼ぶ。十六才。性格は温和。天気病という病を患っている。


    天気病→湿度や気圧によって身体に影響を受ける病気。身体と同じほど、精神にも揺らぎをきたす病。


    舞台はトワの方のハイラルです。
    花かんむり麗らかな日和。小さな花が咲く樹の下で野原に群生する白い花々が風に揺れる姿を眺めた。
    おれ達が暮らす村の外にあるちょっとした野原に、ピクニックと称してリンクとふたりやって来ていた。今は平和なこのハイラルでこうしてふたりで過ごすのはおれの夢でもあった。
    籠に入れて持ってきたサンドイッチとリンゴジュースをのんびり飲食しながらのどかな景色を心ゆくまで楽しむ。小鳥がどこかでさえすり、風が草木を撫でる音が耳を癒してゆく。
    陽光はあたたかいが風は少し肌寒く、体調が万全でないリンクは肩にショールをかけて景色を眺めていた。
    「あの花」
    静かにリンクが言った。
    「故郷の森にも咲いてた。なんだか懐かしい」
    おれは口に入れていたサンドイッチの欠片を飲み込んで、手についた屑をパンパンとはたくと、しばしその群生した白い花々を見つめた。
    1806

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