バレンタイン赤安♀ 袋いっぱいのチョコレートは配る用。部下たちが気軽に食べられるように、いくつも用意した。それとは別に、綺麗にラッピングしたチョコレートが一つ。これは、赤井用。告白をするつもりはないし、面と向かって渡す予定もない、たくさんの中の一つとして彼に捨ててもらう用だ。
赤井は市販品はともかく手作りのものは食べない。開けたとしてもそのままゴミ袋行きになることは、過去を調べあげた時に合わせて調査済み。だからそれを利用しようと決めた。
前の晩から作った小さなガトーショコラは、包装を解けば手作りとわかるように作った。そのままだとこの気持ちを捨てきれないような気がして、包装紙のデザインに紛れるようにSを書いた。Zでは気づかれてしまうかもしれないから。
ずっと、初めて見た時から好きだった。ダメだと分かっていても惹かれずにいられなかった。ヒロが死んで、恨みはしたけど、それでもずっと。だけどそれも、終わらせなければならない。赤井が幸せを掴んだ時に、笑えるように。
配る用のお菓子の詰め合わせを入れた大きな袋を持ってFBIの使っている会議室に向かう。その道中、ありがたいことに、行くなら赤井に渡して欲しいと頼まれた。その中にしれっと自分の用意したものを紛れ込ませる。
緊張を顔に出さないようにしながらフロアに入る。部屋の隅にお菓子の山があり、日本文化好きな誰かが用意したのだろうとそのままそこに向かうと、集まっていた捜査官たちが笑っていた。
「お疲れ様です」
「日本はいいな、食べ放題だ」
「これだけあったらこれは必要ないですかね」
言いながらお菓子の袋を次々出していく。被っているものもあれば違うものもあって、増えていくお菓子に喜んでいた。男性も女性もみんな笑顔で、釣られて笑う。あとは、残っているこれを赤井のデスクに置くだけ。
「そういえば人が少ないですね」
「ああ、捜査に出てるやつもいるけど、何人かは呼び出しってやつ」
「なるほど」
「レイはそういうのないのか?」
「残念ながら。僕はお届け係ですよ」
手に残るいくつかの袋に口笛を吹いた捜査官に手を振り、赤井の使っているデスクに行く。既に何個か置かれているものにちらりと目を向け、その横に持ってきた袋を置いた。
これで後日、どうしたのか聞けばいい。そしてこの恋は終焉だ。
勝手に初めて勝手に終わらせる。それくらいはゆるして……。
午後も9時を過ぎ、残業している部下たちに帰るように促し帰り支度を始める。降谷さんも早く帰ってくださいと、なにかに怯えるように言いに来た風見に、わかったよとだけ返してバッグを肩にかけた。
帰ったら試作で何度も作ったガトーショコラが待っている。それとは別に何を用意しようかなと冷蔵庫の中身を思い出していると、愛車傍に人影を見つけた。街灯に照らされてなお黒に染るそれに息を飲むと、気づいた赤井は真っ直ぐ近づいてきて前に立った。表情は伺えなかった。
「なにか、御用ですか」
「ああ」
「なら手短に」
「ゆっくり話がしたいんだが、送ってくれないか」
「……あちらにあなたの車が見えますが」
「なら俺が送るか?」
「結構です。乗ってください」
顎で促す。赤井は頷いて助手席に回った。突然のことに動悸が激しくなる胸、表情に緊張は出ていなかっただろうか。そればかりを気にしながらロックを解除した。
赤井は早々に乗り込み、後を追うように乗り込むとエンジンをかけた。彼が居住としているホテルはここからそれほど離れていないなと、行き先を聞かないまま走り出した。
「聞かないのか?」
「ホテルの場所は知ってます。それとも工藤邸?真純さんたちの?」
「……きみの家、というのは?」
「却下ですね。恋人でもない人を上げるような軽い女では無いので」
なにか極秘に話さなければならないことでもあるのなら、今ここでして欲しいと告げると、そうじゃないと首を振られた。違うなら、何度というのか。
流れていく街灯や店舗の灯り、代わり映えのしない寒い街中を幸せそうに歩く恋人たちを視界の隅に捉え息を吐いた。
「羨ましいのか?」
「いいえ?僕には縁のないことなので」
それを横目に見ていた赤井の問いに否を唱え、まっすぐ前を見る。三つ先の信号を右だな……と、違うことを考えようとしていると、シフトレバーに乗せている手に、大きな手が重ねられた。
大きく胸が跳ねる。なんでこんな……と赤井を見ると、変わらない表情……違う、ほんのりと耳が赤く染っていた。
「あのっ」
「……俺と、してみる気は無いか?」
「なに、を」
「恋愛」
手から伝わる熱が一気に身体中を駆け抜ける。何を言われているのかイマイチ理解ができずにいると、重ねられた手がきゅっと握りこまれる。
突然のことに胸が破裂してしまいそうなほど大きく鳴る心臓。
「信号変わったぞ」
「え、あ、はい」
裏腹に、声に抑揚もない赤井が憎い。何が目的でこんなことをするのかわからない。あるとするならば……は、今だけは考えたくなかった。
車を走らせる間もずっと触れていた手の熱はずっと変わらなくて。やっぱり、好きだな……でもそれももうすぐ終わり。
右折して、交差点を二つ直進、赤井の住むホテルはすぐそこ。
「答えは聞かせてくれないのか?」
「……聞かなかったことにします」
「何故?」
答えなかった。
ホテルの前に車を止めてハザードを点す。それでも手は離されなかった。それどころか、強く握りこまれてしまう。
離して、ねえ、と赤井の方に顔を向けると、赤井の腕が頭の後ろに伸びて――。
「!?」
唇が、重なって……
「もう一度聞く、俺と恋愛してみないか?」
「なん、で」
「ガトーショコラをくれたから」
離れた唇からの言葉。なんで、どうしてバレた?だって、わからないようにしたのに、どうして。
「なんで……僕のだって……」
「きみが置きに来たと聞いて全部調べた。義理でもなんでもいいから逃したくなくて。そうしたら控えめにSと書いてある……初めは俺のイニシャルかと思ってんだ、だけどウェールズではZEROではなくSEROと書くだろ?ガトーショコラに少量のバーボンの香りで確信した。きみが俺のために用意したって。こんなチャンス逃せるわけないだろ?臆病風に吹かれて告白すら出来ずにいた俺にこんな幸運が訪れたんだから」
「そんな……捨てて、もらえるって」
そんな簡単に謎が解かれてしまったのかと力が抜けた。情けなくて涙が溢れてくる。捨てて欲しかったのに、恋心さえなければ、いつまでも変わらずにいられるって思っていたのに。
勝手に始めた恋を勝手に終わらせてもくれないの?
「出来るわけないだろ?何年、君に恋してると思ってるんだ?」
絵文字もいいけどこっちもください
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