ご都合秘境で君と×××?!(仮題) とあるうららかな昼下がり。黒と白の対照的な男女が一組そこにいた。
「…………」
「…………」
無言で目の前に現れたものを見つめる二人は、これまた対照的な表情をしていた。
全身黒ずくめの男──ダインスレイヴは、何を考えているのか全くわからないポーカーフェイスを貫いている。
一方全身白一色の少女──蛍は、赤くなったり青くなったりと一人百面相を繰り広げている。
カオス空間──そんな言葉が正にピッタリな状況だった。
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「──本当にこんなところにあるの?」
とある筋からアビスの潜伏地があるとの情報を得てダインスレイヴと蛍が訪れたのは、何の変哲もない一般的な秘境だった。
「ふむ……ガセネタでも掴まされたか?」
蛍の問いに、ダインスレイヴは小さく頷いて言う。もしかしたら秘境を模しているだけなのかもしれない──そう邪推して、注意深く辺りを観察する。
「外観は特に問題ないようだが……中を見てみないことには何とも言えんな」
見たところ普通の秘境のようだし、最悪アビスと何の関係がなくても、通常通りクリアして出てくればいい。
ダインスレイヴはそう提案すると、迷うことなく秘境の入口に触れる。ぱぁあ、と光り出すそれに、何の疑いを持つこともなく。
──現実というのは、時に残酷である。
ダインスレイヴは目の前に現れた文字列を見て、先ほどまでの自分の浅はかな考えを呪った。
「クリア条件は……まぐわうこと?」
そう口に出して小首を傾げる蛍は、おそらくその意味をまだ理解していない。
「……」
冒険者協会の依頼なら一定の確率でおかしなものが混ざっていると聞くが、秘境のクリア条件にこんな意味不明なものがあるとは──長い間酸いも甘いも様々な経験してきたと自負していたが、どうやらそれは自惚れだったらしい。
自らの無知を恥じながら、ダインスレイヴは小さく嘆息する。