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    kureko1703

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    kureko1703

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    プロヒ勝×人外デ
    途中で我に返って放置してたやつ…続き書く気力も無いので供養しとくね南無…

    実験ようこそ、おいで下さいました。私は当館の研究職員、兼、今回案内役を務めさせていただくNo.460と申します。

    あぁ、私のお名前ですか?ふふふ、当館では個人や研究内容の守秘義務を徹底しております故、番号で呼び合うのが主流でございます。お客様にも番号札を渡されたでしょう?あなたは…895番様でございます。雑にNo.が職員、番がお客様とお覚え下さい。

    さて、挨拶はここまでにして、当館について簡単なご説明を致しましょう。当館では、個性の研究は勿論のこと、その影響を受けた危険度の高い生物の保護、実験、観察を目的としております。棟で言えば、研究員の生活棟、生物の観察を行う収容棟が3つ、そして実験棟を行う実験棟の5つがそんざいしています。今回私は収容棟の2つの案内を任されております。では、早速当館を案内しましょう。

    …あぁ、観光に来た訳では無い…ですか。勿論我々もそれは弁えております。しかしながら、口で説明するよりも実際に見て頂いた方が早いかと存じ上げます。我々は、…少なくとも私は今の研究がより良い社会の為に役立つと信じていますので。

    …すみません。少々感情的になってしまいました。…あぁ、早速Normalクラスの棟が見えてきました。こちらでは主に個性を持った植物や小動物の研究をしております。まぁ、実際は植物や小動物が人や自然に対して危険度が低いためこの棟に多いと言うだけであって勿論他にも多くの生物がいます。

    例えばこちらのモルモット。ベースはモルモットですが、細部にトカゲの鱗のようなものや、手足に水かき、歯は前歯の両脇の犬歯も発達している等の変化が起こっています。個性によるこういった変化がこの生物にとってどのように役立つのか、はたまた我々の個性も今後どのように変化していくのかを日々調査しています。

    この棟には、他にも羽が生えた蛇や、角の生えた鳥、手足の生えた魚、バリエーションは様々ですが中には自力での生存が困難なものも居り、どちらかと言えば実験等よりも保護を目的としております。

    ここまでで何か質問はありますか?…そうですか。それでは次の棟に移動しましょう。

    次の棟は先程のNormalクラスよりも危険度の高いAbnormalクラスの棟になります。こちらでは、元々危険度の高い生物が個性により何らかの異常が発現した動物が多いですね。元々の危険度もそうなのですが、先程のNormalクラスのような肉体の変化によりさらに気性が荒く、殺傷能力も高くなっております。対個性用の特殊なケースで保管されておりますが、脱走もしばしばあるのでご注意ください。

    …では、歩きながら簡単な説明を致しましたが、先程のNormalクラスとは違い、こちらには大小様々な種の生物を隔離しております。

    例えばこちらの水槽のタコ。元はヒョウモンダコという種のタコなのですが、このタコは元々強い毒を持っており人でさえ噛まれると死に至る場合がある非常に危険なタコです。通常、10cm程の小さなタコなのですがご覧の通り約1m程の大きさになっており、毒もより強力になっております。更には、触腕にクラゲのような刺胞があり、触れるだけでも非常に危険な生物となっています。

    他にも、この棟には人間にとって致死性の生物が多く隔離されております。それは強力な毒であったり、即死するほどのパワーや鋭利な針や牙だったりと様々です。

    …あぁ、はい、そうですね。確かにこの研究所には異形型の個性を持つ動物が多く居ます。今のところの見解で、それもまだハッキリとは解明されていませんが、こういった生物が異形型になりやすいのは同種の生物に分かりやすく強者だとアピールする為と言われています。

    …はい、確かに、最初は生物の進化だと思われておりましたが、近年の研究によって個性因子が確認されているのでその線は薄いと思われます。本当に進化した物なのかどうかを調べるのも、我々の仕事ですので。

    …え?いいえ、因子について調べているのはNo.が100以前の上層部ですので…。私のような下っ端はこの棟のNormal、Abnormalクラスの生物の管理と観察がメインとなっています。

    次の棟…ですか?…申し訳ありません、次の棟へ進む許可を私は受けておりません。このAbnormalクラスよりも危険度がさらに高くなっているので…

    え、困ります!!895番様!!!それに、次の棟へは特殊なカードキーが無いと入れないんですよ!!!ッ!!!!クッソ馬鹿力!!!…ふぁ!?!?扉を破壊する!?!?やめてください何てことするつもりですか!!!!!!お願いしますやめてくださいホンットに勘弁してください私クビになります!!!!お願いしますやめてください今上層部の人呼んでくるのでお願いします!!!!勘弁してください!!!!!

    …うっ…分かりましたよ。だから強行突破は本当にやめてくださいね…。

    あーあー、こちらNo.460。応答願います。あの、現在895番様を案内しているのですが、…”Variantクラス”の棟を案内して欲しいと脅されています…。扉を破壊することも厭わないという事でして…すみません。私では対応しかねます…はい。…はぃ。…すみません。それではお願いします…。

    10分程で到着するそうなので少々お待ちください。




    ……





    「チッ!!!」

    どうにもキナくせえ。ここまでの視察を終えて持った感想はその一言だけだった。

    ヒーロー協会から直々に下った潜入調査。と言っても、この研究所の資金援助を行っている資産家に扮して内情を調査するというものだ。

    きっかけは数日前。ある程度名のある資産家が青ざめた顔をしてヒーロー協会へ飛び込んできたことが始まり。しかし、その資産家はもう既に支離滅裂な言葉を繰り返していて碌に会話も出来ない程、恐慌状態だった。

    『すまない、すまないっ、私はなんて事を』

    『こんな事、違うんだ私じゃない。私が望んでいたのは』

    『ごめんなさい。助けて。助けてくれ。見ないでくれ。いやだ。違う。違うんだ。』

    『私も”あぁ”なる。いやだ。いやだ!!』

    その後、その資産家を徹底的に検査したが違法薬物はもちろん、何の異常も見られなかった。しかし、資産家は精神病院にぶち込まれた後も気が狂ったかのように叫び続けているらしい。

    さすがの警察も、何らかの事件性があるとして調べた結果、過去にも数件今のように発狂した資産家が居たらしい。不思議な事に、その数人は皆、数日後に心臓発作や脳梗塞といった突然死を遂げている。そして何よりも、発狂し、叫ぶ内容が驚くほど酷似しているのだ。

    『ごめんなさい。”あぁ”なりたくない。助けてくれ。』…と。

    そこで死んだ資産家達と今回の資産家の足取りを追ったところ、浮上したのがこの研究所だった。しかし、現在進行形でこの研究所に投資している、或いはよく通いつめている人間の身元調査では、特段不自然な点はなかった。一部の人間を除いては。

    『私は知っていた。けれど、あの研究所はどうしようも無いほど美しかった…。上層部の人間に会うといい。そしてただ、”Paraphilia”とだけ告げるんだ。それだけで…我々が…どれだけの罪を犯したのか…貴方方なら分かるはずだ。』

    今回の資産家の発狂騒動を聞き付けたのか、資産家の友人だという男性…A(仮)が、ヒーロー協会へ自首してきたのだ。しかし、自らのことは何も語らず、ただそれだけを言っていたらしい。





    「(”Paraphilia”…性的倒錯,性嗜好異常…な。)」

    そうこう示唆している間に、目の前のVariantクラスとやらの扉から全身防護服に包んだ男が出てきた。

    「大変お待たせ致しました。私はNo.096と申します。No.460、君は持ち場に戻りなさい」

    「はっ!了解しました」

    白衣を着たNo.460とか言う研究員がスタスタと戻っていく。ここまでは概ね予定通りだった。

    「アンタが”上層部”の人間か?」

    「そうとも言えるし、違うとも言える。我々は飽くまで研究の一環としてこの先への立ち入りを管理しているものに過ぎない。”上層部”という名はNo.100以降の立ち入りを制限された研究員達が我々と区別するために呼び始めた呼称に過ぎない

    「Paraphilia」

    ……」

    ピタリ…と、防護服の男、No.096の動きが止まった。

    「…なるほど。貴方は確か…あぁ、359番の紹介ですか。その言葉も彼が教えたのですか?」

    「あぁ、是非オレも投資させて欲しいと強請ったら渋々だが教えてくれたわ。渋々だったがな」

    「…よろしい。では案内致します」

    ピピッと機械的な開ける音がして区画の扉が開いた。その後、直ぐに中のロッカールームへ通され、同じような防護服を渡された。

    「この先はNormal、Abnormalとは比べ物にならない。今までのは所詮ケモノ。しかし、これから先の生物は知能も高い。念の為、着ておくといい」

    ここで変に断れば不審がられるだろう。着てみると、顔の部分だけが四角い防護フィルターのようになっている。No.096の頭部は顔が覆われており目の部分のみが見えている仕様だった。

    「貴方はお客様ですから、変に視野を狭められるよりは出来るだけフィルターが少ない方が得られる情報も多いと思うので…」

    だ、そうだ。

    「この先を進んだところがVariantクラス、その異質さから我々の中では”最期の箱庭”なんて呼ぶ者もいる。是非とも見て頂きたい。」

    カチリと、音がして照明が着く。照らし出されたそこに居たのは…

    「…ッ脳無!?!?」

    巨大な培養器の中でひっそりと浮かぶ人型の人ではない何か。ゴポゴポと時折泡を立てながらそれらは鎮座していた。

    「否、コレらは脳無では無い。脳無は人を繋ぎ合わせて作りあげた。言わば死体の塊だ。コレらは我々が医学的に研究を重ね、クローン技術を応用し1から培養した物だ」

    「…ハッ、応用ね。一体何をしたらこんな産物が出来上がんだよ」

    「様々な生物の遺伝子を掛け合わせた。時には自らを被検体にした。…例えばこの被検体は私の細胞をベースに蛇、猪、鷹の細胞を混ぜた。出来上がったものはご覧の通り、最早人の姿すらしていないものだった」

    ゴポゴポと、培養液の中で頭部が鷹、人の手足に蛇の鱗としっぽ、身体が恐らく猪であろう体毛で覆われた何かが眠りについていた。

    「…何のために…」

    「…目的。否。我々はコレらを使って何かしようとしている訳では無い。ただそこに可能性があったから試した。鷹は目が良く、蛇は柔軟で、猪は耐久力がある。もしその能力を人が使えたなら…。過程があり、実験があり、検証へと至る。我々はただどのような事象が起こるのか知りたい。どのような生物が産まれるか、どのような事象が生まれるのか。我々の目的は飽くまでもそれを記録する事にある」

    「…つまりは、今まで見てきた棟の生物はテメェらが作り出した産物ってことかよ。さっきのオッサンはこの研究が人類に役立つって信じてんだぞ」

    「是、しかし、否。1部は本当に個性が発現した生物だ。この研究も巡って人の役に立つ場合もある。故に肯定も否定も無い」

    それだけを言うと、No.096は更に奥へ進んでいく。通された所は巨大な水槽が並ぶ部屋だった。

    「ココは先程の被検体の中でも優れた能力値を出したモノを隔離している部屋だ」

    先程までとは違い、培養液ではなく様々な環境を模した水槽だった。各々が水槽の中を這い回ったり、泳ぎ回ったりと蠢いている。不気味なのはどれもこれも人型に近いという事だ。

    「首に繋がれた管から安定剤を定期的に投与している、余程の事がない限りは我々に牙を向くことは少ないだろう。知能はあるが、コチラに興味を示すことも余りない。この辺りのものは比較的安定している。気になるならじっくり見て行くといい」

    そう言うとNo.096は奥の方へノソノソと歩いていく。

    「(なるほど”Paraphilia”…コレに…コイツらみてぇなモンに随分とご執着なヤツらがここの投資をしてるっつう訳だ。気色悪ぃ)」

    水槽を流し見しながらその後に着いていく。どれも人のような形をしながら、全くそれとは違う。どれもこれも、獣のようであり、どこかこちらを値踏みするかのような理性も感じる。気味が悪い。その一言に限っていた。

    「(…あ?)」

    歩き回っていると1つの水槽に目が止まった。薄暗い水で満たされた水槽だ。中にはぼんやりとだが、やはり人のような形をした、人では無いものが居た。ただ、他の生物が首に管が1本だけ繋がれた状態なのに対し、この水槽の生物の様子だけ異常だった。

    まるで動きを封じるかのように身体中に打ち付けられた杭と鎖。そして天井から何本も伸びる管。傷跡が痛々しく残っているのに、まるで神話を描いた絵画のような浮世離れした光景。

    「ソレはホヤとサメに近い生物だ」

    「!!!」

    暫く立ち止まっていたからか、戻ってきていたNo.096に気が付かなかった。確かに、目の前の生物は人型であるものの、身体の下半身がサメのようになっていて、背中はゴツゴツと緑色のトゲのようなものがビッシリ生えていた。人魚…と言うには異形が過ぎるが…それに近い見た目だろう。

    「他の個体と違いソレは気性が荒い。あまり気に留めぬ事だ」

    「この辺のは比較的安定してんだろ?ならオレが何見たっていいじゃねぇか」

    「…。否。ソレは危険な生物だ。安定しているとは言え不安定だ。気に留めてはならない」

    「さっきと言ってること矛盾してんじゃねぇか」

    「……」

    その、No.096の態度に妙な違和感を感じた。いや、元々この研究所を見て回っていた時から、ずっとまとわりついていた物が、ここに来て警告を鳴らしているようだ。コイツに…何かある。

    ガシャンッ!!!

    「!!!」

    「…!」

    水槽の中から金属音が鳴り響いた。見れば、中の生物が身体を動かそうともがいていた。ゴポゴポと、生物の口から泡が吐き出される。その口の中は、ギザギザと凶悪な歯が並んでいた。

    「…不味いな…管制室、応答願う。こちらNo.096。またいつもの被検体だ…」

    No.096は無線で状況を伝えながら足早にその場から立ち去る。その間も、金属音が鳴り響く。


    ガシャンッ!!ガッ!!ジャリッギッ!!!べキべキッ!!!バキーンッ!!!


    とうとう、中の生物を抑えていた鎖が弾け飛んだ。生物は、何度か尾ヒレを動かしたあと、激突するような勢いで水槽の硝子に向かってきた。実際にドンッと音がして硝子にヒビが入る。

    「───!!────!!」

    「…は?」

    生物は何かを訴えるかのように、泡をゴポゴポと立てながら口を動かす。声が出ていないのか、身振り手振りとしか言いようのない仕草をしていた。生物の頭部から伸びた長い髪のような物の間から、目と視線があった。深い緑色の目をしていた。

    生物はガリガリと、ヒビの入った硝子に爪を立てる。ゴポゴポと泡を吐き出しながら。

    ガリガリガリ

    生物は分かったのだろう。水槽越しに見た人間が誰なのかを。だからこそ、端的に…それでいて、この研究所の生物の"元"がなんだったかを伝えようとしたのだ。

    …オレを『かっちゃん』なんて呼ぶ人間はもう、1人しかいない。…

    「…"デク"…なのか…」

    「───。…」

    目の前の生物は、ガリガリと、再び水槽を引っ掻くと1度だけ、はにかんだ。ゴポゴポと、また口を動かす。その言葉が何を紡ごうとしたのか、今度はハッキリとわかった。

    『ごめんね』

    その、見当違いの謝罪に虫唾が走る。何に対する謝罪なのか…苛立ちが募る。

    「…こちら…大・爆・殺・神・ダイナマイト。証拠は抑えた。この研究所職員、特にNo.100以内の職員は絶対に逃がすな」

    『─ザザッ、了解!!!A班、B班!!突入開始!!各員"生物兵器"に最大限注意を払え!!作戦開始!!!』

    手に持っていたケースを開けて篭手や爆弾の最低限の装備を整える。芝居はもうやめだ。

    「下がってろデク」

    聞こえているかは分からなかったが、篭手を構えれば目の前の生物…いや、デクは大人しく一番端の壁まで下がった。そこで、火力を抑えて水槽を爆破すると、水が勢いよく流れ出た。

    「…デク」

    「……」

    デクは動かずにジィっとこちらを見ている。無理矢理鎖を引きちぎったからか、身体中は痛々しいほどに傷付いていたが、上体を起こしたまま目を逸らそうとはしなかった。

    「テメェは本当に…緑谷出久…なんだよな?」

    「───。─────」

    身体中に繋がれた管を外しながら問いかければ、ハクハクと口を動かす。声は出なかったがコクリとデクはうなづいた。最後に、首に巻かれていた金属製の首輪を爆破して外すと、喉元に大きな傷跡があった。

    切り裂かれたかのような、痛々しい傷跡。無個性だったデクは…身体を弄り回された挙句に…泣く為の声すらも…潰されていた。

    その変わり果てたボロボロの身体を抱きしめた。

    「──?」

    「うるせぇ黙ってろ…」

    パクパクという音だけが鳴っていた。もう二度と聞くことが出来ないであろう声。歩くことも出来ず、逃げることも出来ない。どれだけ今まで苦痛を堪えてきたのだろうか。

    通ってきた道からドカドカと足音が聞こえた。おそらくは駆けつけたヒーロー達だろう。

    「ダイナマイト!!大丈夫か!?…ッ!!!!おま、ソイツ」

    「…デクだ。」

    「は??」

    駆けつけた切島が目を見開きながら、オレとデクを見た。切島は…いや、A組のヤツらはデクが無個性でオレの幼馴染だということを知っている、今は良き理解者だ。そんなデクの、人とはかけ離れ容姿に、この施設がどんなモノかを全てを察したのだろう。苦虫を噛み潰したような顔をしながら

    「…マジ…なのかよ…」

    と、ただ一言呟いた。










    ……




    デクが行方不明になったのはヘドロ事件が過ぎて間もなくの頃だった。今思えば、テレビ中継もされていた大きな事件だった為、無個性でなんの抵抗も出来ないデクは目をつけられていたのだろう。

    おばさんもうちのババアも泣いて、必死に探し回った。事件性があるとして警察やヒーローが動いたが操作はなんの進展も見せず…数ヶ月も経たないうちに捜査は打ち切られた。クラスでは、人が1人消えたと言うのに、それが無個性でモブみてぇなやつだと分かった途端、居なくなったやつよりも"どうやって消えたか"に注目が集まった。

    吐き気がした。

    見掛けだけ心配する連中が心底気持ち悪かった。デクが居なくなっても、何も変わらない教室にいるのが苦痛だった。

    「アンタ…大丈夫?」

    「…ア??」

    「はぁ…鏡みて来な。酷い顔してるよ」

    ババアが突然そんなことを聞いてきた時にはいよいよ頭がおかしくなったんかと思った。けど、そこで鏡を見て…あー、確かにひでぇ顔だと自分でも思った。その数日間、ストレスと、吐き気で碌に眠れてなかった事も思い出した。


    あのクソデクが自分にこんな形でストレスを与えて来ることに酷く腹が立った。


    しばらくて、オレは雄英高校に難なく合格した。中学の頃とは違い、オレに萎縮せずに絡んでくる連中が多く、最初はウザかったソレも気がつけば気を抜いて話せるようなヤツが増えてった。

    「なぁバクゴー、お前いっつも目の下にクマ作ってっけどよ、ちゃんと寝てんのか?」

    「あ、ソレおれも気になってた!!!」

    寮生になって余計に絡む機会が増えた時、そんなことを聞かれた。満足に眠れない生活に慣れすぎていて気にも止めていなかったが、寮生活も暫くすると不思議に思うらしい。

    「あ〜…眠れねぇから」

    「ソレって不眠症って事かしら?薬とかは貰っているの?」

    「前まで使っとったけど、最近効かねぇからやめた」

    「お前の不眠症そんなひでぇの??」

    ワラワラと、いつの間にか人が集まってきていた。眠気には慣れていたが、そんなオレとは違って周りの連中は余程クマが気になるらしい。

    「もう1年近い付き合いだから慣れたわ」

    「1年って、お前ヘドロに巻き込まれたやつだよな?」

    「うるっせぇ!!それは関係ねぇわ!!!」

    「うぇぇ…そ、そんなに怒鳴らくても…」

    ヘドロと聞いて、嫌でも思い出すのがデクの顔だ。自分だって怖くて泣きそうなくせに、無個性でオレよりもどうしようもねぇ癖に、迷わずオレの所まで走ってきた。

    『君がっ!!助けを求める顔してた!!!』

    なんてクソみたいな戯言吐いて。

    「爆豪ちゃん。無理に聞こうとは思わないけれど、話してみて楽になることもあると思うの。良かったら、私たちに話してみてくれないかしら?」

    「そ、そうだぜバクゴー!!もしかしたらなんか役に立てるかもしれねぇし!!」

    「もし今は無理でも、ヒーローになってからとかね!!」

    「確かに!!」

    「……」

    きっと、寝不足で…頭が湧いていたんだ。じゃなきゃ、オレがデクのことをこいつらに話すなんざしねぇ。だって可笑しいだろ?散々虐め抜いてきたヤツが、行方不明になって、そんでオレが不眠症になってるなんてよ。

    「デクは無個性だ。けど、殴ろうが痛めつけようが絶対に折れねぇ。そういう奴だ。だから…時々考える。オレがそうしていたように、ヴィランにぶち殺されてんじゃねぇかってな」

    「バクゴー…」

    「散々ヒーローは諦めろっつった。無個性なんざ野垂れ死にすんのが関の山だ。あぁやって、オレを助けるためにヒーローの真似事なんかして、注目集めて…その結果居なくなった。全部アイツの自業自得だ」

    「……」

    誰もオレを責めなかった。ソレがそん時は死ぬほど辛かった。

    「爆豪ちゃん。貴方はその人が死なないように止めようとしたのね」

    「……」

    今度はオレが呆然とする側だった。オレは…ただ気に食わなかった。なんの力もねぇくせにヒーローになろうとする姿が。そのくせになんの努力もしねぇ姿が。

    「安全な所に居て欲しかったのね。でも、何かあるといけないから少しでも強くなって欲しかったのね」

    誰にでも手を伸ばすのが気味が悪くて仕方なかった。さも当たり前のように、抵抗を諦めるその様が気味が悪かった。

    「危ない事はやめて欲しかったのね。そして…頼って欲しかったのね」

    ボタボタと…らしくもなく涙が出た。自分でも訳が分からなかった。

    その日から、クラスのヤツらは代わる代わるオレの部屋に入り浸る様になったが、1人の時よりも自然に眠る事が出来た。その後、卒業するまでの間に色々起こったが、結局のところ、デクが見つかることは無かった。




    ……




    カツン、カツン…

    「烈怒頼雄斗、デク連れて先に戻れ」

    「は?おいお前は??」

    「…オレが戻んのは全部全部、ぶち壊してからだ」

    奥の方からあの男が歩いてくる。ソイツは、防護服で頭まですっぽりと覆われていて、暗い場所からでは声色でしか感情が読み取れなかった。

    「895番、些かコレは勝手がすぎると思いますが。どういう意図があるか確認しても宜しいですか?」

    「ハッ、ヒーローが目の前で起こってる犯罪取り締まっただけなんだわ。考えてみりゃ、わざわざ不確定要素の強い遺伝子培養なんかより、無個性で碌な抵抗出来ねぇ人間使って弄り回した方が楽だもんなぁ???」

    バチバチと爆破をしても目の前の男はビビらない。それどころか、ずっと抑揚のない声で、淡々と話し続ける。

    「…もしかして我々がそこの被検体をさらったとお考えですか?心外です。その子には我々の実験の被検体になってもらっただけですよ。その子もそれに同意した。なんの問題もないでしょう?」

    「ありまくりだわクソが。どんな契約をしたか知らねぇが、未成年誑し込んで何が無問題だ」

    その一言に、勝己の目の前の男は肩を震わせて笑う。ある意味、初めて晒された感情だった。

    「はははははっ!!いやいや、失礼。随分と面白いことを言うのでつい笑ってしまいました」

    「何がおかしいッ?」

    「いえいえ。ただ、そうですね。その被検体が我々の実験に参加したのは貴方にも要因があるんですよ?だって我々の研究の到達点は

    "個性の発現"なのですから」

    勝己と、切島の表情が呆然と見開かれる。そんな様子に気を良くしたのか、目の前の男は淡々と語り出した。

    「"トリガー"はご存知ですよね?個性因子を一時的に増幅させ、個性を強化するブースト薬。あくまで、自身の個性を強化する薬だ。

    我々はそこに疑問点を見出した。何故わざわざある物だけで戦わねばならないのか。力が欲しいのなら何故新たな力を欲さないのか。それでは人の限りある可能性を更に狭めてしまう。

    なら、新しいモノを作ればいい。ここは、その為の実験施設なのですから。そうして出来上がった個性発現薬を我々直々に使ってみたのですが…どれも上手くいかなくてね。皆自我のない生物へと変わり果ててしまいました。

    初めに自身の遺伝子を、その次に培養を、そして実験を…。改良に改良を重ね、その最終的な到達点。

    その最高傑作が…被検体921。その子なんですよ。

    ただ、一つだけ誤算がありましてね。無個性は個性持ちと違って投薬の量の調整が難しく、定期的に薬を投与しなければ、持ち得る個性に身体が耐えきれず崩壊してしまうんです。全く不本意な所です。その被検体も、それは分かっているはずなのですが、中々、暴れて手がつけられなくてね。

    その子の命も、もって2時間という所でしょうか」

    男は、ゴソゴソと注射器を取り出して、自らの項に突き刺した。

    「その子の最後を見届けられないのは誠に残念ですが、私も最期にこの素晴らしい実験の成果を、あなだ達に試したぃ"と思いま"す。精々、いぃ"実験体に"な"ってぐだぁ"ぁア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

    男の防護服の内側から肉が脈打ち、盛り上がる。ブチブチと音を立てて布が弾け、内側から出てきたのはもう人ではないナニか。何本も生えた手足で赤子のように這い、顔のような部分には金属室な牙と複数の剥き出しになった目玉。ブニブニとした背中から何本も生える触手のようなもの。

    もはや、人の原型を留めていない化け物がそこに居た。

    「…安心しろやクソ共が…テメェら全員、1匹たりとも残さずぶち殺してるよ」







    ここまで書いて我に返った何コレ?( ゚σω゚)



    この後、かっちゃんが施設諸共爆破するけど、瓦礫の下から不意打ち喰らいそうになってデクくんに庇われるとか、人外化したデクくんが意外とやべぇ力持ってたりとか、2時間経って崩壊する話とか書きたかったのかな???多分!!覚えてねぇ!!!




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