コインランドリー 雨続きで洗濯物が溜まるばかりなのは街でも森でも変わりない。理鶯がコインランドリーに行くというので左馬刻も一緒に行くことにした。雨が小雨になったタイミングで彼女は街に降りてきたのだが、辺りはもうすっかり暗くなっている。
「メシどうする」
「作ろうか」
「洗濯してメシ作ってって大変だろ」
街で食べる理鶯の手料理は実に美味い。食べられるならぜひ、と思うが彼女の負担を思えば気安く頼めるものでもない。まして理鶯の本来の目的は洗濯なのだ。
「食べてくれると嬉しい」
理鶯はそう囁いて笑った。着られるものがほとんどなくなった、と言ってホットパンツとMTCで作った揃いのTシャツを身につけている。辺りが暗いからわかりにくいが、大きく盛り上がった胸元は柔らかそうで恐らく下着をつけていない。丸く大きなヒップラインもあらわで、まさかそっちも穿いていないのではと左馬刻は心配になって顔を顰めた。お互いいい大人だ。下着を身につけているかどうかなんて尋ねるのもおかしいだろう。だから問わない。どうせ脱がせばわかることだ。
考えることはみな同じで、コインランドリーの大きな洗濯乾燥機はすべてフル稼働していた。だが運良く一台空いたのでそこに二人分の洗濯物を突っ込んだ。
「結構かかるぞ、なんか食いに行くか?」
「いいや、小官はここで待つ」
大きな音を立てて回る洗濯機を理鶯は立ったまま眺めていた。乾燥まで終わるには一時間近くかかる。左馬刻は片隅にあったパイプ椅子を広げた。
「座れ」
「座るなら左馬刻が」
理鶯は元々座られないことも多かった。あいにく椅子は一つしかない。左馬刻を差し置いて理鶯が座ることはありえなかった。だったら、と左馬刻はパイプ椅子に腰を下ろす。
「りお」
そして彼女を呼んだ。両腕を広げて、ん、と差し出して。理鶯は目を丸くしたが、小さく笑うとゆっくり近づき、そして左馬刻の肩に腕を回して抱きつくようにして乗った。
「そっちかよ」
左馬刻としては自分を背もたれにして座る理鶯を後ろから抱っこするイメージでいたのだが、こちらを見据える理鶯の青い目は静かに燃えていた。長雨で燻っているのは彼女も同じなのだろう。
「重たいか?」
「ばぁろう、持ち上げてやろうか、あぁ?」
両手で理鶯の尻を掴み、ぐっと持ち上げると理鶯の胸が左馬刻の顔に触れた。その予想通りの感触に左馬刻は眉を寄せる。
「またお前、下着つけてねぇのかよ」
「全部洗ってしまったのでね」
今日はそれらしい理由があるが、彼女が下着をあまりつけないのはかつて海軍にいた頃の指導とは名ばかりの性暴力の名残りだと左馬刻はもう知っていた。身につけていてもいなくても屁理屈で吊し上げられるのならば被害の少ない方を選ぶだけだ。左馬刻は過去を変えることは出来ないが、理鶯の今を放置しておくつもりはない。彼女が理解するまで言い続けるつもりだ。
「んなカッコで街ん中歩いてんのかよ…」
胸の谷間に顔を埋め、もごもごと布を噛んでたくし上げていく。尻を揉めば腰が動いて左馬刻に擦り付けてくるようだった。パイプ椅子が軋む。脱水中で激しく回転する洗濯機の音。独特の甘い洗剤の匂い。一台乾燥を終えたのか、ピーピーと電子音が鳴り響く。
「見せつけてんのか、りおーちゃんよぉ」
「そんなわけないだろう…小官が見せたいのは、左馬刻だけだ」
「よく言うぜ」
左馬刻は笑ってTシャツごと理鶯の胸を噛んだ。彼女の強さは知っている。この女を暴力で犯せる男はそういないだろう。それでも左馬刻は自分の大事なものが見知らぬ他人の欲望に汚されるのはいやだった。
「ん、左馬刻…」
理鶯の腰が揺れる。もっと強くしてほしくて青い目が濡れていた。
「見せ物じゃねぇんだ、我慢しな」
胸を鷲掴みにして左馬刻が笑う。理鶯は彼の膝の上にまたがったまま大人しくしていた。
終