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    okm_tmsb

    @okm_tmsb

    自探索者長編やif話はエブリスタにてhttps://estar.jp/users/61829929

    短編とセッションバレorシナリオバレのあるものを
    ポイピクにて取り扱っています。

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    okm_tmsb

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    自創作キャラ
    黒川衽と松川智治の昔の話②
    「相棒に送る幸福」を続きとして読むと死ぬ。(私が)
    そこにある賞賛は幸福と共に。

    相棒に送る賞賛俺が松川智治という人物に会ったのは、警察学校の入校式の時だった。
    今でこそ、双方に相棒などと銘打ってそれ以上とも言える仲だが、同い歳の同期。というだけで、最初から関わりがあったわけじゃない。
    俺からすれば、一目見た時から「俺の苦手なタイプの人間」という認識で、無意識にも距離を空けていた。
    本人も俺のことを意識していない様子だったから、きっと同じことを思っている。そう決めつけて、当初の俺はその距離感を勝手に保っていた。
    先に踏み込んできたのは、松川智治のほうだった。

    「お・・黒川。教えてほしい事があるんだが」

    固い口調だが、どこかフランクで、そうか、こいつこういう喋り方だったのかと少し驚いた。
    目つきの悪さと、どこか周囲を疑ってかかるような発言の慎重さがいつも目について、てっきり警戒心が強い、例えば「俺はお前らとは違う」とでも言うような、横柄な態度をとる人物だと思っていた。
    勝手に作り上げたイメージ像を、彼は見事最初の一言で打ち砕いたのだ。

    「?・・・黒川?」
    「ああ、いや、ごめん、なんだっけ?教えてほしい事?」

    当時19歳。
    この出会いが、俺の人生において大きなものになるとは、思いもしなかった。
    当たり前の人生、人のレールに沿って歩くことが常で、俺には自分の人生はこのまま平穏に終わるのだと思っていた。人より秀でたところで言えば、懐に入りこむコミュニケーション能力と、幼いころから父に叩き込まれた銃の腕前。

    父親はすごい警官で、俺も母も父が誇りだった。今だってそうだ。
    俺が警官になることを話した時には心配されたが、それでも、当たり障りなく生きていくことが、当たり前だと思っていた俺が、最初にした決断に父はGOサインを出した。

    「銃の構え方だよ。お前、いつもきれいに構えるだろ?」
    「まっちゃんは銃より体術派でしょ?馬鹿みたいに蹴りだけ強いんだから。」
    「うるせー。黙って教えろよ。」

    お酒が飲める歳になったころには、すでに俺とまっちゃんは親友同士で、良きライバルだった。
    まっちゃんは体術で、俺は銃。そうやって何かと得意分野も違ったから、それぞれにカバーしあうのも、教えあうのも事足りてしまった。
    俺は警察学校でのその当たり前を、これからも続けていけるものだと思っていた。

    「ねぇ、まっちゃんはなんで警官になろうと思ったの?」

    それぞれに違う部署への配属が決まった日。俺は初めてまっちゃんに踏み込んだ。
    今まで察することがあっても、決して聞いてこなかったことを聞いた。
    もしかしたら、もう会えないかもしれないなんて、軽く弱気だったのもあったんだろう。
    多分だけど、まっちゃんもそれには気づいていて、ため息をつきながら教えてくれた。

    「憧れたんだよ。自分を助けてくれた警官に」
    「あ、んじゃ俺と一緒。俺も警官のおやじに憧れてさ。」
    「そっか、警視総監だもんな。それは憧れにもなるわ。」
    「俺はおやじみたいにエリートにはなれないし、なる気もないけど、まっちゃんは成れそうだね。」
    「俺はそんな柄じゃない。」

    タバコをふかして笑う。煙が風に吹かれて消えていく。
    父は、滅多に家に帰ってこなかった。事件の最善線には長くいなくて、早々に警視総監になった父は、人を動かす側だった。
    まっちゃんに人を動かせるなんて、到底俺も思ってない。
    そういうタイプの人間じゃない。まっちゃんは芯が通ってて、どこまでも愚直で、そして、こいつはたぶん。
    最前線でずっと犯人を追っていたいタイプだ。

    そうして、俺の予感は的中した。

    まっちゃんは俺と職場が離れようと頻回に連絡を取ってくれた。
    後から聞いた話、同期の中でも、まっちゃんが自発的に連絡を取っていたのは俺くらいだったようで、ノリはいいが、どこか人との距離感は取りにくそうにしているのは、今でも変わらないらしい。

    そんな彼の、彼女から、初めて連絡が来たのは、俺が25になったころだった。

    「一度会って話をしてほしい。」

    彼女から送られてきたのは、その一文で、俺は理由も聞かせてもらえないまま、日取りを抑えられ、まっちゃんのアパートに行くことになった。
    会うのは久しぶりで、アパートに行くのは実はその時が初めてだった。
    もともと、彼女と二人暮らしをしているのは聞いていたし、高校一年生の時にできた彼女がずっと続いているのも知っていた。
    もし、これがまっちゃん本人からの連絡なら、ついに結婚かと浮かれるところだったが、彼女からと思うと、もしや仕事関連で何かあったのか、俺は自然と心配していた。

    アパートについて深呼吸。インターホンを押して深呼吸。
    ドアを開いて顔を出したのはセミロング程の髪を揺らした、ぱっちりとした目が特徴の女性だった。
    彼女は見事なきょとん顔で俺を見る。俺が「連絡いただいた黒川です」と返答すると、彼女は何か理解したのか、中へと走り去っていった。

    「智治!黒川さん来たよ!」
    「おう、聞こえた。」

    そういって女性と入れ替わる様にして、中から見慣れた顔が出てくる。ほんの数年会ってなかった彼は、何ら変わっていなかった。
    しかし、たいしてまっちゃんの方は俺を見て目を丸くする。

    「髪、染めたのか?」
    「えっ、よく気付いたね。卒業の時とはそんなに大差ないと思うけど、」
    「いや、割と印象違って見えるぞ。」

    それも似合うな。なんて笑うまっちゃんは、俺がしていた心配など必要ない様子だった。
    それならば、なぜ呼ばれたのか、疑問はそのままだが、それでも他愛無い相棒との会話は穏やかで、気持ちは自然と落ち着いていった。

    長くもなけば短くもない期間、あっていなかった溝などなく、俺は中へ誘導される。
    二人暮らしであれば十分であろう室内を見渡すことはさすがに気が引けた。二人の愛の巣などと表現すると怒られるだろうが、それでも、この不器用な男が生涯をかけて愛する女性との生活の場だと思うと、じろじろと観察するの憚られたのだ。
    奥に見えるキャットタワーから視線を感じる。俺が視線を向けると何かあきれた様子で一鳴きする三毛猫の姿がある。

    「そんなこと言うなよ。」

    前歩いていたまっちゃんがつぶやいたのが聞こえて思わず視線を向けるが、彼は何事もなかったように俺にイスに座るように勧めてくる。
    勧められるまま座ると少し緊張した様子の女性が俺にお茶を差し出してくる。
    それでも、お礼を言えば、どこか奥深さのある笑みで「今日は来てもらってありがとうございます」と返答がある。
    まっちゃんは俺の正面に座り、その隣に彼女も座る。
    なぜか三者面談のような状態になったことに俺は違和感を覚えつつも、これはもしかしてと一つ予測を立てて、襟を正した。

    やはり先に踏み込んできたのは松川智治だった。

    「お願いがあって呼んだ。本当は、もっと別の形で頼む必要もあったと思うんだけど、俺はお前を信用しているから、これからもたぶん頼りにすると思う。
    だから」
    「まっちゃん。」

    彼の言葉を遮る。なぜか居たたまれない気持ちになったのだ。
    ずっと、絶対に俺から視線をそらさず、それでも片眉をひそめて、彼はたぶんこういう時どういう顔をしたらいいのか知らないのだ。
    だったら、先に、たぶんその言葉を口にする前に、どんな顔をするべきか教えてやらないと。そう思ったのだ。

    「不安そうな顔してるよ?これさ、たぶん、嬉しい報告でしょ?だったらもっと楽しそうにしてよ。」

    俺の言葉に、彼が目を丸くする。ここにきて二度目のその表情のあと、彼は俺が見たことない顔で笑った。
    いつも困ったように笑う彼からは信じられないほど、すがすがしい笑顔だった。

    「俺、結婚する。」

    彼の言葉に、俺も、そして隣にいた彼女も、人生の幸せを感じていた。
    この先、これ以上の幸せがあるだろうか。
    親友が、相棒が、やっと幸せになれるのだと。
    その決断に、俺は賞賛と感動が溢れて止まなかった。

    「おめでとう。」
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