方舟 これが正しい道だと思った。
裏切りになってしまうのだと頭の何処かで理解していた。でも、どうしても、私の中の一番はオーブで国民で、お前を選ぶ事は出来なかった。
十六歳で出会ってから沢山の事があった。戦争もお父様の事もオーブの事もキラとの事も、宇宙に上がってからは色んな事が津波のように襲ってきて涙が止まらなかった。でもキラやお前がいたから正気でいられた。
すごく感謝しているんだ。
それだけじゃない。こんな私を抱きしめて出会えて良かった、守るだなんて言ってくれて。いきなりだったから驚いたけどすごく嬉しかったんだ。あんな風に私を私として、ただのカガリとして見て肯定してくれて、本当に本当に嬉しかった。
それからオーブに来てもお前はずっと側にいてくれた。名前を偽ってまで。
今でも——いやこれから先もずっと、名前を奪ってしまった事はすまないと思ってる。それを言うとお前は『気にするな』と柔く笑ったけど。
きちんと謝りたいとずっと思っていたんだ。それすら出来なくなってしまうのだろう。
ずっと、ずっと側にいてくれたのに、私はお前に何か返せただろうか。必要な言葉をお前に伝えられただろうか。
流れる車窓に写るたくさんの国民。それを眺めながら思い浮かぶのはお前との思い出ばかりで、国民に手を振りながらその一つ一つの思い出に私は手を振っていく。
さよなら。さよなら。
失ったものはたくさんあるけど、お前に出会えて良かった。それだけは変わらない。
結婚の事、ちゃんと言えなくてごめん。でもお前との事は忘れない。どんな事があろうと、私の中でお前は生きていくから。
いつかどこかで生まれ変わってまたお前と生きていけるなら、また無人島で会えたらいいな。きっとすぐに分かると思うんだ。お前だっ、て。
だから今は、それまでは、お前への想いをこの白い方舟に置いて私は行くよ。
アスラン、お前に出会えて良かった。