送葬と流転 ストライクルージュでクサナギに戻ると終戦の喜びに溢れた沢山の人達がキラアスランカガリの三人を出迎えた。
帰投して早々救助したキラをクサナギの医療スタッフに任せるとそれが引き金になったのかクルーの高揚は落ち着きを取り戻し皆各々の仕事に戻っていく。
戦争は終わった。戦後処理や復興など問題は山積みだが人と人が争い尊い命を散らす悲しみの歴史は一度その足を止めたのだった。
キラを預けたアスランとカガリはパイロットスーツから着替える為ロッカールームを目指していた。
終戦と戦後処理に追われるクサナギの中は黙ったままの二人とは反対に賑やかで艦内で何人かとすれ違ったが聞こえてくる会話はあまり耳には入らなかった。
気付けばロッカールームに辿り着いていた。どちらも黙ったまま俯く。ふとアスランの視界にカガリと繋がれた左手が入ってきた。いつから彼女の手を握っていたのか記憶はない。硬く結ばれた手は解ける様子はなく、カガリも解こうとはしなかった。
掌の温もりが、繋がっているという安心感が、離れるのを拒む。しかしいつまでもそうしている訳にもいかない。アスランはカガリの名を呼び手を緩めたその瞬間、ロッカールームの扉が開きカガリに引っ張られるかたちで二人は雪崩れ込むように部屋に入った。
扉はカガリに閉められロックがかかる。俯いたまま無言を貫くカガリにアスランは困惑する。それが伝わったのかカガリは力を緩めてアスランの両手をそっと握った。
「カガリ?」
両手を力無く握られる感覚はどこかこそばゆくそれでいて何かしらの意味を考えてしまう。
いったい彼女は何を伝えたいのだろうかとアスランがカガリの顔を覗き込むと同時に弾かれたようにカガリが顔を上げた。
「ア、アスラン……」
黄金の瞳と視線が交わる。その刹那、二つの金色が歪み光がぽろぽろと溢れた。
「終わって嬉しいのに……アサギ、ジュリ、マユラ……三人だけじゃない沢山の人が死んだ」
「うん……」
「お前の、お父様だって……」
「カガリ……」
撃たれながらも最後までジェネシスによる報復を叫んだ父がアスランの脳裏に過ぎる。
戦争は話し合うという僅かな時ですら奪ってしまう。
果たして自分が説得して父を止められたかどうかは分からない。正直なところ希望は薄かったとアスランは思う。父のデスクの上には美しく優しい笑みを浮かべている母と幼く朗らかな笑みを浮かべている自分の写真が飾られていたのだから。
戦争は残酷で沢山のモノを奪っていく。そう理解していても、それでも、と願ってしまう。それでも何か話せていたら変わったいたかもしれない、と。
嗚咽するカガリの瞳からは悲しみとも喜びとも取れる涙が無重力空間に散らばる。揺蕩う雫達はまるで宇宙に瞬く星のようだった。
「お前もっ……」
「っ……」
カガリの手に力が入る。
父が死にジェネシスが発射ともに自爆する。ジェネシスを止めるにはジャスティスを自爆させるしか方法がなかった。そして、それで全て清算できると思った。父がした事も自分がした事も。自分の命と引き換えにでもしないと釣り合いが取れないとアスランは思っていた。それで守りたい人が守られるのなら己の命なぞ簡単に差し出せる。だが目の前の少女は生きることが道だと示してくれた。