………………。
痛い。
冷たい。
寒い。
禰豆子。
そうだ、禰豆子もきっと寒がってる。
早く起きなくちゃ。
早く。
禰豆子を人間に戻さなきゃ。
そんな方法あるのかわからないけど。
大切な妹なんだ。
たった一人になってしまった俺の家族なんだ。
早く。
早く、禰豆子をーーー。
意識が浮上するより先に手が動いていた。
目を開けた炭治郎は、自分が禰豆子の羽織を掴んでいる事を理解するのに数秒かかった。
背中の痛みと雪の冷たさが意識をはっきりとさせてゆく。
禰豆子だ。
目の前に禰豆子が横たわっている。
あたたかい。
生きてる。
禰豆子の血の匂いもしない。
気絶してるだけなのか。
息を吐く。
少しの安堵と、夢ではなかったという深い絶望。
勝手に溢れてくる涙が止まらない。
「起きたか」
そこに聞こえてきた澄んだ声。
咄嗟に禰豆子を抱き寄せる。
顔を上げると、先程禰豆子を切ろうとしていた男が立っていた。
緊張と恐怖で体を強張らせる炭治郎に対して、男は冷たく感じる青い瞳で見つめてくるばかり。
ダメだった。
あの方法ではこの男を倒せなかった。
考えられる唯一の方法だったのに。
でもなんで俺は生きてる。
なんで禰豆子も切られてないんだ。
混乱する少年とそれを見つめる男。
二人の視線が絡み合い、数秒か数分か……もしくは一瞬だったかもしれないその瞬間が炭治郎にはとても長く感じた。
「ダメだよ、義勇。何か話さなきゃ」
早鐘を打つ心臓を無理やり落ち着かせて次の解決策を探ろうとした時、突然近くから声が聞こえてきた。
驚いて振り向くとすぐ後ろに少女が立っている。
(近い…!気づかなかった!)
無意識に逃げようとする炭治郎に少女はふんわりと笑いながら屈んで目線を合わせる。
「驚かせてごめんね。私は真菰って言うの。あなたは?」
「……………………竈門……炭治郎、です」
そのあどけない仕草に強張っていた体から少しだけ力が抜けた。
炭治郎が名乗ると少女はまたひとつ笑みを零す。
おそらく自分よりは年上だと思うのだが、かわいらしいという表現が似合う少女だ。
少女は花柄の羽織と、男と同じ見慣れない洋服を着ていた。
仲間なのだろうか。
逃げた方が良いのか。
「真菰、なんでここに」
「任務が近くだったから加勢に来たの。嫌な予感がしたから。そしたら……」
「………」
二人が炭治郎を見た。
青ざめながら禰豆子を抱きかかえる炭治郎と、それを悲しそうな瞳で見つめる少女。
そして、義勇と呼ばれた男。
青い瞳からは思考が読み取れない。
それが今の炭治郎にはとても恐ろしかった。
男が一歩近づく。
後退りする炭治郎を見つめてから数秒だけ目を瞑り、口を開いた。
「狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人を訪ねろーー」
ーーーこれは、あったかもしれない少しだけ違う鬼殺のお話。
▽▽▽今後▽▽▽
炭治郎は狭霧山の修行中、錆兎(生きてる)に出会う。
炭治郎を見込んで度々稽古をつけに来てくれる錆兎と真菰。
義勇は会いに来ないが、真菰が色々話してくれるので、早くあの日のお礼を伝えたい気持ちと義勇をもっと知りたいという気持ちが膨らむ炭治郎。
そんなこんなで修行と最終選別を突破。
ガバガバif設定
▽義勇
水柱。なるつもりはなかったけれど錆兎に強く推薦され続けた結果、柱となる事を受けた。
自分のせいで錆兎が大怪我をし、真菰も怪我をして自分だけ無傷で手鬼も倒せず逃げる事しかできなかった己を責め続けている。
守れる強さが欲しいと鍛練を積み重ね柱になれる程にまでなったが今でも錆兎には敵わないと思っていて、傷がなければ錆兎が柱になれたのにとそれもまた責任を感じている。
錆兎が生きている為、羽織は姉のもののみを着用。
▽錆兎
手鬼との戦いで義勇を庇い大怪我をするもギリギリの所を何名かの同門(義勇、真菰含む)に助けられなんとか最終選別を生き延びた。
その時に負った肩までの大きな傷痕が左腕にある。
日常生活に支障はなく、戦闘も可能だが柱としての職務は全うできないと判断し水柱には義勇を推奨した。
純粋に義勇の強さを認めている。
態度にはあまり出さないが自分のせいで怪我をした真菰の傷を気にしており、もう二度と傷付けさせないと誓っている。
義勇が助けた竈門兄妹が気になり会いに行くと思った以上に見所があって稽古をつけると決めた。
▽真菰
義勇、錆兎と同期で一緒に最終選別に参加した。
二人よりひとつ年上。(童顔なので見た目は年下に見える)
手鬼との戦いで錆兎を助ける際に負った傷痕が胸の辺りにある。
義勇、他の同門数名で錆兎を助けなんとか逃げ延びた。
義勇が竈門兄妹を気にかけている事を察して、会いに行った時の様子を度々教えており個人的にも兄妹を気に入っている。
錆兎とは恋仲。
錆兎も真菰も義勇が自分を責めている事には気づいているが、二人もまた自分がもっと強ければという気持ちがあり踏み込んだ会話ができていない。
随時加筆修正