明知不可而為之(六) まだ眠っている水鳥達を尻目に江澄は三毒に乗って薄闇の空へ飛び立った。
母なる蓮花湖が彼の真下に広がる。ところどころ氷の張った湖の上を撫でるようにぼんやりした白い靄が漂っている。
靄の合間には小さな首がいくつももたげていた。蓮の花の名残だ。乾きしなびた花托の群生は、真っ白な霜をかぶり水鬼のように水面上で青ざめている。実が入っていた多数の穴は小さな目のように虚ろで、知らないものがみれば妖魔の群れのように思うかもしれない。
江澄が向かっている雲深不知処には蓮の花は植えられていないが、先日寒室を訪れたとき、実を抜いて乾燥させた蓮の花托が洒落た陶器の壷に挿され部屋の一角におかれていた。
そんな風に飾られるだけで妖魔と見まがうかのような枯れた植物もまるで花が咲いているかのように生き生きとして誇らしげだった。
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