チンチラのノートンとチンチラのイソップ 😀 チンチラネズミのノートンとイソップはいつも仲良し、かと思いきやそんなことはない。
オス同士縄張り争いがあるとか、本能がお互いを牽制し合っているわけでもない。
単純に性格が合わなかった。だがいつも一緒にいる。
🤖「……あの」
「なに?」
「その、なんで僕達……一緒の部屋になったんですかね」
「さぁ? 部屋割りを決めるときに、先生が決めたんじゃない?」
「そうなんですけど……でも、なんというか、こう」
😀チンチラネズミのイソップは一匹でいるのが好きだった。ひどく他チンチラ嫌いで、部屋割りもできるだけ一匹部屋にしてほしいと頼んでいたのにこれである。
木の小屋もハンモックも大きな回し車も全部このノートンというチンチラと共用しないといけないのだから、イソップはひどく青ざめてしまった。
🤖「まあ、僕は気にしないからいいよ。君だってそうでしょう?」
「……えぇ、まあ……」
そう言われてしまえば仕方がない。それに、確かに嫌なのは自分だけなのだ。他の皆にとってはどうってことないだろう。
「……ところで
😀君、ちゃんとチモシーを食べてるのかい?随分貧相な身体をしているじゃないか……、肋が浮き出てる。そんなんで学校生活送れるの?」
「失礼ですね。あなたには関係ないことでしょう」
🤖「いーやあるね。僕の方が先輩なんだから」
「僕より先に生まれてきただけでしょ。あなたが僕の何を知っているっていうんですか」
「そうだね……。じゃあ、君は僕の何を知っていてくれるんだい?」
「…………」
😀黙りこくってしまったチンチラのイソップは気分が悪くなりついギリリィとその奥歯を鳴らした。舌打ちをしてしまったことと同義である。それを聞いたチンチラのノートンは
🤖一瞬目を見開いた後、眉間にシワを寄せた。そして小さくため息をつく。
「はぁ〜……君ねぇ、そういう態度はよくないと思うよ」
「……別に。僕、あなたみたいに図々しい人大っ嫌いです」
「ふ
😀ーん、そんなこと言って良いんだ?」
チンチラのノートンはじりじりとこちらに寄ってきた。よくみると彼は一回りほど大きい図体をしている。チンチラ界でも良い体格の持ち主なのはあきらかで、おそらく800gはあるだろう。だが引き締まった身体をしている。併せ持ったその強靭な前歯で噛まれるかもしれない。イソップは身構えた。
🤖「……、ぅぐッ!?︎」
しかし次の瞬間、目の前が真っ暗になり、身体が宙に浮いた。何が起きたのか分からず混乱する中、耳元では苦しげな声が聞こえてくる。
「うっ、くそ!
😀小動物中の小動物みたいな顔して……こうしてやる!」
🤖「ひゃッ!?︎……ちょっと!!︎ やめてくださ……ッ!」
「ははは、やめないよ」
「ほんとうに、もう……ッ! 離せぇ!!」
「痛ッ!?︎」
イソップは必死
😀にその爪をガリガリとノートンの被毛へ立てた。鉄分を含んだ容易に木を砕く黄色い前歯を何度もノートンの顔めがけて振りかざす。しかし決定的な抵抗にはならず、悲しきかな、モフモフとその貧相ではあるがしっかりとした毛並みの腹をモッフモッフされるがままであった。羞恥に震える。
「くっ……この僕がお腹をモフられるなんて……!」
以下🤖「は、恥ずかしい? はは、今更だよ」
「ふざけないでください! あなたなんか、あなたのことなんて、全然怖くありませんから……ッ!」
「はいはい、そうですか」
ノートンは適当にあしらった後、ゆっくりと立ち上がった。そしてそのまま小屋から出て行く。扉越しに鼻歌を歌いながら歩き去っていく音が聞こえる。
(なんなんですかあの人は……)
イソップは床に転げたまま、呆然と天井を見上げていた。しばらくするとだんだん怒りが込み上げてきてしまう。
(あんな奴と同室だなんて……最悪ですよ……)
それから数日間、イソップとノートンはずっと喧嘩ばかりしていた。
イソップは相変わらず他の生徒とは距離を置き、一人で過ごしていた。だがノートンの方は毎日のようにイソップのところへとやってきた。
最初は無視していたが、次第に鬱陶しくなってきた。ある日、とうとう耐え切れなくなったイソップはついに口を開く。
「……なんなんですかさっきから! 僕のこと嫌いなら話しかけなければいいじゃないですか……!」
「はぁ? 僕は別に君のことが嫌いなわけじゃないよ。ただ気になるだけだ。君、本当にチモシー食べているのかい?」
「うるさいなぁ、さっきも言ったでしょう? 僕はチモシーを食べる必要がないんですよ……」
「でも、おなか空かない?」
「そりゃあ少しくらいは空きますけど……」
「ほらやっぱり。じゃあ食べなよ」「えぇ……」
イソップは困惑しながら、手渡されたチモシーを見つめた。確かに自分はチモシーを食べなくても生きていけるし、チモシーを食べることは生きていく上で必須ではないのだが……。
「まあまあいいじゃん。とにかく僕は君が心配なんだよ。君、痩せすぎだし」
「……余計なお世話です。ほっといてください」
「うん、ごめんね」
そう言うと、チンチラのノートンはイソップの隣に座り込んだ。そしてチモシーの袋を開けると、イソップの方に押し付けてきた。
「はい、どうぞ」
「えっ……」
「僕には必要ないものだからね。あげる」
「…………」
「僕、君と仲良くしたいんだ」
「……あなたって、変な人ですね」
「そうかもね」
イソップはそのチモシーを受け取った。それを口に運ぶ。もしゃもしゃと咀しゃくすれば、独特の香りが口いっぱいに広がる。美味しい。「……おいしい」
「良かった。たくさん食べるといいよ」
「……はい」
イソップは素直に返事をした。
その日から、チンチラのノートンは毎朝必ずイソップのところに訪れてはチモシーを渡してくるようになった。イソップはチモシーを齧りながら、それを無言で受け取る。会話らしい会話などはない。しかし、不思議と居心地の悪さはなかった。むしろ心が安らぐような感覚だった。
イソップがチンチラのノートンに懐くようになるまで、時間はかからなかった。
「……おはようございます」
「ん、おはよう。今日も良い天気だねぇ〜」
「そうですね」
「……イソップくん、その服かわいいね」
「ありがとうございます」
「……ふぅ〜、お風呂気持ちよかったよ」
「それは良かったです」
「……あのさ、イソップくん。明日、僕と一緒に寝ようよ」
「嫌ですよ。暑苦しいのは苦手なので」
「そんなこと言うなって。寂しいじゃないか」
「知りません。僕は一人が好きなので。……あ、そろそろ授業の時間だ。行きましょう、ノートンさん」
「う、うん……」
イソップはノートンを連れて部屋を出た。教室に向かう。廊下を歩いている途中、後ろから誰かに肩を叩かれた。振り返ると、そこには見慣れない顔があった。
「やぁ、初めまして! 俺はイライ・クラークっていうんだけど、君は?」
「……イソップ、カール」
「へぇ、イソップくんだね。よろしく」
「……はい」
「俺、君と同じ一年生なんだ。今度一緒に遊ぼうよ!」
「……考えときます」
「あはは! またねー」
イソップは立ち去っていく男を見送った。
(誰だろう……?)
イソップは首を傾げた。
***
「……でさぁ、その時ナワーブが言ってたんだよ。『お前は猫か』って」
「ぶはっ! はは、それ最高じゃん!」
楽しそうな笑い声が聞こえてきてイソップは足を止めた。教室の扉の前で中の様子を伺えば、男子生徒たちが集まって談笑している。その中に、よく知った顔を見つけた。
(あれは……チンチラのノートンさん)
イソップは物陰に隠れながらその様子を眺めていた。何の話をしているのか分からないが、楽しげな雰囲気であることだけは分かる。
「……なにやってるんだろう……」
イソップはそのままその場を離れた。
「ねえ、ちょっといいかな?」
数日後、イソップはチンチラのノートンに声をかけられた。
「……なんです?」
「君、僕のこと避けてるよね? どうして?」
「別に……」
「嘘つき」
「……」「僕たち、友達になったんじゃなかったのかい?」
「…………」
「あ、わかった。照れてるんでしょ?」
「違いますよ……」
「えぇ〜、ほんとかなぁ〜」
「しつこいですね……」
「ごめんね」
「……」
「でもさ、本当に仲良くなりたいんだよ。僕は」
「……」
「ねぇ、だめかな?」
「分かりました……。わかりましたから、離れてください」「やった!」
チンチラのノートンはイソップの手を掴むと、そのまま自分の腕の中に引き寄せた。
「わっ!?」
「ふふ、捕まえた♡」
「な、なんですか……」
「だって、君逃げるんだもん」
「逃げてません」
「そう? じゃあ僕と仲良くしてくれるんだね?」
「えっ……」
「ね、お願いだよ」
「う……」
「ね、イソップくん」
「……仕方がないですね」
「本当かい!?」
「はい……」
「嬉しいなぁ〜」
「あの、ノートンさん」
「ん〜、どうしたの?」
「……近いです」
「えっ、そう? いつもこんな感じだけど」
「……はぁ」
イソップはため息をつくと、諦めてされるがままになっていた。ノートンに抱きしめられる。背中に回された手が優しく撫でてくる。イソップはその心地良さに目を閉じた。
「……ノートン、さん」
「ふふ、可愛いね」
「うるさいですよ」
「ねぇ、キスしてもいい?」
😀それを聞いたチンチラのイソップは途端にその可愛らしい丸い耳を真っ赤にさせた。
マット調で薄桃色のリップから焦っているのかぺろぺろと真っ赤な舌を左、右と前歯を避け出している。蛇のようであった。
🤖「き、急に何を言って……っ」
「ふふ、冗談だよ」
「……っ、もう!」
「あはは、ごめんね」
チンチラのイソップはノートンの腕の中から逃げ出した。そして、イソップは走り出す。
「あ、待ってよ! 置いていかないで!」
イソップを追いかけるようにノートンも走る。イソップは逃げた。必死になって逃げた。しかし、イソップは体力がなかった。すぐに捕まることになる。
「はぁ、はぁ……」
「つっかまえた」
「……離してください」
「嫌だ」
「どうして……」
「言ったじゃないか、君が好きだからだよ」
「……僕は男ですよ」
「知ってるよ」
「分かってないじゃないですか……」
「そんなことないよ」
「どうして……」
「好きだから」
「……」
「君のことが好きなんだ」
「……はい」
「うん」
二人は見つめ合った。イソップは恥ずかしくて俯いた。ノートンはイソップをぎゅっと抱き寄せる。「……苦しいです」
「ごめんね」
「いえ……」
「ねえ、イソップくん」
「はい……」
「キスしても、いい?」
「……」
「だめ?」
「……ダメって言うと思ってるんですか」
「えっ?」
「好きにしてください……」
「……いいの?」
「はい」
「ありがとう」
ノートンがイソップに顔を近づける。イソップはそれを受け入れようと目を閉じるが、ノートンはイソップの唇に指を当てた。
「……なんですか」
「まだだめ」
「どうして……」
「僕がしたいから」
「なにそれ……」
イソップはクスリと笑った。ノートンはイソップの頬に触れる。
「イソップくん……」
「ノートンさん……」
「ねえ、イソップくん」
「なんです?」
「僕、君のことが大好きなんだ」
「……」
「僕の恋人になってくれるかい?」
「……」
「答えてよ」
「僕なんかでいいなら……」
「ほんと?」「えぇ……」
「僕、君がいないと生きていけないよ」
「それは困りますね」
「ねぇ、愛してる」
「……」
「ずっと一緒にいてね」
「……」
「イソップ」
ノートンはイソップの手を握りしめると、そのままイソップをベッドに押し倒した。イソップが驚いているうちにノートンはイソップの上に馬乗りになる。
「あ、あの……」
「ん〜? なぁに」
「ど、どいてください」
「やだよ」「どうして……」
「こうしたかったんだもん」
「ちょっ……まっ……」
ノートンはそのままイソップの顔に自分の顔を重ねると、そのまま口づけをした。イソップの抵抗など気にせず、舌を絡ませてくる。イソップは呼吸の仕方を忘れてしまい、酸欠になった。ノートンはイソップの口を塞ぐように何度も角度を変えてキスをする。
しばらくしてようやく解放されると、イソップの目には涙を浮かべていた。ノートンは満足そうに笑うと、その瞳に浮かんだ雫を拭う。