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    seriserika_22

    @seriserika_22
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    seriserika_22

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    上耳
    合宿襲撃後、耳郎ちゃんが8月1日に目覚めていたら……という妄想です
    お誕生日に書こうとして諦め、寝かせてあったものを引っ張ってきた

    ##二次創作

    夏のまんなか意識を取り戻して、まず視界にあったのは真っ白な天井だった。雄英の保健室よりももっと強い消毒のにおい。目にかかった髪をよけようと手を浮かせても、点滴の管に阻まれる。電子音が一斉に鳴り、看護師さんらしき人たちがバタバタと走ってくる。
    ……あ、そうか。脳みその奥からだんだんと記憶が蘇ってきた。くらい森でガスに倒れた、あの夜のこと。
    葉隠やヤオモモ、A組のみんなの姿が脳裏に焼き付いている。心臓のあたりがきゅうと苦しくなった。みんなは、みんなは?ウチは無事に助かったみたいだけど、みんなは大丈夫だったんだろうか。

    そのとき、突如ガラリと扉が開いた。
    「耳郎!!」
    機械音やら足音やらで騒がしい病室に、聞き慣れた声が響いた。白衣の群れに紛れて、Tシャツ短パンの男が一人、ドアに立っている。
    ……上鳴。
    こっちをガン見してる。
    「起きてる……!」
    上鳴はそう呟くやいなや、おもむろに姿勢を崩しおいおいと咽び始めた。
    一瞬にして思考が日常に戻る。アイツ、完全に看護師さんたちの動線を邪魔してる。退けと言おうとしても、喉が掠れてうまく話せない。それよりもなによりも、
    「……ないでよ……」
    「え?耳郎なんか言った!?」
    上鳴が病室に片足を踏み入れた。ちょっと、本当に、待って、ねえ!
    「はいはい、彼氏?ちょっと待っててね~」
    「あーー!看護師さんー!ちょっと待っ」
    叫び声もむなしく、上鳴は看護師さんに首根っこを引っ掴まれて連れて行かれた。心の中で、ほっと胸を撫で下ろす。
    脇で血圧を測っている看護師さんが、彼氏くん?とにやにや尋ねてくる。精一杯の苦笑いをして首を振った。
    叫びそびれて不完全燃焼だ。──まだお風呂も入ってないのに、勝手に入ってこないで!



    諸々の検査が終わり、ようやく一休みできる。上鳴はやっと部屋に入る許可をもらえたらしい。横の椅子に腰かけて、まだぐずぐずど目元を擦っている。ウチだって嬉しいはずなのにどこかむず痒くて、上手く笑えない。
    「あ~、上鳴……久しぶり」
    「久しぶり、じゃねえよ!どんだけ心配させたんか……よかったよマジでぇ、目ェ覚ましてぇ、もうこのまま、目さめなかったらって……」
    「はい、ありがとありがと。大袈裟すぎ」
    「……耳郎んとこ、親は?」
    「さっき連絡してもらって、もうすぐ着くってさ」
    「そっかあ、じゃあ俺それまで居ようかな」

    枕元にものすごく大きなメロンが置いてあった。めちゃくちゃ高そうだし、ヤオモモがお見舞いに来てくれたのかな。……てことは、ヤオモモは無事だったのかな。
    「ねえ上鳴」
    「ん?」
    「他のみんなは無事だったの?」
    上鳴が大きく目を見開いた。未だこぼれ続ける涙を慌ててぬぐい、ジーンズで手を拭いている。
    「あ~、っと」
    「うん」
    「……」
    上鳴が口ごもる。なんだか、そこまで分かりやすくしなくてもいいのに。胸がちくりと痛い。
    「俺からは教えるなって、言われてるから。ごめん」
    思いのほかキッパリと上鳴は言った。
    「……駄目なの?」
    「うん。多分あと少しで先生……相澤先生来るから、教えてくれる、はず」
    ぽつぽつと上鳴が話す。にがいものを飲み込んだ時みたいに、表情が固く落ち込んでいる。
    「テレビも見ない方がいい?ラジオも?」
    「……それは……、見たいなら、見てもいいと思うけど。俺はあんまり見て欲しくない、かな」
    上鳴がこちらを向くと、丸椅子がリノリウムの床にキィと擦れた。
    日差しが白いシーツにきらきらと反射する。少しだけ、緩やかな沈黙があった。
    「わかった」ウチはゆっくりと頷いた。
    「でも耳郎、ただ、ひとつさ」
    「ん」
    「みんな、すっげーー頑張ったんだよ。すっげーー怖かったけどさ、立ち向かって」
    「うん」
    知ってる。言われなくても十分に信じている、みんなが紛れもないヒーローだってこと。

    今はただ、これだけ。
    「上鳴は優しいね」
    「うぇ?」
    素っ頓狂な声に少し吹き出してしまった。「だって、一番に会いに来てくれたじゃん」
    上鳴が頭を掻いた。金髪の毛先がひかる。
    「俺だけじゃねぇよ?みんな毎日心配してたわ」
    「でもすぐに駆けつけてくれたよね? ちょっとウケた。病院に張り込んでたの?」
    ウケんなよ、と上鳴が頬を膨らませる。
    「まあ、今日だけ……。だって、もし今日起きて誰もいなかったら、耳郎さみしーじゃん」
    「は?どういうこと」
    ウチが首を傾げると上鳴はすこしぽかんとして、それから呆れたように呟いた。
    「そりゃお前、今日誕生日じゃねーの」
    「え?……あ、そっか!」
    くるりと体をねじる。後ろの壁にかかっていたカレンダーは、たしかに真新しい8月のページだった。完全に記憶から抜け落ちていた。
    「……今日、ついたちだったんだ」
    「お前忘れてたのかよ自分の誕生日」
    「だってそれどころじゃないでしょ」
    はあ、と上鳴が息を吐く。
    目尻がわずかに赤い。そう言えば上鳴は、ウチのために泣いてくれていたのだ。
    「……おめでと」
    その短い四文字は、とてもとてもやさしかった。
    「ありがと」
    微笑んだつもりが、頬が力んであんまり上手く笑えなかった。ウチは軽く伸びをする。
    「みんなに会いたいな、A組みんなに。早く会いたい」
    上鳴が「俺も」とつぶやく。膝に置かれたその手がぐっと握られていることに、ウチは何となく気づいていた。
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