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    koshikundaisuki

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    12/7 影菅アドベントカレンダーチャレンジ

    パジャマ朝5時。アラームが鳴る前に目が覚めた俺は、そのままウェアに着替え、隣の部屋で眠っている菅原さんを起こさないよう、音を立てずに部屋を出た。
    しかしその気遣いは無用のものだったと知る。リビングのソファには毛布に包まりだるまのようになった菅原さんがいたのだ。

    「どうしたんすか、こんなに早く」
    「なんか最近眠りが浅い……疲れてるし、体はダル重なのに……」
    「大丈夫ですか」
    ソファでごろ寝する菅原さんに近付き、体に触れる。毛布に包まれているのに、全体的にヒヤッとしていた。
    「寒い?」
    「うーん、確かに……最近冷え性か?ってくらい体冷たい」
    入れた柚子湯をクピクピと飲みながら、時々体を震わせているので心配になった。暖房をつけて部屋を温めた後、寝直すことを提案する。
    「でもあと1時間で起床時間だしなぁ……」
    「1時間だけでもだいぶ違うから。教師なんて体力勝負でしょう」
    「かげやま、起こしてぇ……」
    「わかった」
    毛布ごと横にして寝かせると、いつも通り、外へ走りに出た。

    家に戻ると、ちょうど起床時間だったのでソファでうつらうつらしていた菅原さんを起こした。菅原さんは朝食を摂り、顔を洗って「オッシャァ!」「オラァ!」と奇声をあげると家を出て行った。






    その日は朝から東京に移動し、スタジオで一日CM撮影というスケジュールだった。何度も何度も同じ台詞を繰り返し、パターンを微妙に変えたバージョンを撮られ、スチール撮影もされた。
    慣れない仕事にどっと疲れが出る。一日練習試合をした日でもこうはならない。撮影終了後、さっさと帰ろうとする俺にクライアントらしい女性が声をかけてきた。らしい、と言ったのは関係者をきちんと全員把握できていないせいだった。
    「本日はありがとうございました。年内はこれで最後になると思いますが、来年も引き続きよろしくお願いいたします」
    「こちらこそ、よろしくお願いします」
    ペコリと頭を下げると、女性が両手で持っていたショップバッグを手渡してきた。顔を近づけ、声のトーンを落としてこそっと囁きかけてくる。
    「少し早いですが、弊社からクリスマスの贈り物です。……影山さん、前に彼女さんいるってお話しされてましたよね?モデルさんでしたっけ?違ったかしら」
    まるで覚えがなかったこともあり、「はぁ」と気の抜けた返事をしてしまう。
    「弊社とコラボしたデザインなんです。ペアでご用意したのでよかったらお召しになってください。この季節にぴったりだと思いますよ」
    ニコニコと微笑まれ、今更「彼女ではないので」とも言えず、頭を下げて受け取るしか選択肢はなかった。スタッフに「影山さん、新幹線のお時間が」と急かされ、俺はそのままスタジオを後にした。
    毎度このブランドのCM撮影は手厚いのだが、今回も手土産や新幹線の中で食べるおやつなどを手渡され、両手が塞がったまま帰路についたのだった。






    遅くなるので先にご飯食べててください、とLINEを送るとサムズアップの絵文字とアド郎の風呂スタンプが返ってきた。
    おそらく風呂も先にいただきます、の意だろうと思って玄関の扉を開けると、案の定風呂場から鼻歌が聞こえてきた。
    テーブルの上にはラップがかかった生姜焼きが用意されている。一通り片付けをしてからレンジで温めて生姜焼きを食べていると、菅原さんが「お、おかえり〜」とご機嫌な様子で出てきた。
    「ただいま」
    「今日のアドベントカレンダー、入浴剤だったから早速使っちゃった。楽しかった〜」
    「よかったです」
    「もうただの色水だけど。俺ばっか楽しんでごめん」
    「いいです、菅原さんが楽しければ」
    「これ出てきた」
    テーブルに置かれたのはソフトクリーム(の上の部分)みたいなマスコットのおもちゃだった。
    「光るうんこ」
    「菅原さん、そういうの好きでしょう」
    「俺、うんこ、好き」
    菅原さんは椅子を引いて俺の隣に腰掛けると、うんこのおもちゃを虹色に光らせた。
    「めっちゃエレクトリカルうんこ」
    「菅原さん、俺今ご飯中です」
    「風呂場の電気消して長く浸かってしまった」
    少しのぼせ気味な様子で、菅原さんはごくごくと麦茶を飲んでいる。予想の5倍は楽しんでもらえたようでよかった。それに近頃忙しさを理由にさっとシャワーを浴びるだけだったので、いいタイミングだったかもしれない。

    「どうだった撮影。今回もなんかいろいろ貰ってかえってきたな。あれ、なんか見慣れない紙袋ある」
    「それ、俺と菅原さんにって」
    「え?俺?俺のことなんか話したことあんの?」
    「思い出したんですけど、雑談で恋人との理想の身長差みたいな話題振られてその時になんか……話したのかも……?」
    「すげえ曖昧だな……なんだろ?開けていい?」
    「どうぞ」
    パステルカラーの薄い水色の紙袋にはリボンのかかったボックスが入っていた。菅原さんはそれを丁寧に解くと、箱を開けた。
    「おお、パジャマだ」
    覗き込むと宣言された通り、色違いのペアのパジャマが入っていた。パジャマと言っても自分が今まで見てきたものとは違う。やたらゴワゴワして見える。
    「俺これ知ってるわ。生地がもこもこで気持ちいいんだよな。デザインも可愛いし、若い女の子に人気らしいよ」
    「へぇ」
    「ペアパジャマなんて照れるな〜。こっちが影山のだよな。ってことは俺がこっちか。着てみていい?」
    「ふ、……はい、どうぞ」
    菅原さんはその場でもこもこした寝巻きを身につけていく。確かに可愛い。上も下も着替えて、菅原さんはクルリとその場で回りながら「どう?似合う?」と言う。
    俺は笑いを堪えながら「可愛いです」と返した。
    箱に詰められていたのは男性用のグレーを基調にしたものと、おそらく薄いピンクの、おそらくは女性用のパジャマだった。
    雑談の時に身長の話をしたのを覚えてくれていたのだろう。サイズは確かにぴったりだった。モデルだと勘違いされていたのも、女性にしては身長が高いと思われたせいだったのかもしれない。紙袋を手渡してくれた女性の顔を思い出す。流行に敏感そうな人だった。だから、寝巻きのデザインも今一番売れてるとか、オシャレだとか、そういった観点から選んでくれたのかもしれない。菅原さんの太ももは、剥き出しだった。

    「脚、めっちゃ寒い」
    仁王立ちで決める菅原さんが履いているのは、バレーのユニフォーム並みに短いパンツだった。
    「完全に女だと思われてますね」
    「ま〜そりゃそうよな……てか女の子は冬でも短パンで寝るもんなの?寒くねぇのかな」
    自らの足を摩りながら、菅原さんは首をかしげた。一緒に入っていたらしい大きなリボンのヘアバンドもつけて見せた。
    「これ顔洗う時に便利だわ」
    「よかったです」
    「せっかくだからこのまま寝よ」
    そのままクルリと背を向ける菅原さんを呼び止めた。
    「軽くマッサージさせてください」と。

    「え?お、俺の太ももにムラムラした……?」
    「まだしてないです。朝体冷たかったから、血の巡りが悪いんじゃないかと思って」
    「いやいや、アスリートにそんなことさせるわけには」
    「ストレッチするだけでも」
    リビングにマットを敷くと、菅原さんは大人しく横になってくれた。軽く体を伸ばし、脚を中心にケアをしていく。
    「短パンでよかったな……?」
    体が温まって眠くなったのか、寝ぼけ声でボソボソと菅原さんが言う。
    「そうっすね。やっぱ直の方がやりやすいんで」
    「ムラムラした……?」
    思わず苦笑しながら「しました」と返す。
    「でも下は長いやつ履いたほうがいいですね」
    「ねむ……」
    引き出しから元々持っていたジャージを出してやると、ゆっくりと下を履き替える。
    「もうねむいから寝る……マッサージありがと」
    「おやすみなさい」
    「ムラムラしたところなのにごめんな」
    「残念です」
    脱いだ短パンを預かり、部屋へ送り出す。風呂に入った後、部屋の様子を伺ったが規則正しい寝息が聞こえるだけだった。



    翌朝、菅原さんは起床時間ぴったりに起き出し、「マッサージのおかげか風呂に入ったのがよかったのかモコモコパジャマが良かったのかわかんねえけどすごく寝られた」と嬉しそうに言った。
    「それはよかった」
    「でも影山がおそろで着てくれないのが不服なんだが」
    「慣れない生地だったんでちょっと……」
    「恥を忍んでこんなにガーリーなパジャマを着た俺の身にもなれ」
    「すみません。……今日着ます」
    「よし、それ着て一緒に写真撮ろうな」
    菅原さんはパーカーこそモコモコで可愛かったが下は烏野の指定ジャージ姿だった。
    「その格好でですか?」
    「写真撮るときはちゃんと着替える。つーかコレあったかくて気に入ったから新しく買おうかな。長いやつ」
    そう言ってパソコンを立ち上げ、ショップを覗いていた。
    「予想外に高え」と悲鳴をあげていたものの、落ち着いた色合いのものを何着かカートに入れているのが見えた。
    俺はなんだか、広告戦略というか、世間の仕組みみたいなものを垣間見てしまったような気がした。

    終わり
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